第5話 実際の契約書を読むーはじまり、はじまり
ここからは実際の契約書を見ながら、注目点を検討していきます。
最初に材料の契約書について説明しておきましょう。
① どの契約書も米国の証券取引所に届け出られたもので(https://www.sec.gov/edgar/search/#)、公開されている資料です。届出人は業務上の秘密事項については、「秘密扱い」を要請して別に提出していますので、世に出してもよいと判断された部分が公開されているわけです。ただし、日付や会社の名前は変えてこともあります。
② また、素材にするために無駄なところは削除したり、適宜変更を加えたりしてあります。明らかに改良の余地があると思われるところは訂正してありますが、作った人の個性が現れていると思われているところは、あまり見かけない表現だと思っても、間違いでなければそのままにしてあります。
さて、ここにあげるのはごく典型的な、英語で書かれた国際契約書の冒頭部分です。
Contract や Agreement といった言葉の使い分けについては、第3話で述べたとおりです。この契約書は売買契約書であるということがわかります。
本文の出だしの部分には、 This Sales Agreement (this "Agreement") とあります。「本契約書は……」というわけです(ちょっと寄り道ですが、第4話で 「契約」と「契約書」 のお話しをしました。上のような契約書の出だしの部分では 、This Sales Agreement は「契約書」と読むのが妥当だと思いますが、契約書のこれから後の部分で this Agreement と出てきたときは、それが抽象的な意味で「契約」なのか、物理的な契約「書」なのか、考えてみるのも面白いでしょう)。
(以下、「……」と呼ぶ)を、英語でどう書けばよいのでしょうか?
ところで契約書中でこの後「本契約書」が出てくるたびに、This Sales Agreement と書いたのでは、場所を取りますから、略して Agreement と呼ぶことにする、というのがカッコ内の部分の役割です。
この契約書では以下、「本契約書」と呼ぶというわけです。もっとも(以下、「……」と呼ぶ)とは丁寧に書いてありませんね。もし書くとしたらどうすればよいのでしょうか。それに相当する表現は次のとおりです。
(herein "this Agreement")
(hereinafter called "this Agreement")
(hereinafter referred to as "this Agreement")
call は「呼ぶ」、refer to (少し堅苦しい表現)は「言及する」という意味です。herein 、hereinafterという言葉は見たことがないと思います。雅語、古語のたぐいです。「本契約書中では」、「以後本契約書中では」という意味です。この言葉については追って、まとめてお話しするつもりです。
さて、上にあげたのはかなり「典型的」な例ですが、こんなに堅苦しくないものもたくさんあります。3つの例をあげておきましょう。
次回からは細かいところを見てきます。今回は英文契約書の出だしはこんなものなのだということを、感じてもらえれば十分です。
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