第27話 役務提供契約書をどう書くか ー当事者は何をするかー
役務提供契約の骨組み
コンサルタントとの契約を取り上げて、役務を提供する契約には、何をどう書けばよいのか考えてみましょう。
当事者の義務は次の通りです。
① コンサルタント:役務の提供
契約文言にするとすれば、「コンサルタントは助言をする義務を負う」と書くことになります。「助言をする」なら 'advise on/about' ですが、もう少し広く「役務を提供する」と考えて、まず役務は 'the Services' としましょう。「提供する」は 'provide' ということが多いのですが、'supply' ともいえます。
The Consultant shall provide the Services.
② 依頼主:コンサルタント料の支払い
「依頼主はコンサルタント料の支払い義務を負う」です。「依頼主」にそのまま当たるような言葉は見当たらないので 'the Company' としておきます。「コンサルタント料」は 'the Consultant Fees'、「支払う」は pay とします。
The Company shall pay the Consultant Fees.
実際の契約書ではどうなっているでしょう
ここで取り上げた契約では Party A が依頼者、Party B がコンサルタントです。
同じ意味には同じ言葉
当事者 B のところに ’agree to’ という表現が出てきました。当事者 A については「……という義務を負う」ということを表すために助動詞 ‘shall’ が使われています。
'shall' を使っていないということは、当事者 B の役務料支払いは、義務ではないことを意味しているのでしょうか?
そうではない筈です。agree to は「合意する」ということですが、契約の中で合意すればそれを実行しなければなりません。その意味では shall と同じことを表す異なった言い方にすぎないのです。そもそも契約書というのは「合意したこと」、「義務として引き受けたこと」を書いてあるのですから、当然です。
一般論として、契約書を作るときには、同じことを意味するなら、同じ表現を使わなければいけません。(☚これがポイント)
その意味では agree to は shall と書くべきでしょう。
その他の違い
次に骨組みのところに示した短い文章と実例を、比較してみましょう。太字部分が異なるところです。
1. Party B shall diligently provide Services to Party A pursuant to the needs of the Business and the conditions stipulated herein.
2. Party A agrees to pay Party B, pursuant to Article 3.2, the Service Fees as follows:
まず ‘diligently’ という言葉ですが、これは契約文言として考えると、あまり「明確な」基準だとは言えません。そもそも、ことさらこんなことを書かなくても、決められた義務は果たさなければいけません。
次に 1 に to Party A と、2に Party B とあります。義務を果たす相手方を書くのは悪いことではありません。でもこの文章の中でいうなら、なくても分かることですから、書かなければいけないということはありません。
省略できそうな部分
’pursuant to the needs of the Business’ の部分です。依頼者の営業の必要に応じてということで、追加の要素として書いたものです。Party A の立場からすれば、あった方が役に立つでしょう。もちろんどんなときに「必要」があるのかは、依頼主が別途伝えなければなりません。
その後に続く ‘pursuant to … the conditions stipulated herein’ はどうでしょう。売買契約を見たときに ‘in accordance with the terms and conditions of this Contract(本契約の諸条件に従って)’ という例があって(第25話)、ことさら書かなくてもよいと言いました。本例も同じで、当然そうでなければならないのですから、あってもなくても同じです。いや、むしろそんなことをいうなら、いつもそう書かなければならないことにもなりかねず、余分であると考えてもよいでしょう。
2 にある ‘pursuant to Article 3.2’ については、支払いの義務の詳細は、その条項に行けば分かることですので、これも上の ’pursuant to …’ と同じく無視しましょう。
‘as follows’ は「以下の要領で」というわけですが、3.2 条にいけば規定してあるのですから、なくてもよいでしょう。
出来上がりはどうなりますか?
ではなくてもよさそうな部分を消してみましょう。一番最初に書いた2つの文章と、ほとんど同じです。
1. Party B shall provide Services to Party A pursuant to the needs of the Business.
2. Party A agrees to pay the Service Fees.
もちろん実際の契約書では、いろいろな要素が入ってきますので、こんな簡単にはいきませんが、まず基本的な骨格を押さえることが大事です。