(18)〝デジ力〟の前に〝読書の筋力〟「よく読む子」に育つ5歳頃からの本好き大作戦 ~親の願いと実感編~
つづきです。
なぜ私がこんなにも長々とした「本好き大作戦」という提案を書き続けているかというと、次のような理由があるからです。
(1)子育てを通して「世の中には思ったよりも本好き仲間が少ない」とショックを受け、それでも「けっこうな数の親が『子どもに本好きになってほしい』と願っている」と知ったから。
(2)身近な人(友人や夫)が「本を読むと疲れる」と話す理由は、子ども時代に「読書の筋力を鍛える訓練をしていないから」と気づいたから。
(3)世の中が急激に「子どもの読解力の低下」について騒めいているのを感じ、「読解力って、後付けで勉強して高めるのは難しいのでは…」と思ったから。
…以上なのですが、まずいちばん大きな動機となった(1)についてお話させてください。個人的な体験談になるので、興味のある方のみ、どうぞ。
〈「本大好き」の世界から「そうでもない世界」への転生〉
私は20歳から15年間、雑誌編集者やライターとして働いていました。
出版業界ですから、周りは基本的に本好きばかり。
誰でも大抵は好きな作家がいますし、お勧めの小説を貸しあったり、感想を語ったりするのは日常。販促のための書店まわりもしていたので書店員さんの知り合いもいて、良い本を売りたいという方達の情熱もひしひしと感じていました。
30代で結婚し、30代なかばで第1子を妊娠・出産した私は休業し、家事育児に専念します。
いつかはまた出版の世界で働きたい…と漠然と考えてはいましたが、その後、引っ越し、第2子出産、また引っ越し、大切な人の病気、夫の激務…とあらゆる事態が重なり、やっと一息ついた頃にコロナ禍がスタート。目の前のことにあたふたと対応しているうちに、仕事復帰しないまま10年が経ちました。
もともとハードな業界なので、よほど心身の調子が整わないと復帰するのは難しかった…という理由もあります。
ただ、実りある年月ではありました。
結婚するまでの人生の大半を「本を読むこと、書くこと、本を作ること」に捧げてきた私にとって、家事育児のほうが新世界。
子どもに関わることや、新しい人間関係も新鮮で、「みんなこんなふうにして頑張っているんだなぁ」と…必死ではありましたが充実した体験ができていたと思います。
ですが、実はちょっとしたショックもありました。
それは、「世の中の人はそれほど本好きでないのかも」…ということ。
もちろん、寝る時間すら満足に得られない子育て中に本を読む時間なんてほぼありません。
だから今現在「読めない」のは仕方ないのですが、知り合ったママ友さんと、どうしても「好きな作家や本のジャンル」について話ができないのです。恐る恐る「出産前…つまり自由な時間があった頃の趣味」について探りを入れても(すみません)、本が好きという人にはなかなか出会えません。
これは、個人的にはちょっとした「異世界転生」でした。
―読書する自分が偉いとは、まったく思いません。
例えて言うならこのショックは、「プロ野球大好き一家で育った子どもが、中学生くらいになって友人達に『ねえ、プロ野球でどの球団が好き?』とウキウキで尋ねたら、「いや…野球自体興味ないし」と言われたような感じに近いです。
あれ、自分もしかして少数派?…というほんのりとした寂しさ。
ただ、特定のスポーツならそれでもいいでしょう。
問題は、何かのタイミングで読書の話になった時、少なくない数のママさんがこう言うのです。
「私はあまり本を読まないんだけど…子どもには本好きになってもらいたいんだよね」
…いや、そうなの!? と思いました。(8)でも少しお話しましたね。
〈「子どもに読書を…と願っただけ」ではもったいない!〉
子育てを通して私が気づいたこと…それは「世の中の少なくない数の親が、『子どもに本好きになってほしい』という願いを抱いている」ということ。
え、じゃあ、そうすればいいじゃん?…と思うかもしれませんが、「自分はあまり本を読まない」から困っているのです。
自分が好きじゃないもの、経験の浅いものを、人に「おもしろいよ、やってみたら」と勧めるのは難しいですよね?
(16)でも書いた通り、スポーツや音楽や英会話と違って、プロにゆだねる方法がほぼありませんから。
―では、この親達の願いはどうなるのでしょう?
たぶん大半が「願ったけど難しかった」で終わるのではないでしょうか。
それはもったいない!
そんなもったいないことが、あっていいはずがない! と思いました。
〈「賢くなるため」じゃなく「おもしろいから」読書を!〉
そして実はもうひとつ、ママ友さん達の言葉を聞いて気づいたことがあります。
それは、「本好きになってほしい理由」です。
はっきりと言葉にする人は少なかったのですが、「ためになりそう」「賢くなりそう」というニュアンスで話す人が大半。
もちろん親としてその気持ちは痛いほどわかりますし、育児関連の情報誌やメディアには、「子どもに良本を」「本は子どもの〇〇を育てる」という情報が満載です。
―でも、私は思いました。
子どもの年齢やシチュエーションにもよりますが、「ためになるから」「賢くなるから」と勧められたものに対して、基本的に子どもの反応は薄いです。
それならば、「すっごくおもしろいよ!」と勧めたい。
事実、本は死ぬほどおもしろいからです。
本はおもしろい。
出会い方さえ間違わなければ、本は一生飽きることのない楽しみを心に与えてくれます。
それを、パパ、ママ達、子ども達にも伝えたい…そんな気持ちで、今これを書いています。
つづきます。