第25話 売買契約書をどう書くか (3) ー実例検討 ①
売買契約の基本的義務を書く
売買契約について第23話、第24話でお話ししたことをもとに、実際の契約書を分析してみましょう。
ことさら書かなくてもよいこと
いきなりですが、書かなくてもよいことから話を始めましょう。契約書には時々、あると法律英文らしくは見えるものの、なくても差し支えのない語句が出てきます。
第1文の中にはそれが2つあります。まず冒頭の ‘Subject to the terms of this Contract’ です。
’subject to’ は「……を条件として」「……に従って」という意味の、よく契約書にも出てくる表現です。’A is subject to B’ あるいは、'Subject to B, A is …'などとあったときには、「AはBを条件とする」とか「Bに従って、Aは……」ということになるのです。
この契約書でいえば、'the terms of this Contract (B)' に従って、'Seller agrees to sell … (A)' ということになります。
当たり前のことですが、契約書はお互いに守るべきことを書いたものです。当事者は契約書に従って行動する約束をしているのです。ですから、ことさら「本契約の条項に従って/を条件として」なんて書く必要はなさそうですね。(☚これがポイント)
第1文の文末の ‘in accordance with the terms and conditions of this Contract(本契約の諸条件に従って)’ も同様です。一旦契約したら、すべてのことは契約条件に従って行うわけですから、いうまでもないということになります。
なお用語の問題ですが、文頭では
the terms of this Contract
と書いてあったのに、ここでは
the terms and conditions of this Contract
と違って書いてあるのも気になりますね。このように使われるときは、terms も terms and conditions もいずれも「契約の諸条項」を意味します。契約書を書くときに、同じことを言い表すのに、異なる表現を使うのは避けた方がよいでしょう。(☚これがポイント)
では本当に必要なことは?
このような言わずもがなのことを削除してしまうと、第1文では次の部分だけが残ります。
The Seller agrees to sell to the Buyer and the Buyer agrees to buy from the Seller Silver-Gold concentrates as set out in Clause 3.
売主と買主の基本的な義務を簡潔に述べています。第23話、第24話で見てきた通りですね。
さらに書かなくてもよいこと
2つ目の文章にも、なくてよい語句の例があります。それは文頭の ’The parties intend that(当事者は……を意図している)’という部分です。どんなことでも契約書に書けばそれは当事者の意図なのですから、いちいちそんなことをいう必要はありません。
しかもその後に ‘the Buyer shall buy …’ と、当事者の意図したことの具体的内容である、買主の義務が明記されています。
そこでこれを削除すると、次のようになります。
The Buyer shall buy such quantities of the Concentrate as are set out in Part A of Schedule 1 to this Contract, subject to the paragraph below.
では、文末の ’subject to …(次の段落を条件として)’ は必要でしょうか。これは次回に検討しましょう。