夏旅~遅ればせながら
米国からの帰国途中に7年間も棚上げしていた夏旅を実行した。念願のヴェネツィアに到着すると、家族3人の所持品すべてが詰まったスーツケースが出てこない。経由地のフランクフルトに置き去りにされ、翌日、舟で宿まで届いた時には感動したが、到着直後に着替えを買いあさる珍道中になった。
当時(約30年前)はスマホでゴンドラ相場を調べることもできず、「いくらするんだろう? 高そうだよね」と悩んだ挙げ句、勇気を出して交渉に挑んだ。案内人は私たちの国籍を尋ねると30分1万円と言う。バブル崩壊前の日本は景気がよかったので「これはふっかけられたな」と判断。(※なんと30年後の現在と同じ相場⚠️それとも日本人の給与は上がってないから適正価格❓)
「残念だけど高すぎるから諦める」と断言して帰りかけると、「ちょっと待て」と呼び止められた。先方はしばらく背後で相談してから「半額なら乗るか?」「もちろん!」
やがて、いかにも経験浅そうなお兄さんが船頭に抜擢されて現れたのだが、私たちは半額交渉が成立したことに有頂天で全く気にならなかった。若手お兄さんはゴンドラ同士が行き交う度に大声で合図を送る。船頭にも序列があるのか、とにかくヘマをするまいとの必死さが伝わってくる。
途中、ゴンドラ上でオペラさながら歌い始める人もいて、それを聞きつけた住人が窓から顔を出して一緒に歌い始めるなど、イタリアならではの光景が繰り広げられ夢見心地で楽しんだ。
そろそろ折り返し地点かと思った頃、お兄さんは「15分経ったので、これで終わりです」と言った。「ちょっと待って、契約は30分では?」と問うと、半額だからコースも半分なのだと申し訳なさそうに言う。なんと半額にディスカウントしてくれたと思ったのは私たちの勘違いで、先方は単に時間を短縮しただけだったのだ。だったらなぜ最初に「15分でもいいか?」と問わないのか。自分たちの詰めが甘かったにしても、騙された感を拭えず後味の悪さが残った。当然と言えば当然だが、価格交渉はヴェネツィアの商人のほうがプロなのだ。
とはいえ、小さな子連れで旅する東洋人はめずらしかったのか、行く先々で温かく迎え入れてもらえたのも事実だ。息子はリストランテで抱っこされて厨房まで入れてもらえたし、宿のフロントスタッフからは穴場の海水浴場を教えてもらった。日本なら繁忙期にスタッフが真昼間から海でくつろぐことはまずないだろうが、お昼寝ありで半ドン多発の働き方をするイタリア人の大らかさは、私たちの心にもゆとりを分け与えてくれた。
もう二度と来ることはないだろうからヴェネツィアングラスを記念に買って帰ろうと、ムラノも訪ねることにした。
大きな工芸品は目が飛び出るほど高額だが、小物好きの私はリーズナブルなペーパーウェイトやペンダントで十分満足だった。
「いろいろあったけど、面白かったからいいんじゃないか」
夫はそう言うと仕事のため単身イタリアに残り、私は「ヴェネツィア」→「フランクフルト」→「ロンドン」→「成田」の24時間ワンオペ子連れ帰国を決行した。一睡もしたがらない長男との旅がどれほど大変かを思い出すのはもうやめておこう。これにて遅ればせのハネムーン珍道中はおしまい也。
どーでもいい昔話にお付き合いくださり、ありがとうございました♡
【追記】