
SNSは悪い影響を与えるのか?SNSと心理研究の今
どれだけ人生、自分自身、我々を取り巻く世界について理解していないかに気がついた時、我々一人一人に英知が宿る
古代ギリシア哲学者、ソクラテスの名言の一つです。ソクラテスは当時の物事を書き記すという当時の新しい習慣を嘆き、記憶力を弱めることを恐れたそうです。いつも新しい技術というのは人々に恐怖を感じさせるのです。
今回は今、私たちを取り巻く新しい技術であるソーシャルメディア(SNS)が私たちにどのような影響を与えるかを解明すべく尽力している研究者たちのお話です。
2020年4月に「スマホ利用と心の健康」という記事が掲載され、SNSが若者に悪影響を与えるのかどうか?が議論されています。その内容を少しまとめておきましょう。
—————
◇ SNS悪者説の始まりは1報の論文から
携帯電話が使われ始めたのは1990年代。2018年にはアメリカで成人の95%が使用しています。2007年にスマートフォンの始まりであるiPhoneが発売され、現在75%以上がスマホを所有し、そのうちの9割程度の人がインターネットを利用しています。SNSを使う人の割合は、2005年から2019年の15年間で5%から72%と劇的に増えました。
SNSとその影響に関する研究が開始されたのは2006年。その当時の研究手法に限界があり、実際に起こっていることとかなり乖離した結果が得られています。そして、2017年SNS悪者説を一般的広めるきっかけとなる論文がAtlantic誌に掲載されました。(サンディエゴ州立大学 Jean M. Twengeの研究)
彼女は研究で、1995年から2012年の間に生まれた人たちに精神衛生上の問題が急増していることを指摘し、その悪化の大部分はスマートフォンの利用に由来すると考えられると主張しました。
この研究は多くのSNS研究者の批判の対象となっています。なぜならば、科学を置き去りにしており、「因果関係を示す証拠を持つべきである」と考えているから。
でもこの「因果関係を示す」というのは非常に難しく、きちんとした問いの立て方、適切な手法を選ばなけらばならなず、腰を据えて注意深く研究を行わなければならないというのがSNS研究者たちの今持っている結論です。
◇ 同じデータセットから違う結論を導かないために
「心の健康」と「ソーシャルメディア(SNS)」との関連を比較するには縦断研究が最良の方法で、解析には統計学的手法(メタ解析)を用います。
オックスフォード大学のOrbenとPrzybylskiは大規模データ解析に関する落とし穴を報告しています。
今、アメリカの35万人を超える若者に関するデータセットが3つあります。この解析を標準的な統計処理手順に従った場合、同じデータからデジタル機器使用が悪影響を及ぼすという論文が1万篇、影響がないとする論文が5000篇、良い影響を及ぼすという論文が4000篇書けると言うのです。(2019年1月 Nature Human Behaviour誌に掲載)
同じデータセットから複数の結論を導かないために、スペシフィケーション曲線解析という手法(可能性のある相関関係を一挙に全て調べる手法)を導入して解析した結果、デジタル機器の使用が若者心理的健全性に及ぼす影響は全体の0.4%でした。(十分な睡眠をとり毎日朝食を食べるという行動の方がデジタル機器の使用よりも心の健康に強く関連していたそうです)
◇ 実際を反映するための指標選び
今までのSNSと心の影響の調査で用いられていた指標は、「時間」。若者たちがSNSの利用にどれだけの時間を費やしているかが評価の対象となっていました。
SNSの使い方は人それぞれです。可愛い動物たちの画像を見ながら「いいね」をつける人もいるかもしれません、憧れのモデルさんのファッションや化粧の仕方を調べる人も、政治的な議論に参加して白熱している人もいるでしょう。
様々な使われ方をしているのに「時間」という一つの評価軸だけで良いのでしょうか?
そこで研究者たちは新たな評価指標を求めるために様々な試行錯誤をしています。今現在注目を浴びているのは「マインドセット」(スタンフォード大学院の学部生Angela Leeが考案)。2つの観点から評価する指標のようです。利用者が「SNSが自分にとって良いものだと思っているか?悪いものだと思っているか?」と「自分がSNSの利用を自分でコントロールできていると思っているかどうか」。
700人を調査した結果、「自分が自分のSNS利用をコントロールしている」という感覚が強いほど、うつを訴えることもなく、ストレスなどが少ないとのこと。
自分で自分をコントロールしているという感覚がSNSと良好な関係を結ぶのに重要なのかもしれません。新しいものを嫌煙する気持ちはわかりますが、うまく利用して活用していきたいものですね。
もう一つ、統計を使えば言いたいことも言えるようになってしまう恐ろしさを感じました。統計的に正しいか正しくないかは私たち一般の人は評価するのは難しいですよね。だからこそ、受け取った情報は50%くらいは正しいかも(残りの50%は間違っているかも)と言う感覚で受け取るのが良いのかもしれません。
子育ての観点から言うと、まだ「自分で自分をコントロールできる」状況にない時に無闇にスマホなどを与えない方が良いのではないかと改めて思いました。
それでは、また!
いいなと思ったら応援しよう!
