おやじプログラミング第3話:思わぬ関心
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「これでどうでしょう」
啓介は画面に表示された提案書の最終版を見直しながら、田中に声をかけた。昼休みの一件が気になって集中できなかったが、なんとか見積もりと提案書をまとめ上げた。
「ありがとうございます。今から確認させていただきます」
田中は丁寧に一つ一つの項目を確認していく。啓介は背筋を伸ばしたまま、緊張した面持ちで待っていた。営業成績は下位でも、提案書作りには長年の経験と自負があった。それでも、若手エースの田中のチェックは緊張する。
と、突然田中が顔を上げた。
「あの、篠原さん。さっき昼休みに見ていたパソコンの画面、なんだったんですか?」
啓介は思わず身を硬くした。昼休みにスマートフォンを慌てて隠したのを見られていただけでなく、パソコンの画面まで目撃されていたのか。
「ああ...それは...」
言いよどむ啓介に、田中は「気になっちゃって」と笑顔を見せる。この若手は、たまにこういう無邪気な表情を見せる。啓介は観念して説明することにした。
「堂場瞬一という作家の本を管理するためのプログラムなんだ。ChatGPTに教えてもらいながら作ってるんだけどね」
「えっ、プログラミングですか?」
田中の目が輝いた。
「それ、すごくないですか?五十代でプログラミング始めるなんて、誰も真似できないですよ」
啓介は思わず苦笑いを浮かべた。「たいしたものじゃないよ。ただの趣味さ」
田中は提案書に視線を戻しながら、「でも面白いなあ」とつぶやいた。「あ、それはそれとして、この提案書のチェック、続けさせていただきますね」
啓介はほっと胸をなでおろした。昼の失態を笑い話で済ませられたことに安堵しながら、ふと、今の会話が思いがけない余韻を残していることに気がついた。
(つづく)
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