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第9話 当事者の名前ー誰と契約しているのですか?

契約当事者の記載について考えてみます

契約書の出だしにある、当事者の記述の例をいくつか見てみましょう(太字部分を見て下さい)。

例 1. THIS PERFORMANCE GUARANTEE AGREEMENT, dated as of … (this “Agreement”), is by and among: BLUE SPHERE BRABANT B.V., a private company with limited liability, incorporated under the laws of the Netherlands, having its seat in Amsterdam, and its registered office at Singel 250, 1017AB Amsterdam, the Netherlands, registered with the Dutch Chamber of Commerce under registration number 66863643 (the “Client”); …

例 2. This Acquisition Agreement (“Agreement”) is entered into this … by and among Rayont Australia Pty Ltd, an Australian corporation (“Acquirer”) and …

例 3. This Amendment One (“Amendment”) … by and between SUPER MICRO COMPUTER INC. (“Supplier”) and …

随分たくさんの情報が盛られているものと、とても簡潔なものがあります。何が書いてあればよいのでしょうか。

当事者の正式名は何ですか?

契約書でとにかく大切なのは、当事者は誰なのかを正確に書くことです。最初は相手の「名前」です(それ以外のことは、次回以降に)。

正式名を書かなかったら、どうなるのでしょうか?

1980年代に、中国の会社と取引することが、ブームのようになったことがあります。その頃に中国の弁護士から聞いた話をしましょう。          

       「そんな契約をした覚えはありません!
とにかく取引を始めたくて仕方のない日本の会社が、競って「中国もうで」をし、相手の会社のことをよく調べもせずに契約をした末に、少なくない会社が痛い目にあった、というのです。

「〇〇科技集団股分有限公司」の代表者と「熱烈歓迎」、「乾杯、乾杯」ムードに流されて話を決め、早いほうがよいと、中国方の作った契約書にサインしました。契約書の相手方会社名は「〇〇科技有限責任公司」となっていて、代表者の名刺にあった名前とほんの少し違いました。でも「グループの会長の陳さんと直接話をして、決めたのだから間違いない。信義を守ってくれるのがこの国だ!」とそのまま契約した日本企業が、後になって債権回収に走ったときに、相手は「わが社はそんな契約をした覚えはありません。第一、そんな会社は聞いたことがありません」と言って逃げてしまったのです。

裁判に訴えようとしても、取引をした相手の会社によってサインされた契約書がないのでは、どうしようもないのです。

特に中国の会社と取引するときは、誰と契約しようとしているのか、というごく基本的なことから始まって、相手の会社が本当にきちんと存在するのか、取引はその会社の営業範囲内か、といったことを、商業登記簿などを見て確かめるのは「イロハのイ」だったのを、怠ったからです。

実は、会社名のことは中国だけの話ではありません。世の中には似通った名前がたくさんあります。「世界ふしぎ発見!」を見ていれば「日立」という言葉が社名の一部に使われている会社がたくさんあることに驚きますよね。

ときには当人ですらあまり気にせずに、自社の名前を定款や登記簿に書いてあるとおりに書かないことがあります。相手方の名刺に
   BLUE SPHERE BRABANT B.V. のことを BLUE SPHERE BRABANT B/V
   Rayont Australia Pty Ltd のことを Rayont Australia (Pty) Ltd
           SUPER MICRO COMPUTER INC. のことをSUPER MICRO    COMPUTER Corp
などと書いてあるので相手に聞いてみると、「それで問題になったことは一度もありませんよ!」と言うかもしれません。実際にはそうかもしれませんが、契約書をつくるときはそこで妥協しないで下さい。

戸籍に書かれた名前が唯一の正しい名前であるように、会社の名前は登記、登録されているとおりに書くことです。(☚これがポイント)

契約書の中で、当事者の正式名が出てくるのはこの部分だけかもしれません。(☚これもポイント)


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