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第36話 英文契約書を実際に書くー文章にする(1)

文章の骨組み

文章で契約書を書きます。

文章にするには少なくとも主語動詞、そしてしばしば目的語が必要です。目的語については「国際契約英文法シリーズ」の中の「動詞の目的語(1)」「同(2)」をご覧下さい。また副詞について「契約書に副詞は出てきますか?」もご覧下さい。

英文契約書では文章の主語を「義務者」にするということは、前回にお話ししました。その原則に基づいて進めましょう。

義務を表す助動詞 ‘shall’

主語の後には、義務者が「何をするか」を表すために動詞を置きますが、「権利・義務を定める書類」である契約書では、何かすることが「義務である」ことを明確に表すための道具立てが必要です。その1つが動詞の前に置く助動詞の ‘shall’ です。

法律文書で当事者を主語にした上で、その義務を表すには、「shall」の形を用います(第23話第24話参照)。

指示を表す‘shall’

ところで、’shall’ はときに「」ではなく、「モノこと」を主語にとることがあります。この場合はどう考えればよいのでしょうか。「義務」でしょうか。ここでは’shall’は「指示」を表すのです。例を使って説明しましょう。

The Price shall be paid no later than 31 March 2024.

この ‘shall’ は、代金の支払いをする義務を負っている買主を念頭に置いて、「……までに支払いがなされるものとする」という「指示」として述べることによって、「……までに支払え」と間接的に義務を課しているものです。「代金は2024年3月31日までに支払うものとする」と訳せば分かりやすいでしょう。(☚これがポイント)

もうお分かりだと思いますが、義務者である「買主」を主語にして義務として書くこともできます。

The Buyer shall pay the Price no later than 31 March 2024.

この方が直截的でよいと思います。

立法の ‘shall’

話をすこしややこしくするかもしれませんが、 ‘shall’ が「モノこと」を主語にとったときに、もう1つの用法があります。次の例を見てください。

Title to the Product shall pass to the Buyer when the Product is delivered to the vessel.

これは所有権の移転時期を書いたもので、「商品の所有権は、商品が船舶に引き渡されたときに、買主に移転する」ことを表したものです。

この ’shall’ は「義務」でも「指示」でもなく、原則、規則を制定するときの用法で、「立法のshall」と呼ばれています。

その名のように法律で「……とする」、「……であるものとする」というときに使われてきたもので、今でも法律をはじめとする法的文書で多用されます。「指示」のshallと少し違って、誰かに指示しているというより、全員に関係のある規則を定める場合に使われます。

いずれにしても「ものとする」です

'shall' が「指示」でも「立法」でも、訳は「ものとする」とすればよいのですから、分かりやすいですね。(☚これがポイント)

少し長くなってしまいましたので、実際に実務条項を英語にする話は次回に持ち越します。

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