第12話 当事者の住所とは何でしょうか?
大抵の契約書には、最初に当事者の住所が書いてあります
メールや LINE など、オンラインで連絡ごとが全部すむなら、相手の住所を知らなくても困りませんね。
現に、私がどこでこれを書いているかだって、読者の皆さんには分かりません(ホームページを見ない限り)。
色々な住所
でも郵便を出すとしたら、住所が絶対必要です。では、そもそも当事者、特に会社の場合、の住所とは何でしょう。
① 商品見本を送るときは、担当者が本社にいれば本社の住所ですし、どこかの支店にいればそちらの住所でしょう。
② 賞品付きのアンケートはがきの受け取りには、私書箱を使うこともあります。
③ 会社によっては、創立の地に本社があっても、社長も含めて頭脳の大部分は東京に、ということもあるでしょう。その場合は実務的には東京の住所にしますね。
④ 会社は形だけで、関係者は社長の家族だけというなら、社長の自宅の住所の方が確実です。
⑤ フランスの会社が、日本の本社に招待状を送りたいのだが、住所が分からないというときは、パリにある駐在員事務所気付けで送ることもあるでしょう。
というように、送り先の住所は「目的」によって使い分ける、ということになりそうです。(☚これがポイント)
では、契約書の中に住所を書く「目的」は何でしょう?
この質問の答は、「契約関係が継続しているとき、あるいは契約関係が破綻した後に、郵便でしか送れないものは何だろう?」という風に考えます。
それは相手にいやでも受け取ってもらわなければならない書類です。つまり訴訟をはじめとする紛争関係の書類です。変なたとえですが、下宿している大学生の成績表が、実家に送られるようなものでしょうか?
相手とうまくいっているうちは、少しぐらい住所が違っていても、先方のどこかに届きさえすれば、相手は受け取ってくれますし、社内や関係会社間で転送もしてくれるでしょう。でも仲が悪くなったら、「正式」に来たもの以外は、受け取ったことにしてくれません。
紛争関係の書類は、関係者に必ず届いてもらう必要があります。(☚これがポイント)
そこでどうするのですか?
裁判の訴状(上の写真は英国の訴状の書式です。2段目の Defendant(s) というのが相手方、つまり「被告」です。なおこの書式は online でも送れると書いてありますが、どの国でそうだとはとても言えないでしょう。加えて、電子メールには必ず届くという保証はありません)、仲裁の申立書の送り先をどこにするかは、国、地域によりますし、色々な規則があるでしょうが、一番安全なのは登記上、または事実上の本店の所在地でしょう。契約書でどう書いてあるか、いくつかの実例を見てみましょう。
まず、登記上の住所、本店所在地であることを明確にした表現です。
・with its legal/registered/principal address at …
・with/having its principal place of business located at …
参考のために、本店所在地であるとは限らない場合の表現も、いくつかあげておきます。
・with a place of business at …
・with/having offices at …
・whose address is …
・headquartered at …
② に私書箱の話が出てきましたが、変えようと思えば簡単に変えられたり、ことによれば閉鎖してしまえるものはよくありません。もっとも次の例のように、郵便の住所というと私書箱しかない国もなくはないようです。
郵便ではありませんが、ファックスの通知を受け取りたくないので、「電源を切ってしまった」という笑い話のような話を聞いたことがあります。
細かいことは、各地の法規則を参照してもらわなければなりませんが、相手が「100%非協力的」でも届くようにしておくことが大切です。(☚これがポイント)