歌詞考察:No Scrubs by TLC
No Scrubsとは
No ScrubsはTLCという女性音楽グループTLCの代表曲で、1999年に最も売れた曲の一つです。TLCは楽曲が世界で累計7-8千万枚売れたと言われ、女性グループとしては歴代2、3位とされています。あのデスチャですら6千万枚だと考えるとその偉大さが分かります。
ツイッターで洋楽歌詞考察のネタを募ったところこの歌が十八番だというRikaさんとkobuさんさんにリクエストを頂きましたので解説させてもらいます。解説と言っても、背景事情などはこの記事を書くに当たって一から調べました。よって誤った情報や、解釈における誤解など多々あると思いますのでご了承下さい。何かお気づきの点がありましたら教えて頂けると幸いです。
ジャンルとしてはR&Bで、しっとりとした曲調ですが、内容は結構辛辣で「ダサい男はお断り」と言うことを歌っています。
Scrubとは
A scrub is a guy that thinks he's fly
And is also known as a busta (busta)
訳:「scrub」とは自分がイケていると思っている男、またの名を「busta」と言う
解説:あえてそうしているのか、やたら説明調な歌詞です。ここで題名にもなっているscrubなるものの定義を行っていますが、scrubとは元々は「ゴシゴシ擦って洗う」と言う意味の動詞で、そこから汚らしい・見すぼらしい人物を指す名詞としての意味が派生しました。そこから更にスラングとしてダサい男を意味するようになったようですが、Urban Dictionaryを見るとこの歌がベースになっている説明が目立つので、この曲の影響力がよく分かります。
flyは「かっこいい、最高」という意味で、あのSuperflyの名前の由来にもなっています。
Bustaというのはbusterの変化形で、bustは壊す・台無しにする・破綻させるといった意味です。ダメな男、使えない男という感じでしょうか。
Always talkin' about what he wants
And just sits on his broke ass
訳:いつも欲しいものについて語ってて、でも実際はそのたるんだ腰を上げようとしない
解説:「all talk and no action(口ばっかりで何も行動を起こさない)」のように、talkという言葉はしばしば行動と対比されることがあります。Sit on one’s assは直訳すると「自分の尻に腰掛ける」ということになってしまいますが、意味としては「怠けて何もしない」ということです。
Brokeは「お金がない」という意味です。Ass(お尻)にかかっていますが、別に貧相なお尻という意味ではなく、誰かを蔑んで呼ぶときに「get your ass over here(てめえのケツをここに持ってこい)」と言うように、相手をケツから手足が生えている生き物として扱っている感覚です。よく分からないですね。次に行きましょう。
So no, I don't want your number
No, I don't want to give you mine and
No, I don't want to meet you nowhere
No, I don't want none of your time and
No, I don't want no scrub
訳:あなたの電話番号なんて欲しくないし
私の電話番号あげないし
待ち合わせなんてしないし
時間作ってほしいとも思わないし
scrubはいらない
解説:「I don't want none of your time」や「I don’t want no scrub」は二重否定になっているので文法的には正しくないですが、黒人系の音楽ではよくみられる話し方です。専門ではないので下手なことを言うと怒られるかもしれませんが、黒人音楽には不良特有の反抗心というか反権力の精神が根底にある気がします。
A scrub is a guy that can't get no love from me
訳:Scrubとは私から相手にされない男のこと
解説:これも否定の意味で使われている二重否定ですね。Get loveというのもスタンダードな英語表現ではないかも知れませんが、要は愛される・相手にされるという意味です。
Hangin' out the passenger side
Of his best friend's ride
Trying to holla at me
訳:友達の車の助手席からはみ出しながら、私を口説こうとしてる
解説:Passengerは乗客のことで、passenger side は車の助手席側のことです。Rideは「乗り物」という意味ですが、若者言葉で車という意味です。Holla at ~は「~をナンパする」「~を口説く」という意味です。Hollaは文脈によって意味が変化する動詞で、単なる挨拶から罵倒まで含むようです。例えば、Gwen Stefaniの「Hollaback Girl」という歌ではhollaback girlを「叩かれても口先の反撃しかできない意気地のない女」と定義しています。
Well a scrub checkin' me
But his game is kinda weak
訳:「scrubが私を狙ってるけど、彼には全然魅かれない」
解説:Checkもストリートのスラングでは独特の意味になる言葉ですね。日本でもcheck it out (チェケラ)は馴染みある人も多いと思いますが、このcheckは本来の「確認」という意味が薄れて「興味の対象として観る」という感じの意味です。特に異性を check outするのは「品定めする」「じろじろ見る」といった意味があります。
His game is weakは異性をオトすだけの魅力がないという意味です。逆に魅力があることをstrong gameと言います。この場合のgameは恋の駆け引きをトランプのゲームに喩ていると考えれば分かりやすいと思います。そういう意味ではweak gameは手札が貧相であることを表していると言えるかも知れません。
And I know that he cannot approach me
'Cause I'm looking like class, and he's looking like trash
Can't get wit' a deadbeat ass
訳:彼は私に近づけないことを分かっている。私が高嶺の花で、自分がゴミみたいだと自覚してるから。貧乏人にはかまってられない。
解説:classあるいはclassyは品格があるという意味です。大してtrashはゴミクズという意味です。Deadbeatは「経済的に困窮している」「大人として失格」といった意味を含んだ言葉のようです。
冒頭では「自分のことをイケていると思っているけど実際は使えない男」には興味ないという感じですが、brokeという言葉が出てきた辺りから「自分の車も持ってない男」「経済的に余裕のない男」といった経済的に自立していない男性の話になってきます。学生や社会人になりたての男性にとっては耳が痛い歌詞です。この歌が出た当時も「女はやっぱり金か」という批判があったようです。
If you don't have a car and you're walking
Oh yes son, I'm talking to you
If you live at home with your momma
Oh yes son, I'm talking to you
訳:車がなくて歩いているようなら
坊や、あんたのことよ
ママと一緒に暮らしているなら
坊や、あんたのことよ
解説:Sonというのは「息子」のことですが、「坊や」と男性を見下げる場合や「親友」と親し気に呼びかけるときなど文脈や誰が言うかによって意味合いが変わります。ここまで男性の懐のことばかりに言及していますが、続いて
If you have a shorty that you don't show love
Oh yes son, I'm talking to you
Shortyとは彼女のことです。つまり、すでに大切にしてない女がいるロクでもない男という意味です。経済状況以前の話ですね。
ラップパート
続くラップパートでは更に男性に求めるものが別次元で語られます。厳密な意味より韻の運びがメインだということもあって、ラップに入ると急に歌詞が難解になります。全然意味が分からないところもあるので、手探りで解説していきます。
See, if you can't spatially expand my horizon
Then that leaves you in the class with scrubs, never rising
Expand my horizonというのは、「地平線を広げる」つまり「私の世界を広げる」という意味です。それができない男はscrubの域を出ないということです。
And if you don't have the G's
To please me and bounce me here to the coast of overseas
So, let me give you something to think about
Gはgrand=$1000の略で、つまりはお金のことだとです。Bounceは離脱するという意味で、ここでは海外旅行へ連れ出すという意味ですね。「海外に連れて行ってくれるような余裕がないなら、(代わりの)課題・宿題をあげましょう」という感じです。
Inundate your mind with intentions to turn you out
Can't forget the focus on the picture in front of me
You as clear as DVD on digital TV screens
ここでは相手の男性がデジタルテレビに映し出された鮮明な映像のようにはっきりと見える、精査の対象となっているというような意味だと思います。Turn you outというのは追放するという意味や輩出するという意味がありますが、ここはどちらも当てはまらない気がします。本性を暴き出すというようなことでしょうか。何にせよ、そういう意思が歌い手にはあって、「その意思で精神を埋め尽くせ」つまり判定の対象になっていることを自覚しろという感じでしょうか。
Satisfy my appetite with something spectacular
男性に対してsomething spectacular「見ごたえのある何か」を見せて私の餓えを満たしてくれ(期待に応えてくれ)と要求しています。
Check your vernacular, and then I get back to ya
Vernacularはその土地の言葉という意味ですが、ここでは男性の言葉を操る能力あるいは自分と同じラッパーとしての才能を求めているのかも知れません。I get back to ya (you) 能力を示してくれたら、後は考えておくからという感じです。
With diamond-like precision
Insatiable is what I envision
ダイヤモンドのような精度で、飽くなきことを心に思い描く(期待する?)これは、相手の知的レベル・言葉能力のいわば評価基準でしょうか。ちょっとよく分からないです。
Can't detect acquisition
From your friend's Expedition
「友達の遠征では私の入手は検出されない」意味がよくわからないですね。友達の武勇伝では私をモノにできない。あなた自身の実績で勝負しなさいということでしょうか。
Mr. Big Willy, if you really want to know
Mr. Big Willyとは人名ではなく、Mr. RightやMr. Nice Guyのようにその人の特徴を呼び名にしているパターンです。日本語の「おませさん」や「おバカさん」という表現に似ています。Mr. Big Willyというのは男としての魅力に過剰な自信を持っているような人のことではないでしょうか。
Ask Chilli, could I be a silly ho? Not really
ChilliはTLCのメンバーの一人です。「彼女に聞いてみて、私は頭の悪い女か?いいや違う」hoはwhoreの変化形で、もともと娼婦と言う意味ですが、女性の蔑称として用いられることがあります。
T-Boz and all my senoritas
Are steppin' on your FILA's
T-Bozもメンバーの一人です。「T-Bozと私の女友達があなたのFILAのスニーカーを踏んづけている」ストリート系界隈ではスニーカーには特別な思い入れがありますから、プライドを踏みにじるのと同義なのではないでしょうか。
But you don't hear me, though
No, I don't want no scrub
でも、私の言葉はあなたに届いてない。Scrubはお断り。
ラップのパートは滅茶苦茶な訳ですみません。どなたかちゃんと意味が分かる人がいればご教示願います。
この歌のメッセージ
この歌の全体的なメッセージについて、一部からは男性へのバッシングとして受け取られ、男性側からのアンサーソングも出されたりと反発もあったようですが、あるインタビューでメンバーのChilliさんが「男性全般をバッシングする歌ではない」と語っています。子供の面倒を見ない、仕事をしない、他人に依存しているような男性への批判だとしています。
おまけ
TLCと言えばTender Loving Care(医療の現場などにおいて作業的な世話取りに対して心を込めて優しくいたわることの意)の略ですが、バンド名はメンバーの名前の頭文字を取ったものということになっています。
Ed Sheeranの「Shape of you」もこの曲に影響を受けたとされ、ASCAP(米国作曲家作詞家出版者協会)のHPでは No Scrubsの作曲家たちがShape of youの制作に貢献したとして名を連ねているそうです。