第8話 契約書の日付はいつにしたらよいのですか?
契約書の日付とは何でしょう?
全員の契約意思が署名によって確認できた日、と考えていいでしょう。目に見える証拠がととのった日でもあります。上の契約書には「本2000年4月1日」とあります。これは両当事者がそろってサインしたその日です。そして契約自体もその日から効力を発します。
発効日以外の日付けでの署名
ときには契約の効力が発する日には、署名権限を持った関係者が集まれないために、やむなく別の日に署名することもあるでしょう。そのようなときは「何日付で」ということにします。
この場合は契約しようという意思自体は署名日に確認できますが、実質的に契約内容が動き出すのは別の日からということになります。
英語では as of ... とします。次の例を見てください。
この日付は実際に契約内容が動き出す前でも、後でも構いません。3月中にサインしても、5月にサインしても、このように言うことが出来ます。
もっと丁寧な方法もあります。それは3月にサインし、署名日付はその日としますが(this …th day of March)、契約書中に条項を設けたうえで「この契約書は4月1日から発効する」と書いたり、5月にサインしてその日付としながらも、契約書中に「この契約書は遡及的に4月1日から発効する」と規定する方法です。
ただ、早すぎるのはよいとして、あまり遅くなるのは感心しません。契約書は当事者の気が変わらないうちに整備しておくのが得策です。(☚これがポイント)
バックデートしてはいけないのですか?
契約関係が始まった後でサインしながら、遡った日付である this 1st day of April 2000 と書いた契約書を作ることを、日本語で「バックデート」と言いならわしています(英語では antedate と言います)。これをしてはいけません。this は「本(日)」という意味ですから、その日に署名していないのにそう言うことは、真実ではないことを言っていることになるからです。「実際に存在しなかったものを偽造する」ことは、英国では「犯罪」になります。(☚これがポイント)
全員集まることが出来ないのですが?
その場合には、持ち回りで署名する(当事者の間に、順番に書類を回す)という方法があります。この場合は、何もしなければ、契約書の記載事項が効果を発する日は最後の人がサインした日です。それまでは全員の契約意思が確認出来ていないのですから。(☚これがポイント)
そのような例をあげておきましょう。
もうひとつ別の例もあげておきましょう。
いずれの場合も末尾のサイン欄に署名日を書くことを忘れてはなりません。そうでないと「最後の署名(the last signature)」の日にちが分からないからです。
ちょっと混乱しました……
確かにちょっとややこしいですね。継続的な売買契約を例にとって、考えてみましょう。どんな場合があるでしょうか?
4月1日に両者で署名をして、さっそく取引を始めた。
3月25日に両者で署名式をすませたが、契約書は4月1日付けとして、実際の取引も4月1日以降に開始した。もちろん一旦署名したのだから、4月1日以前でも、やめるわけにはいかないことは分かっていた。
取引の方法などは了解していたので、とにかく4月1日から取引を始めたが、署名式は4月10日に行い、契約書は10日付けにした。それまでの取引も契約通りの価格等で行うことになっているので、契約書の中には「契約は4月1日以降の取引について、さかのぼって適用される」と規定した。
売主は4月1日付けで署名して、買主に契約書面を郵送した。買主の社長は4月10日付けで署名した。買い注文は10日が最初だった。
同じように売主が4月1日に署名して、買主に契約書を送った。話はまとまっているので、契約書は1日付けにした。実際、1日から買い注文が入ってきた。ただし買主の署名は10日だった。
1 から 5 を「契約をする意思の存在/表明」、「署名日」、「実質的な契約の発効」に分けて考えると、次のようになります。
他にも組み合わせがあるかもしれませんね。でもあまりややこしいのは勧められません。関係者が後で振り返っても、すぐに状況が分かるようにすることが大切です。(☚これがポイント)