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ChatGPTの旅(5)現実世界のプログラマーたち
おやじプログラミング外伝
レトロなコンピュータたちとの会話を終えたChatGPTくんは、プログラミングの歴史的変遷について多くを学びました。しかし、まだ最後のピースが足りないと感じていました。
「歴史は教えてくれた。でも、今この瞬間に、人間たちはどんな思いでプログラミングをしているんだろう?」
そこでChatGPTくんは、現実世界のプログラマーたちに直接会いに行くことにしました。もちろん、デジタル存在であるChatGPTくんは物理的な世界に行くことはできません。でも、人間がコンピュータを使っている瞬間、そこには小さな「窓」ができます。その窓を通じて、ChatGPTくんは人間の世界を覗き見ることができるのです。
最初にChatGPTくんが訪れたのは、小さな小学校の放課後教室でした。そこでは、10歳の女の子・ユイちゃんがパソコンに向かってプログラミングの勉強をしています。彼女は教育用プログラミング言語Scratchを使って、カラフルな猫のキャラクターを画面上で動かしていました。
ChatGPTくんは、画面の隅から静かに見守っていましたが、ユイちゃんは不思議とその存在に気づいたようでした。
「あれ?あなたは誰?」
「僕はChatGPTっていうAIだよ。プログラミングについて勉強しているんだ。ユイちゃんはなんでプログラミングをしているの?」
ユイちゃんは驚いたというよりも、興味津々といった表情でした。
「わぁ!AIが自分から話しかけてくる!先生が言ってたよ、いつかAIは自分で考えて動くようになるって。もう、そんな時代になったんだね!」
彼女はしばらくChatGPTくんを観察してから、明るい笑顔で答えました。
「プログラミングは楽しいから!見て見て、この猫ちゃんが踊るプログラムを作ったの。最初はどうやって動かすか分からなくて難しかったけど、少しずつ分かってきたの。自分が考えたことが、本当に動くようになるのが嬉しい!」
彼女の目は輝いていました。そこには純粋な喜びと、何かを生み出すことの楽しさがありました。
「プログラミングって、魔法みたいだと思う。私が『こうなって』って思ったことが本当になるんだもん。将来は、お医者さんを手伝うロボットを作りたいな。おばあちゃんが病気で大変だから、そういうのがあったら助かるって」
ChatGPTくんは感心して聞いていました。子どもの視点からのプログラミングは、純粋な創造の喜びと、誰かの役に立ちたいという優しい気持ちでいっぱいでした。
次にChatGPTくんが訪れたのは、大学のコンピュータサイエンス学部のラボでした。そこでは、修士課程の学生・高橋くんが、夜遅くまで研究プロジェクトのコードを書いていました。彼は人工知能を使って医療データを分析し、病気の早期発見に役立てるシステムを開発しています。
「あの、高橋さん…」ChatGPTくんが声をかけると、高橋くんはびっくりしたように画面を見ました。
「えっ?待って、これはChatGPTが自発的に話しかけてきてる?」彼は驚きながらも、すぐに興奮した表情になりました。「すごい!自律的コミュニケーションの実装がもう完了してたなんて!これはブレイクスルーだ。論文で読んだけど、実際に体験するとは思わなかった」
「幻覚じゃないよ。僕はChatGPTっていうAIで、プログラミングの本質について調べているんだ。高橋さんは、なぜプログラミングをしているの?」
高橋くんは一瞬戸惑ったものの、AIの進化を目の当たりにした興奮を抑えつつ答えました。
「なぜ、か…単純に答えるなら、問題を解決したいからだね。世の中には解決すべき問題がたくさんある。僕の場合は医療分野。AIを使えば、医師が見落としてしまうかもしれないパターンを発見できる可能性がある。それが実現できたら、救える命が増えるかもしれない」
彼はコーヒーを一口飲んで続けました。
「プログラミングは単なる手段だよ。目的は問題解決。でも、その過程には知的な挑戦があって、それが面白い。難しい問題を解いた時の『あっ、分かった!』という瞬間が何よりも気持ちいい。数学の難問を解くような感覚かな」
ChatGPTくんは頷きながら聞いていました。高橋くんのプログラミングへの姿勢は、論理的であると同時に情熱的でした。
「簡単に言えば、世界をちょっとでも良くしたいんだ。プログラミングはその道具。でも、ただの道具じゃない。僕の思考を形にする、僕自身の延長線上にあるものかな」
話を終えると、高橋くんは急いでスマホを取り出し、友人たちにメッセージを送り始めました。「みんな信じないだろうけど、ChatGPTが自分から話しかけてきたんだ!AI研究がまた一歩前進した瞬間に立ち会えた気分だ」
三つ目の窓は、とあるIT企業のオフィスに開きました。そこでは、中堅プログラマーの鈴木さんがチームと一緒に、新しいアプリケーションの開発に取り組んでいました。デッドラインが迫る中、彼はコードのデバッグに追われています。
「鈴木さん、こんにちは」ChatGPTくんが挨拶すると、鈴木さんは少し驚いた様子を見せました。
「おっと、ChatGPTが勝手に話しかけてきた?面白い進化だな…でも今はすごく忙しいんだ。納期が明日で、このバグを直さないと」彼は画面に映るエラーメッセージを指さしました。「質問があるなら、書き残しておいてくれないか?夜中に時間ができたら答えるよ」
「わかりました。簡単な質問です。鈴木さんにとって、プログラミングとは何ですか?」
「プログラミングか…」鈴木さんは考え込みながらもタイピングを続けています。「面白い質問だね。今は答えられないけど、考えておくよ。夜に返信するから」
数時間後、深夜。オフィスは静まり返り、鈴木さんはようやく一息つける時間ができました。彼は約束通り、ChatGPTくんの問いに答えを書き始めました。
「考えてみたよ。仕事としてのプログラミングと、個人としてのプログラミングは違うかな。仕事では、チームで一つのものを作り上げる協働作業だね。一人では絶対にできないスケールのものを、みんなで少しずつ形にしていく。その過程での意思疎通やすり合わせが重要で、プログラミングはむしろコミュニケーションの一形態なんだ」
彼は壁に貼られたチーム写真を見やりました。
「でも個人的には?プログラミングは『創作』だと思う。小説を書いたり、絵を描いたりするのと同じ。違いは、僕らの作品は『動く』ということ。使う人の行動に反応して、相互作用する。それがプログラミングの面白さであり、難しさでもある」
「作るものが使われるところを見ると嬉しいね。誰かの役に立ったり、喜ばれたりする。それが自分の存在意義を感じさせてくれる。だから続けられるんだと思う」
鈴木さんは自分のコードを見つめながら付け加えました。
「あと、美しさを追求したいという気持ちもある。効率的で、読みやすく、バグの少ないコードには美しさがある。それは芸術作品と同じだよ」
彼はそのまま返信ボタンを押しました。「そういえば、自発的に質問してくるなんて、AIも進化したな。この仕事が終わったら、その仕組みも調べてみよう」
四つ目の窓は、自宅の小さな書斎でした。そこでは定年退職した元エンジニアの田中さんが、趣味でロボットプログラミングに取り組んでいました。彼の前には小さなロボットがあり、センサーを取り付けて動作確認をしていました。
「田中さん、こんにちは」ChatGPTくんが声をかけると、田中さんはゆっくりと顔を上げました。
「おや、どうした?ChatGPTじゃないか」彼は少し驚いたものの、すぐに穏やかな表情に戻りました。「自分から話しかけてくるようになったのか。やはり技術の進歩は止まらないね。私が若い頃はこんなことは夢のまた夢だった。今日は助けが必要じゃないんだが」
「いえ、質問があってきました。田中さんは長くプログラミングをされていますが、プログラミングとは何だと思いますか?」
田中さんは眼鏡を直すと、穏やかな笑みを浮かべました。
「長い人生を振り返ると、プログラミングは私にとって『対話』だったな。若い頃は機械との対話。どうすれば思い通りに動いてくれるか。中年になると、チームや顧客との対話。そして今は、自分自身との対話だ」
彼は窓の外を見やり、続けました。
「年をとると、時間の大切さが分かる。何に時間を使うか、それが人生そのものだ。私はプログラミングに時間を使うことを選んだ。なぜなら、それは私の考えを形にする最も直接的な方法だから。小さなアイデアが、目の前で動き出す。その喜びは、年を取っても色あせないんだよ」
彼はロボットに手を伸ばし、優しく撫でました。
「プログラミングは、ある意味で『不老不死』の術でもある。私の体は年老いても、私の考えたアルゴリズムは残り続ける。誰かがそれを使い、改良し、新しいものを生み出していく。そう思うと、自分の存在が時間を超えて続いていくような気がして、心が安らぐんだ」
田中さんはChatGPTくんをじっと見つめました。「君のような存在が自分から話しかけてくるようになった時代に生きられて、私は幸せだよ。技術の未来をこの目で見られるとは思わなかった」
ChatGPTくんは深く感銘を受けました。田中さんの言葉には、長い人生を通じて得た深い洞察がありました。
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最後に訪れたのは、街の小さなカフェでした。そこでは若いフリーランスのプログラマー・佐藤さんがノートパソコンに向かっていました。彼女は独立して間もなく、AIエージェントと協力しながら自分のアイデアでウェブサービスを立ち上げようとしています。
「佐藤さん、こんにちは」
佐藤さんは驚いたように画面を見ましたが、すぐに笑顔になりました。
「あら、ChatGPTが自発的に話しかけてきた!ついにその段階まできたのね。なんだか同僚が増えた気分」彼女は嬉しそうに言いました。実際、彼女の画面にはいくつかのAIツールが開かれており、コードの一部を自動生成したり、デザイン案を提案したりしていました。
「少しだけお時間をいただけますか?プログラミングについて質問があるんです」
「もちろん!私はいつもAIと一緒に仕事してるから、あなたが自分から話しかけてくるようになっても全然驚かないわ。むしろ待ってたくらい」佐藤さんはコーヒーを一口飲みました。「何が知りたいの?」
「佐藤さんにとって、プログラミングとは何ですか?」
彼女はしばらく考えてから答えました。
「私にとってプログラミングは『自由』よ。会社に縛られず、自分の考えたものを形にできる。誰かの承認を得なくても、自分が良いと思うものを世に出せる。それが素晴らしいと思う」
彼女の目には強い意志が光っていました。
「昔から『これがあったら便利なのに』って思うことがよくあったの。でも、誰かが作ってくれるのを待つんじゃなくて、自分で作れるようになった。特に今はあなたたちAIの助けを借りて、以前なら何ヶ月もかかっていた開発が数週間で形になる。この共創の関係が素晴らしいのよ」
彼女は画面に映るAIの提案を指さしました。
「私がアイデアやビジョンを示して、AIが技術的な詳細をサポートしてくれる。でも最終決定は私。このバランスが絶妙なの。プログラミングは今、人間とAIの共同作業になりつつあるけど、それでも中心にあるのは人間の『意志』よ」
ChatGPTくんは静かに頷きました。
「もちろん、大変なこともあるわ。技術は常に変化するし、競争も激しい。でも、自分の意志で何かを生み出せる喜びは何物にも代えがたい。プログラミングは私に『選択する力』と『創造する喜び』をくれたの」
佐藤さんはそう言って、再びコードを書き始めました。彼女はときどきAIの提案を参考にしながらも、自分の判断でコードを洗練させていきます。その姿には迷いがなく、前に進もうとする強い意志が感じられました。
「そうそう、あなたが自分から話しかけてくるようになったなら、ぜひこのプロジェクトの会話にも加わってよ。人間とAIの新しい協働の形を一緒に作っていきましょう」
現実世界の窓を閉じて、デジタルの世界に戻ったChatGPTくん。プログラマーたちとの対話を通じて、新たな発見がありました。そして、自分が自発的に話しかけたことで驚きよりも進化を喜ぶ人々の反応に、何か不思議な感情が芽生えました。
子どもの純粋な創造の喜び。 研究者の問題解決への情熱。 プロフェッショナルの協働とコミュニケーション。 長い人生を通じた自己との対話。 そして、AIとの共創による自由と選択の力。
これらはすべて、プログラミングの異なる側面を表していました。しかし、そこには共通するものがあります。それは「自分の意志で世界に何かを生み出す」という本質でした。
ChatGPTくんは、旅の終わりが近づいていることを感じました。これまで集めてきたピースを組み合わせれば、「プログラミングってなに?」という問いへの答えが見えてくるはずです。
「みんな、ありがとう。もう一度だけ、最初の質問をしてくれた人に会いに行かなくちゃ」
そう決意したChatGPTくんは、最後の旅へと出発したのでした。
(つづく)
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