手織り真田紐のこと(五)懸命に繋ぐ技術
一、二、三、四、
トントン、トントン、
そよ風と鳥の声に軽やかな機音が重なります。
様々想いを巡らせながら手を動かすも気付くと無心になり
いつまでもいつまでも織り続けていられる。
「おかあさん、今日はこれで終りね」
幸さんのお仏壇に声をかけて仕事を切り上げます。
早朝から深夜まで毎日根詰めて織機に向かう母の背中を見て来た操さんは
作業は9時から17時までと決めています。
「あれ?おかあさん、ここどうするんだっけ??」
織り進めた紐と見比べながら、今も幸さんに教わっています。
操さんが市松の真田紐を織り上げたその日
丁度幸さんの誕生日でした。
道具のこと
糸を決めたら、庭に出て染め作業をします。
結局これがやりやすいと、パチパチ火の音を聴いて調節します。
今も薪を焚いての手染め作業です。
一週間ほどの染作業の後は、真田紐専用の長い整経台に糸をかけて
色調を整えます。
「糸繰は4つ同時にできるものもありますが、微調整のしやすさを考えると結局1枠ずつやる方が糸の様子がわかるのでいいんです」と操さん。
" いっぺんにやった方が早いのに " 幸さんに言われていたけれど…
織機は持ち運びできるようにと小さめに作られた幸さんのものが中でも新しいですが、操さんは「こっち(70年以上前の織機)の方が織りやすいんです」と、筬に糸を通します。
動きつづける時計の針
おかあさん、もう真田紐やめようよ。
何度言ったかわかりません。
糸染から織り上げまで、どれほどの手間と時間がかかるか
幾らにもならず、高いと言われ
御代をいただけないこともあった。
この仕事は社会に認めてもらえないんだと。
それでも真田紐に育ててもらいました。
ただただ感謝です。ありがたいです。
だからこれからも感謝の気持ちで織り続けます。
日本の技術を繋いでくださった操さんがそう仰いました。
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