映画音楽家エンリオ・モリコーネの遺言 『モリコーネ/映画が恋した音楽家』
1月13日(金)公開 TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか
■あらすじ
映画音楽の作曲家として、生涯に500本以上の映像作品でサウンドトラックを手掛けた作曲家、エンリオ・モリコーネのドキュメンタリー映画。 モリコーネの生い立ちから最晩年の姿まで、貴重な写真や映画からの引用、本人はもちろん数多くの関係者のインタビューなどを交えて構成されている。
エンニオを音楽家の道に歩ませたのは、トランペット奏者の父だった。父は息子に中古のトランペットを買い与え、音楽学校に押し込んだ。音楽で食べてきた父は、息子が生涯食いっぱぐれないよう、手に職をつけさせるつもりでそうしたのだ。
だが金持ちの子弟が多い音楽学校で、ナイトクラブのミュージシャンを父に持つエンニオは孤立しがちだった。トランペット奏者としての腕前も冴えず、成績も伸び悩みがち。だがエンニオはこの学校で、作曲という生涯の仕事に出会った。現代音楽の作曲家ゴッフレド・ペトラッシに師事して、エンニオは作曲家への道を歩み始める。
■感想・レビュー
ジュゼッペ・トルナトーレ監督によるドキュメンタリー映画。モリコーネは2020年に亡くなっている。2021年製作のこの映画は、彼の最晩年を記録し、彼自身の口からその生涯や楽曲制作の秘密を聞き出す、貴重なインタビューになった。
トルナトーレ監督は『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)以降の全作品でモリコーネに音楽を依頼しているし、本作でもモリコーネが語っているように、一度は映画音楽の世界から引退しようとしたモリコーネを映画の世界に引き戻したのがトルナトーレだった。
盟友セルジオ・レオーネ亡き後、モリコーネとこれほど強いパートナー関係になった映画監督は、トルナトーレ以外にはいないだろう。モリコーネの遺言のようにも見えるこの映画を、トルナトーレが撮るのは必然であり、運命であったようにも思う。しかしモリコーネのいなくなった世界で、トルナトーレは今後どんな映画を撮るんだろうか……。そんなことも少し気になってしまう。
映画ファンにとっては、いろいろと楽しい映画だ。作曲家モリコーネの映画業界での中心軸のひとつになっているのは、間違いなくセルジオ・レオーネとの関係。
新しい映画を準備しているという若い映画監督に呼び出されて打ち合わせに行ったら、そこに現れたのが小学校時代の同級生。「あれ? セルジオ? 俺だよ俺、エンリオだよ!」という劇的な再会ではじまった二人のコンビは、1964年の『荒野の用心棒』から、レオーネの遺作となる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)まで続く。
『時計じかけのオレンジ』でモリコーネに音楽を依頼しようとしたキューブリックがレオーネに連絡したら、レオーネがモリコーネに無断でこの仕事を断ってしまったとか、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』は撮影現場にサントラが流されて音声はアフレコだったとか、知らなかった話が続々出てくる。たまらんな。
(原題:Ennio)
TOHOシネマズ シャンテ(スクリーン2)にて
配給:GAGA
2021年|2時間37分|イタリア|カラー|シネスコ|5.1ch
公式HP: https://gaga.ne.jp/ennio/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt3031654/