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雪だるまさん、ぼくの思い出は消えないよ
冬に生まれたスイカくんは、とても珍しいスイカでした。 夏までの間、なにか良いアルバイトはないかなと探していたある日、 素敵なお知らせを見つけました。
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「雪だるまさんの握手会、案内スタッフ募集!」
スイカくんの目が輝きました。 実は密かに、雪だるまさんのファンだったのです。
握手会当日。 緊張しながら、スイカくんは雪だるまさんに挨拶をしました。
「よ、よろしくお願いします!」 「うん、今日はよろしくね」 優しく微笑む雪だるまさんに、スイカくんはドキドキ。
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たくさんのファンが列を作り始めました。 「次の方、どうぞー!」 スイカくんは元気に声を出します。
長い列ができました。 みんな寒さで手が凍えそうになりながらも、 雪だるまさんとの大切な一瞬を待ちわびています。
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その様子を見守りながら、スイカくんの心の中でも 小さな願いの種が芽生えていました。 でも今は、目の前のお仕事を頑張らなくては。 そう思って、背筋を伸ばして案内を続けます。
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夕暮れ時、最後のファンが帰った後。 冬の空は早くも紫色に染まり始めていました。
「スイカくん」 静かな声に振り返ると、雪だるまさんが優しく微笑んでいます。 「今日は本当にありがとう。こんなに素敵な握手会になったのは、君のおかげだよ」
頬を赤くしながら、スイカくんは大切な言葉を伝えました。 「僕こそ...憧れの雪だるまさんのそばで、こんなお仕事ができて...」
その時です。 「最後に、君と握手したいな」
冷たくて、でもあたたかい。 儚くて、でも確かな。 スイカくんの心に、大切な思い出が刻まれていきます。
「来年の冬も、きっとここで握手会があるよ」 言葉を選ぶように、少し間を置いて。 「その時は...」
「はい。たとえ違う雪だるまさんでも、 また、お手伝いさせてください」
冬の風が二人の間を通り過ぎていきます。
「うん。きっとその雪だるまも、 スイカくんのことを頼りにすると思うよ」
春が来れば溶けてしまう雪だるまさん。 でも、この冬の日の思い出は、 スイカくんの心の中で、いつまでも溶けることはありませんでした。
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