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週刊俳句上原(第25巻06号)
ゑひ[酔]では、毎週日曜日に、上原ゑみの新作の俳句を発表します。毎週5句発表です。
きさらぎの家族が覗く点検口
残る寒さよ腿裏に革触れて
ざらざらと余寒のメリーゴーラウンド
空黒し梅と粒子と定まらず
裡の真うへに片栗の花ゐます
日々処理すべき案件のいちいちに解決の見込みが立たないから「頭がモゲそうだ」という話になって、「そういう時の気分転換とか趣味とか、何かあります?」と聞かれたのでつい「俳句です」と答えてしまった。この回答に対し気の利いたひと言を速やかに返せる一般人はそういないので、ビジネス会話上、完全に返しのミスだ。慌ててもう少しメジャーな「茶道を習っていたこともあるんですけど正座が出来なくて挫折しちゃったんですよねーワハハ」と言い足したら明らかに安堵の表情を取り戻した相手も、共有が可能なタイプのその人の趣味の話で繋いでくれたのだった。憂き世のあれこれから精神を解放してくれる俳句が私を支えているのは確かで、このゑひの活動も含めて今やそれなくして自身を立たせることは難しい。ちなみに俳句、嗜む人を数えれば意外に多く、そのスタンスも人によりさまざま。相対的に私はのめり込んでいるほうだと思う。何事も真剣に向かえば苦しい局面はあり、たとえば〆切日に句が揃ってないとか(私は寡作である)、作風の方向性に悩むとか、理想に届かない現状に打ちのめされるとか、伸び悩むバンドマンみたいに追い込まれてはまた「頭がモゲそう」にもなるわけだ。
シコウして最近の私の更なる逃避先は唐突に「家具のネット検索」ということになった。これには理由があって実は今、引っ越しの途中の仮住まい中で、ただでさえ狭いスペースの大半が倉庫を兼ねるような空間で生活している。具体的には、玄関ドアを開けた私の背後まで迫る山積みのダンボール箱をクロネコヤマトのお兄さんは毎回目撃することになる。「なんで片付けないの?怠慢なの?」って絶対思ってますよね。不本意なことこの上ない。とその反動で美しい家具を心が求めた。
モノ余りの時代を経、今は断捨離 or ミニマムを指向するのが旬である。かつては大きな家に住んでいたという空間プロデューサーやコーディネーターといったそちら系の感度の高い人たちが、敢えて小さな家に引っ越しましたとSNSで披露する新居のインテリアは、小さくなったってクールのど真ん中を外さない。色彩もグレー系・ホワイト系など (流行ってるらしい) 抑えが利いていてカッコいい。とあるサイトで見かけたそんな1人の女性の新居の、余計なものを省くリビングにポツンと置かれた椅子に私は憧れた。
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(フリッツ・ハンセン公式HPより)
SASロイヤルホテルのためにデザインされた、白鳥を思わせる椅子
建築家でデザイナーのArne Jacobesen(アルネ・ヤコブセン)が1958年にデザインしたSWAN CHAIR(スワンチェア)。コペンハーゲンにあるSASロイヤルホテル(現ラディソンコレクション)のためにデザインされたもので、白鳥の羽根を思わせる左右のアームが特長です。アルミニウム製のスターベースに、合成素材の成形シェルを乗せ、それを常温硬化フォームの層と張り地で覆っています。すべて曲線で設計されたスワンチェアは、発表当時は革新的なデザインとして高く評価されました。
座ってみると、まるで椅子に包み込まれるような安心感があります。 しっかりと体にフィットするため、ローバックでありながら快適な座り心地を実現。羽のようなアームの高さも程よく、無理なく両腕を預けることができます。ローバックでコンパクトなサイズなので、空間にプラスで取り入れやすいのも魅力のひとつです。
バリエーションは、ファブリックとレザーからお選びいただけます。使用する空間や好みに合わせてお選びください。
世界には名作といわれる家具があまたあり、このスワンチェアもそのひとつであるらしい。どうりで素敵。名作だけにお値段税込み JPY 734,800 嗚呼日本円。しかし今が円高の時代であったとしても、この優雅でハイブロウな椅子に私のお尻は相応しくない。かような調子で諦めては次を調べていくと名作椅子にはそれぞれの物語があり、製作エピソードがあり、クリエーターたちの矜持や哲学があり、憂き世も俳句も忘れ、楽しいのであった。一方、いろいろと見比べているうちに妄想の中身は変わり、私が倉庫のような今の家を出たあかつきには、日本人の体型や骨格に合わせて作られた日本の名作椅子(それはそれでお高い)をひとつ、新しい家のリビングに置くことに、現段階ではなっている。そして以上の話題が発表句の内容に関係しないのも、一句めにあるさびしらな床下の点検口について考え過ぎた反動である。