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iPS細胞を作るときに使う「エピソーマルベクター」ってなに?
iPS細胞って作ったことありますか?細胞バンクから取り寄せて使っていて、自分で作る機会ってほとんどないのではないかと思います。私もまさか自分でiPS細胞を作ることになるとは思っていませんでした。
PIからiPS細胞を作ってくれと言われて、技術がある人に教えてもらいながら必死になって勉強しているところです。
今日はその勉強の一環として、わからなかった言葉を調べてみることに。
山中先生でお馴染みの京都大学iPS研究所(CiRA;サイラ)では、世界中の研究者に向けてiPS細胞を作るプロトコールを公開しています。
そのプロトコールの中には「エピソーマルベクターを用いてiPS細胞を作製する」というものもあります。
上皮細胞や血液の細胞に「山中因子」と呼ばれる細胞初期化因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を入れることで、細胞を初期化したものがiPS細胞です。
この「すでに分化しきった細胞が初期化する」ことを発見したので山中先生はノーベル賞を授与されたのです。
このCiRAのプロトコルにある「エピソーマルべクター」ってなんでしょう?普通の「ベクター」とどう違うのでしょうか?
iPS細胞の作製の歴史とともに、なぜ「エピソーマルベクター」が使われるようになったのか考えてみます。
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◇ どのように細胞に「山中因子」を入れるか?
2000年代初期。山中先生が体細胞から多能性細胞へと理プログラミングする因子を探索していたときに、世界中の研究者も同じような研究をしていました。
山中先生たちは最初にマウスをベースに研究をスタートします。候補遺伝子を「レトロウィルスベクター」を使って導入して検証していきました。
Fbx-15遺伝子を発現させることにより、多能性を持った幹細胞を体細胞から作ることができることを報告しました。
が、DNAのメチル化のパターンや一部の遺伝子発現のパターンが異なり、胚盤胞に注入してもES細胞のようにキメラマウスを作れなかった。(万能性ではない)
次にNanog遺伝子を発現させることにより作ったNanog-iPS細胞は、遺伝子発現パターンはES細胞に非常に近く、キメラマウスを作製でき、次世代にiPS細胞由来個体が生まれてきました。(万能性がある)
その後、UCLAのグループも「レンチウィルスベクター」を用いて初期化遺伝子を導入してiPS細胞を樹立しました。
しかしながら、レトロウィルスベクターやレンチウィルスベクターを用いるとゲノムDNAに遺伝子が取り込まれてしまうという問題がありました。
(ウィルス由来の遺伝子がどういうきっかけで活性化されるかもわからないし、導入しているのが癌化遺伝子でもあるので制御不能になってしまいます)
これでは医療応用ができません。
◇ゲノムにウィルス由来の遺伝子が入らなようにする技術
この問題を解決するために、レトロウィルスを用いずにiPS細胞を作る技術の開発が望まれました。
慶應大学の福田先生たちは安全性の高い「センダイウィルス」で遺伝子導入する方法を、他にも「アデノウィルス」や「プラスミド」を用いる方法も報告されます。
センダイウィルスベクター
センダイウィルスベクター(ベクターとして改良されたセンダイウィルス;SeV)は核に入らず細胞質で遺伝子発現をするため染色体に入ることはありません。また、ベクターとしての役割を終えたら速やかに細胞から消失します。
2011年には「エピソーマルベクター」を使うことでiPS細胞を安定的に作出できることが報告され、以降エピソーマルベクターやセンダイウィルスを使用してiPS細胞を作るのが主流となっています。
◇ エピソーマルベクターとは?
初期化のための山中因子を入れるときに、ゲノムに組み込まれないことが医療応用への一歩でした。
では「エピソーマルベクター」とはなんなのでしょう?
調べてみると...
導入する遺伝子が導入先の細胞のゲノムに組み込まれない非ウィルス性のベクター。自律的に複製するプラスミドなので、ゲノムに遺伝子を挿入することなく細胞分裂に伴って導入遺伝子が複製される。
とあります。
要はプラスミド自身が複製できる仕掛けがあるので、普通のプラスミドベクターと異なり細胞分裂に伴って減っていくことがありません。ウィルスのようにゲノムには取り込まれないという安全性も保証されています。
と夢のようなベクターであります。
でも、iPS細胞を使って何をしたいかというといろんな組織の細胞に分化させて使いたいわけです。
ずーっと発現し続けていたら困りますよね。ちょっと気になるのは、
① プラスミド自身が分裂する仕掛けはなんなのか?
② プラスミドは消失するのか?
①プラスミド自身が分裂する仕掛けはなんなのか?
山中先生が使ったエピソーマルベクターにはEBNA1遺伝子とoriP配列があります。
EBNA1タンパク質は配列特異的にoriPと結合します。EBNA1はoriPがある導入遺伝子を核に以降させ宿主のゲノムに結合して、ゲノムに組み込まれることなく転写を増強する働きがあります。
②プラスミドは消失するのか?
EBNA1とoriPシステムを使って宿主のゲノムの転写機能に相乗りする形で増幅するわけですが、ずっと発現され続けていたら困りますよね。
調べてみた範囲では積極的にプラスミドを取り除くということはどうやらしていないようです。
ある程度の期間は分裂して増殖できるけど、それほど強力ではないので時間と共に消失するということなのかもしれません。
山中先生がどうやってiPS細胞を作ってきたのか、少しだけ歴史を勉強できてよかったかなと思います。
世界中の研究者が同時進行的に、同じ研究を行って凌ぎを削っていた研究内容なんだと知って、改めて山中先生の凄さがわかりました。
私は高校生の時に万能細胞の魅力に取り憑かれて、流れ流れて今、幹細胞の研究をしています。
この先どんな発展があるのか、その基礎を作った山中先生や他の先生たちの研究も勉強してみます。
それでは、また!
参考文献
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