科学界は現実を見よう!生活は正常に戻らない
先週から、毎週土曜日はScienceのNewsを一記事読むことにしました。英語を読むトレーニングになれば良いと思っているのですが、1時間で読んで訳すのって結構大変...勉強になっているのでしょうか?
今回は、「科学界は今、正常ではないのだ!」(かなりの意訳)というタイトルでCOVID-19で世の中が落ち着いてきているけど、「正常ではない」ことを意識しよう!と言った内容の記事。この記事は5人の心理学研究者の共同執筆で書かれています。著者は全員アメリカ人。アメリカの科学者界が置かれている状況を知ることができます。実際に読んでみると、アメリカと日本では大分状況が違う印象。それでは、どうぞ。
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2020年、アカデミック(大学など)で働く研究者たちは不吉な学期の始まりを迎えています。COVID-19の詳細な検査と予防ガイドラインを作成して、学生のキャンパスへの復帰を歓迎している大学もあります。コロナの症例が急増したため、対面での授業をやめて、完全なオンライン授業をしているところもあります。あるエール大学の教授は7月1日に学生に向けて「私たちは皆、感情的にコミュニティーで蔓延している感染症に対して、そしておそらく死ぬかもしれないことに備えなければならない」とメールに書いています。(エール大学ニュースより)
問題はそれだけではありません。多くの研究者は、(アメリカで)現在進行中の人種差別問題やそれに伴う抗議活動、山火事やハリケーンなどの問題に取り組んでいます。
(大坂なおみ選手が「Black Lives Matter」という真っ黒なTシャツで一度は棄権した試合に出場したことが話題になりました)
現在アメリカ人の約3分の1が臨床的なうつや不安の症状があることが報告されており、精神衛生への影響についても見続けています。Juneとその同僚らは、最近エスカレートするメンタルヘルス危機をコロナの次の最大の課題と言っています。
私たちは、休暇がなくなったこと、育児の負担の増大、身近な人の病気による死、話すことが難しい人種差別など、精神的にも肉体的にも大変な思いをしてきました。また、研究室の研修生や学部生たちも心配です。アカデミックでも、そうでなくても(研究の)仕事市場は崩壊しており、私たちの同僚や学生の中には経費削減のためインターンシップや内定が取り消された人もいます。
◇ これは普通ではない!
新学期が始まると私たちは、サービスへ期待を詳細に記述したもの、緊急会議、新しい境域への期待、研究の中断に関すること、複雑な新しいポリシーに関してなど大量のメールを受け取り続けています。対面授業とオンライン授業のための柔軟な計画書を作成し、対面授業の安全性を確保して研究やサービスが通常通り行われることを期待しています。
この全ての変化が信じられないほど圧倒されることがあります。だからこそ私たちは、科学界は一歩下がってもう一度COVID-19パンデミックの間に期待を再調整する必要があると感じています。再開している大学もあるかもしれません。全ての不確実性の中で一つだけはっきりしていることがあります。
全てが通常の状態になるのは、何ヶ月も先になるかもしれない。(もし戻るとしたら)
自分自身と他の人たちへの期待を適応させるために、次の学期に直面するときのための3つの原則を提案します。
① 今の物事が正常ではないことを認めること
今は共感と理解の時。全てが正常であるかのように見せかけてはいけません。研究室は“通常通りの業務”に戻れるかもしれません。グループのメンバーと何が起こっているのか、きちんと話し合うことが重要です。Juneの前のコラムで書かれているように、自分自身のメンタルヘルスだけではなく、同僚のメンタルヘルスも支えることが不可欠です。
もしあなたが立場のある人であれば、研究グループの人に、これはストレスの多い前例のないパンデミックであること、仕事が遅くなったり、完全に延期しても構わないことを思い出させられるかもしれません。また、感染のリスクを低くするために(仕事の)延長やリモートワークを求めることを恐れている若手研究者を守ることもできます。
これらの問題を理解して、課題や講義、会議にできるだけ柔軟性を持たせるためEメールの署名やシラバスを変更することを検討して見てください。物事が正常ではないことを人々に思い出させる方法として、メールの署名を少し変えたり、自動返信メールを作成したりすることがおすすめです。例えば、Jayの自動返信メールでは、「コロナウィルスの感染拡大と育児大幅な負担増大のため、物事が正常に戻るまで私は睡眠や正気を削ってまでリクエストに応えることができません。」と書かれています。Juneは学生が直面するストレスの多い学期であることを明確に認識するために、彼女の講義ではCOVID-19対応のシラバスを作成しています。
私たちは、この危機的な状況について全ての人の経験を完全に理解することはできません。しかし、私たち自身の弱いところや課題を共有することで、議論の扉が開かれます。ほんの少しの共感や配慮でも、長い道を歩むことができます。
②育児などの個人のニーズを尊重すること
パンデミックから半年が過ぎた今でも、多くの親がフルタイムで働いて子どもの世話をしたり、勉強を教えたりする必要があります。(アメリカではベビーシッターを雇うのが普通)最近の研究では、この親世代が精神衛生上の苦痛の最も高いリスクがあるグループの一つであることを示しています。(特に女性が当てはまる)
著者たちは、小さな子がいてみんな同じような苦労をしてきました。比較的安定した柔軟な仕事をしているので、親の中でも恵まれた方だと思っています。私たちの苦労は最低ライン、より不安定な雇用状況にある科学者にとってこの状況はとっても大変なのです。
子どもを持つ学生や同僚に親切に、悩みを共有しましょう。柔軟な仕事計画、Zoom会議などでのカメラをオフにするオプションなどを提示してあげましょう。
③どのような仕事が本質的で合理的なのかトリアージする
2019年と同じように学生に対応しないようにしましょう。この激動の時期に何ができるか、何ができないかについて合理的に考えましょう。あなたの全てのプロジェクトのリストを作って見てください。
Jayは育児の負担が大幅に増えたのにもかかわらず、仕事が多く押し寄せてきたため、4つのプロジェクトから身を引き、他のプロジェクトを2021年まで延ばさなければならなくなりました。Juneは2人の子に家庭学習を受けさせている間は、メールの返信が遅くなるかもしれないことを研究室に知らせています。こんな状況ではどうしようもないことを断ることは恥ずかしいことではありません。実際に「No」は、あなたが優先順位の高い物事に集中して達成するための唯一の鍵になるかもしれません。
また、立場のある側にも柔軟性を持たせることをおすすめします。教員や大学の経営側は、学生やポスドク、その下で働く人たちへの期待を変えましょう。可能であれば、それぞれに置かれている立場に合わせた個別の締め切りを設けてあげましょう。
多くの人がこれまで以上に時間がなくなりストレスを抱えているのにもかかわらず、同じアウトプットを期待されることは、持続可能な解決策でも人道的な解決策でもありません。世界は正常ではないので、私たちの科学界のやり方も正常なやり方ではできないのです。
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アメリカと日本ではかなり状況が違うんですが、でも精神衛生への問題は同じなのではないかと思います。私は子育てしながら研究していますが、土日にどこか遠くへ行って遊ぶことはなくなりましたし、旅行も行けません。子どもたちに色んな経験をさせてあげたい時期なのに何もできない状況がもどかしく思うこともあります。
また、日本では4月から大学が始まって大学一年生は同学年の子たちと顔を合わせることなくオンライン講義...大学進学を期に新しい環境に入ってきた人もいるのにも関わらず、友達を作りにくい環境なのは精神面でとても心配です。そう言った学生さんたちをサポートするシステムがあると良いのですが...どうなんでしょう?
コロナによって世の中が変わっていること、元には戻らないことはきちんと理解して、自覚していかないといけないですね。変わることは怖いですが、変わらざるを得ない世の中になっているのでしょう。
それでは、また!
コロナの影響でオンラインになった学会に参加した話
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