第26話 売買契約書をどう書くか (4) ー実例検討 ②
船積み数量の過不足の取扱
前回に検討した条項の続きの部分です([ ]に入れた部分は前回の第2文)。
本契約の付表1のA部には、各船積みにおける売主の売渡義務数量が、数字で記載されています。しかしたとえば150トンといっても、正確に150トンちょうどを積むことは事実上不可能でしょうから、135トンから165トンの間におさまっている限りで、売主はその義務を果たしたものとしよう、というのがこの規定の趣旨です。
矛盾はないでしょうか?
そうすると前回に検討した第2文の太字部分とこの段落は、正確にいうと矛盾します。
そこで、前回に見たところの最後にある ‘subject to the paragraph below’ という言葉が意味を持ってきます。’subject to’ には「・・・・・・を条件として」という意味があります。つまり目標数量の厳格な規定は、±10%の緩和規定を優先的条件とする、ということにしてあるわけです。
同じ契約書中に表面上は矛盾することが書いてある場合は、それらの記述の間の優劣関係を明示しておかなければ混乱してしまいますね。(☚これがポイント)
必要な ’subject to …’ と、不必要な’subject to …’
繰り返しになりますが、前回(第25話)の実例の文頭の ‘Subject to the terms of this Contract’ は、「契約書全部を条件として」という意味でした。これは結局「本契約に従って」という当たり前のことをいっているに過ぎないので、なくても構わなかったのです。
それに対して、今回検討した ‘subject to the paragraph below’ は、特定の段落だけを指しているところに違いがあります。特定の段落や規定を条件として示すということは、そこに何か注意すべきことがあるわけです。
’subject to the paragraph below’ を外してこの段落をよんでみると、この句の「存在意義」が見えてきます。
次の例はどちらに属するでしょう?
これはお金を貸す契約です。条項のタイトルは「契約の譲渡禁止」です。
この条項は一般論としては契約の譲渡を禁止したものです。但し20.2条を見てみると「貸主はその関係会社になら、借主の同意なく本契約上の権利または義務を、譲渡または移転してよい」という旨が書いてあります。つまり20.2条には一般論に優先する例外が書いてあることになります。もし 'subject to …' として条件をつけておかないと、本条項と20.2条には矛盾が生じてしまいますね。
必要のあることとないこと
このように契約書を読み書きするときに、それぞれの条文の骨格、本当に言わなければならないことは何なのか、ということをよく見据えると同時に、必要の無いことを何となく書いていないか、ということもよく考えなければなりません。(☚これがポイント)
言葉の説明
最後になりましたが、今回の規定に出てきた法的用語の説明をしておきましょう。
まず ‘therefrom’ ですが、これは「それから」を意味します。第2例の中の ’hereinafter’ は「ここにこれ以下に」といった意味です。
このような here や there が頭についた言葉の意味と使い方については、「国際契約英文法―here-, there- and everywhere!?」を参照してください。
‘deem’ は「みなす」ということを表す言葉です。意味は ’think’ や ’consider' なのですが、法律文書ではよくこういいます。ここでは受動態ですので、「みなされる」ということになります。