さらりと軽い味わいの名人芸 『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
■あらすじ
ギャツビー・ウェルズは、ニューヨークで生まれ育った生粋のニューヨーカー。だが昔から素行が悪い問題児で、今は州北部のヤードレー大学で寮生活をさせられている。それでも彼には、大学で知り合ったアシュレー・エンライトという恋人ができた。
学生新聞の記者をしている彼女がニューヨークで映画監督にインタビューすると聞いて、ギャツビーは自分も同行して街を案内しようと提案する。彼女もこれには大賛成。ギャツビーはホテルやレストランなどをリストアップし、アリゾナ出身の彼女に大好きな街の魅力をアピールしようとする。計画は完璧な仕上がり!
ニューヨーク訪問当日、街は雨模様。アシュレーが取材した映画監督は新作映画のできにまったく自信が持てず、精神が不安定になっている。彼女は誘われるまま、急遽新作の試写に同行することになった。これでギャツビーと約束した食事の計画はおじゃんだ。そしてその後も、次々に事件が発生する……。
■感想・レビュー
ウディ・アレン監督の性虐待疑惑が報じられたことから、アメリカでは公開できず封印状態になっている作品。それでも日本では2020年に公開されたそうだが、コロナ禍だったこともあり、僕自身はまったく記憶になかった映画だ。既にソフト販売や配信なども行われているが、今回たまたま「日本公開4周年記念!」と銘打って再上映された機会に劇場で観ることができた。
映画導入部から最後のエンドロールまで、どこを切ってもウディ・アレン作品の香りが漂う「映画作家の作品」だった。もちろん彼のキャリアの最高傑作にはほど遠い。話の規模は小さく、展開は場当たり的でご都合主義の塊だろう。しかしそれも含めて、すべてが愛すべき「ウディ・アレン作品」だった。
一組の若いカップルがニューヨークに旅行し、そこでいろいろな事件があって、互いの関係を見つめ直すというストーリーはありきたりかもしれない。ユニークなのはニューヨークに到着した途端に二人が別行動をはじめることだが、これは物語のタイムラインが二系統に分かれるので、作り手が未熟だと物語がそのまま分裂してしまう。
ところがさすがにウディ・アレン。この映画では熟練の手並みで、離れ離れになった二頭の馬を自由に走らせながら、最後はうまく手綱をたぐり寄せて並走させるのだ。ご都合主義はあちこちにあるのだが、それを空々しい作り事とは感じさせず、むしろ観客の期待に応える展開として心地よく着地させるのだから上手いものだ。これは最後の、セントラルパークの時計のシーンまで一貫している。
アレン作品は先日『サン・セバスチャンへ、ようこそ』(2020)も観ているが、あちらはちょっと意地悪なブラック・コメディ作品。それに比べると本作の何という楽しさ。晩年のパウル・クレーが描いた天使の絵にも通じる、ユーモアと暖かさと軽やかさが同居した作品だと思う。
誰が何と言おうと僕は大好き。結局それが大事なのだ。
(原題:A Rainy Day in New York)
ユナイテッドシネマ・豊洲(12スクリーン)にて
配給:ロングライド
2019年|1時間32分|アメリカ|カラー
公式HP:https://longride.jp/rdiny/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt7139936/