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魂がIndian Accentへ飛んで行った 独創的過ぎる究極の一皿

Japanese Spice Curry Wacca, Tokyo

大阪でイタリアンバルのメニューの一部として出していた創作スパイスカレーが評判を呼び、ぴあMOOK「究極のカレー」でグランプリを受賞。昨年末、八丁堀に移転してきたという。

東京都中央区八丁堀。鳥瞰すると、西方を皇居、東方を隅田川に挟まれ、四方を京橋、日本橋、銀座、築地に囲まれたこの一角とその周囲には、綺羅星のようなインド料理とジャパニーズカレーの名店が集積している。ダバインディア、アーンドラダイニングをひときわ大きな一等星とし、ダクシン、グルガオン、アムダスラビー、デリー、ロダン、カリーシュダなどがおおぐま座のように輝く。大阪でカレー名店の地位を確立した腕に覚えのあるシェフが、東京でここに転戦したとなれば、行かないわけにはいかない。

初めて伺った時、ラムウプ、無水チキン、出汁カレーを盛り合わせた「トリプル」を頂いた。料理が出てきた時、まずそのビジュアルの美しさと斬新さに目を奪われた。こんもりと中高に盛られたラムウプと無水チキン、その谷間に湖のように湛えられた出汁カレー。これらが三位一体となって、ジョン・コンスタブルが描く英国の秋の田園風景のように、しっとりと落ち着いたブラウン系の色合いを呈している。無水チキンは煮込まれた肉の繊維が美しく解れ、風にそよぐ糸杉のようだ。

コンスタブル ハムステッド

他方その一角に添えられた副菜。胡瓜とトマトのカチュンバル、キャベツのポリヤル、大根のアチャールが、MOMAの人気作品ロベール・ドローネーの抽象画を彷彿とさせる別次元の色彩を放っている。

まずスープ状の出汁カレーを一口食べてみる。細かく磨り潰されたチキンのグレービーに、鰹出汁の香りがふわっと広がる。見た目カレーで香りが和。口当たりよく非常に美味だが、蕎麦つゆの香りがする魚介出汁のラーメンを食べ慣れている日本人なら、さほど驚かない味だ。

しかし、次のラムウプが凄かった。元々チェティナードのスペシャリティであるウプ(塩)カレーが好きで、インド料理店で毎回注文し同行者に呆れられている自分だが、このラムウプのレベルには暫し言葉を失った。ラムの野趣味が香り、しかも上品なまろやかさが有る。表面を焼き固めてから煮込んだのだろうか。羊肉の香ばしさとジューシーな柔らかさが両立している。そして、このラムウプを先ほどの出汁カレーとライスと一緒に頂くと、イタリアの中東レストランで食べるラムの煮込みクスクス添えのような、エキゾチックでハイブリッドな世界が突然そこに展開した。

驚きはそこで止まらない。カレーに添えられた色鮮やかなカチュンバルは、レモン、玉ねぎ、スパイスと酸味、辛味、苦みを前に出し、結構難易度の高い味だ。ターメリックとマスタードシードをまとった大根のアチャールも一癖ある。これら個性の強い副菜を三種のカレーと一緒に食べると、異質な方向性の味が突然共鳴し、止まらない美味しさになる。こうした味のマリアージュが出現するということは、カレーの中に副菜と同じ方向性のスパイスが入っているのだと思うが、カレー単体で食べた時には余りスパイスの存在を感じない。なのに、組み合わされた瞬間に引き出され、鮮やかな輝きを放つ。驚いた。

日を改め、週末限定の蟹出汁と本鮪のカレーを出すという土曜のランチに出かけた。開店直後に到着したが、既に20人余りが並んでいる。noteブログをフォローしているカレーインフルエンサーの方の姿もあった。

注文はもちろん、お目当ての蟹の出汁カレーと本鮪。これもビジュアルのインパクトが凄い。なみなみと湛えられた蟹出汁カレー。そこに艶やかな本鮪の天身がたっぷり添えられ、雲丹とイクラがトッピングされている。

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まずは蟹出汁のカレー。深い味わいだ。厳選し抜いた素材を、確かな腕をもつ調理人が手間をかけて仕込んだことが感じられる。香港福臨門の上湯泡飯を彷彿とする。次にスパイスでマリネしたという本鮪の天身を頂く。一口目で、これは天身を使っているところがポイントだと思う。多すぎず少なすぎない脂身を孕んだ本鮪が、上質な醤油の風味を含んでしっとりとしている。そこに重なるフェンネルやコリアンダーが、遠くで鳴る小さなシンバルのように煌めいている。この味、何処かで味わったことがある。ニューデリーのIndian Accentだ。

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Indian Accent。卓越したフレンチの技法を持つシェフが、フレンチをベースに、インドのスパイスをその店名のとおりキラリと効かせて紡ぐメニューは、ビジュアルの美しさ、単なるハイブリッドの域を超えた味の独創性でニューデリーの美食家の間で絶賛され、予約が取れない。

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当時ニューデリーで勤務していた私は、評判に憧ればかり募って行ったことがなく、離任までには一度は行きたいと願っていたところ、某ファッション雑誌のトラベルコラムを連載しているジャーナリストの友人が誘ってくれ、漸く行くことができた。あの日頂いた、一生記憶に残る美味のパレードの中に、鮪に日本の醤油の香り、フェンネルとコリアンダーのアクセントを効かせた極めて印象的な一皿があった。

「おひや、お注ぎしましょうか」お店の方の声で我に返った。そして、このIndian Accentが煌めく本鮪のマリネ、蟹の出汁カレーの合わせ技を堪能した。世界レベルの実力のお店だと思う。次にどんなメニューが出てくるのか。楽しみで仕方がない。

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