真実(前編)
ユウタのお母さんと最後にあったのは高校1年の寒い冬の夜だった。学校の帰り道、駅の近くで「えいじくん、ひさしぶりね。元気?」と声をかけられた。化粧をしていたから一瞬だれかわからずに戸惑った。品のよさそうな女性2名と一緒にどこかに向かっている途中のようだった。少し酔っぱらっているのか、頬が紅潮していた。それがなんだかすごくきれいでドキドキしたのを覚えている。「たまには遊びにおいで。ユウタもきっと喜ぶ!」といって笑顔で手を振りながら去っていった。
ユウタは小学校の同級生だった。お互い学区外からの登校組で、ユウタのお母さんは小学校の近くのスーパーで働いていた。時々仕事が早く終わると車で小学校の近くまで迎えに来ていて、よく一緒に乗せて送ってもらったり家に遊びに行ったりした。お父さんにも何回かあったことがある。遠くで働いているらしく、時々家に帰ってくる忙しい人だった。 お互い別の中学に行き、そこからは疎遠になった。
ユウタと再会したのは私が20歳になり、海外留学から帰国して看護学校受験の勉強をしていた時だった。家で勉強がはかどらず、私はよく図書館に行っていた。古い図書館だが自習室は広く、その時は喫煙所もあった。勉強が終わり一服しに行くと、そこにはユウタがいた。ユウタは大学の受験勉強をしていた。私は高卒後1年間留学していたので、数えると2浪組だ。ユウタはまあまあ有名な中高大一貫校に入学したので驚いた。でも、特に事情は聞かなかった。人生にはいろいろあるのだ。そこから図書館で待ち合わせ、一緒に勉強をしてはタバコを吸い、飽きてはビリヤードに行ったりぷらぷらと散歩したりする時間を共にした。
「なあ、えいちゃん。おれ昨日やばいこときいちゃったんだよ。」いつも飄々としているユウタにしては珍しく熱のこもった話しぶりだった。「だれから?」と聞き返すと「おばちゃんだよ。親戚の。」とユウタは言った。私は「へー、どんな話?」と何の気なしに聞き返した。するとユウタは神妙な面持ちで「それには順を追って話を進める必要がある。今日はうちに来てくれ」と言った。私は心の中で「お、ひさしぶりにおばさんにあえる。やったー!」と思った。
自転車でぷらぷらとユウタの家に向かった。道すがら、彼は終始無言だった。話好きなユウタにしては珍しいな、と思った。家に到着し彼はカギを使って玄関を開けた。まだ暑さが残る9月の昼下がり、家の中は熱気に包まれていた。てっきりお母さんがいるもんだと思っていた。少し残念な気持ちになり、私は「ユウタのお母さんまだ帰ってきていないんだ。」といった。ユウタは無言だった。そしてリビングに入った瞬間に目に入ったのは、優しく微笑むお母さんの遺影だった。
つづく
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