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WERK OHNE AUTOR / ある画家の数奇な運命(2020年10月2日劇場公開)

「作者無き作品」がドイツ語原題の意味。英語タイトルは「目を逸らすな」。

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いくつもの視点が交差する、芸術的刺激に満ちた映画。

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ナチスドイツを描いた映画は今でも沢山製作されていますが、ナチスドイツ・東ドイツ・西ドイツをある芸術家の視点から串刺しにするクロニクル映画は珍しい。大きな歴史に巻き込まれる一個人の視点がそこにはあります。

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その冒頭に描かれる、ナチスドイツ下の『退廃芸術展』から始まるのは、絵画作品についての映画ですよという宣言。

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ヒットラーの到着を待つ女性。ここでも映画の中心は彼女の視点です。この冒頭の彼女を巡るエピソードが、この映画の悲劇的な印象を決定的にしています。

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ナチスドイツの非人道的な脅威をこういうショット一枚で判らせる、フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の見事な演出。

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画家の話ですから、アトリエのシーンでストーリーを展開させるのも巧い作戦。

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このショットも、東ドイツから西ドイツへの亡命の過程での不安の象徴として、申し分のない効果を映画に与えています。

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クロニクル的に最低限の情報を観客に与えて、後半は芸術というテーマが大きく映画を支配します。エンターテインメント芸術である映画の領域にちゃんと留まっていながら、スクリーン上で芸術を生み出す苦悩と喜びと生み出された芸術が人々に与える影響を活写します。この構成は斬新です。

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I thank you for your kind letter about the film of Florian Henckel von Donnersmarck. To recall all the events, I had a look into the quite hefty folder regarding the case von Donnersmarck. Unfortunately, this visualization of all the facts caused such bad feelings, and my dislike of both the movie and the person grew so much again, that I find it impossible to give you an answer.

I hope for your understanding, but I can’t help it.

With best regards,

Gerhard Richter

これは本作のモデルとされたゲルハルト・リヒターがこの映画についてどう思うかと聞かれたことへの返答です。2019年1月のTHE NEWYORKERの記事。どうもお気に召していないようです。


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