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第7話 契約書に日付がなかったらどうなりますか?

             Sales Agreement
This Sales Agreement (this "Agreement") is made between Venditor Co., Ltd. ... (the “Seller”) and Emptor Corporation … (the Buyer”) …

そんな約束をした覚えはありません!

もし契約書に日付が書いてなかったら、どんなことが起こるでしょう。上の契約書は現実には2000年4月1日にサインされたのですが、どこにも日付が書いてありませんでした。

契約書には「売主は2000年5月31日までに商品を引き渡すこと」と規定してあったにもかかわらず、売主が正当な理由もなく契約に違反して引き渡しを怠ったので、買主が文句を言ったとします。

不心得な売主いわく「そんな約束をした覚えはありません」。買主が「えっ、 契約書にそう書いてあるじゃないか!」と抗議すると、売主はなんと「確かにそう書いてありますね。でもそんな契約は2000年5月31日には存在しませんでしたよ」ととぼけるではありませんか。つまり「5月31日に引き渡すべきだったと言うけれど、その日以前にそんな義務を負った証拠がどこにあるんだ?」というわけです。

サインした契約書があるのに?!

そうです。契約は4月1日に<口頭で>成立していました。サインされた契約書もあります。でもその契約が5月31日より前に存在したという証拠がありません。なぜなら、契約書には日付がないからです。

もちろん売主の言っていることは事実に反するのですが、それに反論できる「2000年4月1日付けで相手のサインした証拠書類」がないのです。契約があったかどうかを証拠で納得させることができなければ、仮に裁判をしても勝つのは大変です。

裁判官は「そうだ」と思えないかぎり、そうだと言ってくれないからです。

寄り道ですが、このことはちょっと多数決に似ています。いつも仲良く昼ご飯に行く法務課の課長が6人の課員に「今日は中華にしようか?」と聞きました。3人が賛成、3人は反対でした。これは「可決」ですか「否決」ですか、それとも「未決」でしょうか?

正しくは「否決」なのです
。多数決では半分を<超え>なければ可決にならないのです。そして、可決でなければ「否決」なのです。

裁判でもそこまで行く必要があります。説得の材料がなければ、簡単には勝つことが出来ません。そして、「5月31日に引き渡すべき義務は、既にそれ以前に成立していた」と思ってもらえるための最良の説得材料は、もちろん「5月31日以前にサインされたことが一目瞭然に分かる、日付のついた契約書」です。それもないのに、「その日に契約は出来ていた」などというのは、いくら事実であっても「実務では空しいこと」なのです。(☚これがポイント)




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