翻訳学習の勧め:ワンランク上の英語力を身に付ける
翻訳の仕事を引き受けるようになって今で3年目ですが、私がお引き受けする翻訳のほとんどが日英翻訳です。日本語から英語に翻訳する作業を通じて学ぶこと気付くことが本当にたくさんあります。翻訳学校に通っている時にも思いましたが、翻訳することは自分の英語力の向上につながると感じます。日本人が英語を書く・英語を話す、というアウトプットを行う際に何が課題となるのか、どうすればそれを克服できるのかというヒントが、翻訳という作業の中にあるという気がします。
英語から日本語に翻訳する場合は、まずは原文の英語をどれだけ正確に理解できるかということが問題になります。英語を読むスキル、インプット型のスキルです。一方でその逆、日本語から英語に訳す時は、原文が日本語なので読解は比較的楽になります。実は日本語の読解に苦労することもあるのですが、読みやすさは格段に違います。しかし、その日本語を英語に訳そうとした時に様々な問題に出くわすのです。そしてそれは、日本人が英語を話そうとする時、英語で文章を書こうとする時に乗り越えないといけない壁でもあります。そこには大きく分けて3つの壁が存在します。これから1つずつお話していこうと思います。
①直訳の壁
日本人が英語を話そうとする時にもよく起こることですが、頭に浮かんだ日本語をそのまま英語に直訳すると、往々にして不自然な英語が出来上がります。文章を書く場合も同じく、何だかちょっと不自然で場合によっては何を伝えようとしているのかよくわからない英文が出来上がります。辞書で出てきた表現をそのまま使って、日本語の単語をそのまま英語に置き換えて文章を作ると、大抵の場合は「直訳調の英語」の出来上がり。しかしそれではメッセージがちゃんと伝わらない。そして、伝わらなければコミュニケーションは成立しない。これを克服するには、まず元の日本語から少し離れてみることです。「この文章は何を伝えようとしているのか」を考える。単語単位で置き換えずに、文章全体で伝えたい内容、さらにはパッセージ全体で伝えようとしているメッセージを考える。
私たちは何のために英語で話したり書いたりするのでしょうか。それは必要な情報や伝えたいメッセージを相手に伝えるためです。場合によっては、感動を相手に伝えるため。翻訳の場合は文書の種類によって求められることが違ってくるので、「何のために誰に向けて書かれているのか」を考えて訳す必要があります。普段のコミュニケーションの中で英語を使う時もこれと一緒で、何を伝えたいのか、目的は何なのかを考える。会話の場合は尚更、辞書を引きながら話すわけにいかないので、場合によっては情報をたくさん端折りながら、一番大切なことをしっかり伝える。英語にならない日本語表現だってあります。例えば、「よろしくお願いします」という言葉。何をよろしくお願いするのかよくわからない。何のためにこの言葉を使うんでしょうか?
仕事のメールの最後に「よろしくお願いします」と言う場合は、I appreciate your help. という意味かもしれない。初対面の人に対してだったら、Nice to meet you. や I'm pleased to meet you. だったり、仕事関係の人だったら I look forward to working with you. と言っても良い。そうやって考えていくと、普段何気なく使っている日本語の曖昧さに気付かされたり、豊かさに気付かされたり、言葉の背景にある文化的な違いに気付かされたりします。直訳の壁は文化の壁かもしれません。でも、そこに思いが至ることで、言葉に対する感覚が研ぎ澄まされ、日本語と英語というふたつの言語文化への理解が深まっていく気がします。ふたつの言語は全く違うものなんだということを前提にして、ただ言葉を置き換えるのではなく、概念を伝える、メッセージを伝えることを意識して、柔軟に言葉を変えていくことが求められます。
②語い・表現の壁
直訳から離れて柔軟に英語で表現できるようになったとして、どんな単語・表現を使うかということは大切なポイントです。色んな単語・表現を知っていればそれだけ豊かな表現が出来ます。いつも同じような表現を使いがちという人は、じっくり翻訳に取り組んでみることで色んな単語・表現を見つけていくことになると思います。
ただ、直訳の壁でも書いた通り、辞書で調べた単語をただそのまま使うと、不自然な英語になってしまうことも多いです。単語の持つ意味やニュアンス、用法にそぐわない使い方をしてしまうことがあるからです。読んで理解する、聞いて理解するというインプット型の学習では気にならないことが、いざ自分が使ってみようとすると上手く使えない単語・表現というのが実はとても多いのです。だからこそ、翻訳してみるという行為を通して、使ってみる経験を積み重ねることが出来ます。そして使う前にまずはしっかり調べてみる。
この単語はどういう意味でどんな風に使われるのか。どんなニュアンスや印象があるのだろうか。例えばinfluence と affect では同じ「影響」でも伝わるニュアンスは異なってきます。日本語では同じ言葉を当てるのに、英語ではいくつかの表現を使い分けることがあります。「心」という単語を辞書で引けば、heart, mind, emotion, mentality と色んな英語が出てきます。そのそれぞれが少しづつ違ったニュアンスを持っているのです。英英辞典を引いたり、実際の用例文を見てみたりしながら、どんな場面でどんな風に使うのかを掘り下げていく。そうすることで、表面的な単語の知識ではなく、単語がどう使われるのかという理解が深まっていきます。
③英文法の壁
英語で文章を書こうとすれば、文法力が大切なのは言うまでもありません。ただ適当に単語を並べるだけでは文章として成り立ちません。どういう語順で並べるのか、時制はどうなるのか、関係代名詞の使い方、句読点の打ち方など、考えなくてはいけないことが山ほどあります。英語を勉強しているなら文法書を1冊は持っている人が多いと思いますし、基礎的な文法なら理解できている人も多いでしょう。でも、文法を知っていることと文法を正しく使えることとは別物です。そして、基本文法ほど実は使いこなすのが難しかったりします。
代表的な例が時制です。英文を読む時にはさほど意識せずに読んでいるかもしれません。でも、いざ英文を書こうと思うと悩むのです。例えば、ここは現在形にするべきか、それとも現在進行形にするべきだろうか。そんなの簡単と思いますか?「今○○しているところです」と言うには現在進行形を使うのは皆さんご存じだと思います。「今、ブログ記事を書いてます」I'm writing my blog post now. これなら簡単です。でも、現在進行形には「最近していること」を表すという役割もあります。I'm writing my blog post every day. と言うこともできます。今この瞬間は書いてないけど、最近毎日書いてるんだということ。でも、ちょっと待って、もうずいぶん長いことブログ書いていて、毎日更新している。すっかり習慣になっているから、ここは習慣を表す現在形にしてもいんじゃない?じゃあ、I write my blog post every day. が正解ということになるかもしれません。
わかっているようで実はよくわかっていない文法というのがたくさんあります。わかっているつもりだったんだけど、いざ使ってみようと思うと「あれ?これで合ってる?」と思う文法があります。そういうちょっとした文法事項というのは、会話の時は何となく勢いでごまかしてしまうことが多い。でも、文章で書こうと思うと、そこをちゃんとクリアにしないといけなくなるのです。そして、改めて文法書を読み直したり、ネットで検索してみたり、辞書で用法をチャックしてみたりというちょっと面倒くさい作業が必要になってきます。でも、その面倒くさい作業をすることで自分の英語が磨かれていきます。
翻訳というのは正直けっこう面倒な作業です。でも、それをあえてしてみることで英語力は格段に上がります。何も難しい文章を翻訳する必要はありません。例えば、自分で書いた日記やエッセイを英語に翻訳してみるのも良い。日本語で書いたブログ記事を英語に訳してみても良い。「これって英語だとどんな風に表現できるだろうか」と考えて、日本語の枠組みから飛び出して、英語の枠組みで表現し直していく。そのプロセスを通じて、自分の弱点に気付き、自分がわかっていないことに気付き、日本語と英語の違いに気付き、言語感覚を研ぎ澄ませていけるのです。特に、中級レベル位で立ち止まっている人、もうワンランク上の英語力を身に付けたいと思っている人には、翻訳というのはお勧めの学習法です。
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