幸福を得るための時間旅行術 『アバウト・タイム 愛おしい時間について』
■あらすじ
イギリスのコーンウォールに住むティム・レイクは、21歳の誕生日を迎えた日に父から驚くべき秘密を告げられる。
「我が一族の男は21歳になるとタイムトラベル能力が使える」
そんな馬鹿なと思ったが、父の言葉は本当だった。過去の自分に戻ってまた帰ってくることはできても、未来には行けないという限定した時間旅行。ティムはこれを自分の恋愛成就に使おうとするが、夏休みに出会った妹の友人への恋は無残な失恋に終わる。タイムトラベルでも、変えられないものがあるのだ。
学校を卒業してロンドンで弁護士になったティムは、友人に誘われて出かけた暗闇バーで、出版社勤めのメアリーという女性と出会う。互いに意気投合し、店を出て連絡先を交換するふたり。だが下宿先の劇作家を助けるためタイムトラベルをしたことから、手に入れたはずのメアリーの連絡先が消えてしまった。
ティムは会話のわずかな手掛かりから、彼女を探そうとするのだが……。
■感想・レビュー
2013年に製作され、翌年日本公開されたSF映画。SF映画ではあるけれどサイエンスやファンタジーは二の次で、タイムトラベルというアイデアは物語を成立させるためのギミックに過ぎない。物語の中にはタイムパラドックスや未来の改変についての簡単な説明やエピソードがあるが、どのみちそれが気にならない程度にしかタイムトラベルは使われない。
例えば主人公が劇作家を助けてメアリーの連絡先を失ってしまうくだりも、タイムトラベルを上手く使えば両方の結果をうまく手に入れることができた気がする。父親との再会エピソードも同じことだ。我らの藤子・F・不二雄なら、ここからタイムトラベルを使ってパズルのような世界を展開させたに違いない。
ではなぜこの映画で、ティムはそうしないのか。それはこの映画が、タイムトラベル自体を描こうとしていないからだ。この映画がタイムトラベルで描こうとするのは、「大切な時間」や「幸せな時間」を何度も繰り返すこと。ティムとメアリーが初めて一夜を過ごす場面が何度も何度も繰り返されるのは、その代表だと思う。
本作ではティムと周囲の人たちとの愛情関係を丁寧に描いていくのだが、その中でも特に二人の人物との関係が丁寧に描かれる。一人はタイムトラベルのセンパイである父だ。演じているのは大ベテランの名優ビル・ナイ。父と息子の情愛を、じつに巧みに豊かに表現している。
もう一人はティムの伴侶となるメアリー。演じているのはレイチェル・マクアダムス。メアリーはタイムトラベルについては何も知らない、SFドラマ的には部外者で蚊帳の外なのだが、それでもこれだけ魅力的なのは、演じているマクアダムスの魅力を100%以上に引き出した脚本と演出の力だと思う。これは今でも彼女のベストかも。
監督・脚本は『ラブ・アクチュアリー』(2003)のリチャード・カーティスで、これが現時点では彼の最後の長編映画作品になっている。
(原題:About Time)
ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター1)にて
配給:フィルマークス
2013年|2時間4分|イギリス|カラー
公式HP:https://filmarks.com/movies/56354
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt2194499/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?