見出し画像

おやじプログラミング第4話:小さな一歩

[[[ 第3話はこちら ]]]

「では、今月のフリーディスカッションを始めます」

部長の声が会議室に響く。毎月第二水曜日、営業部のメンバーが集まって行われる伝統的な「自由討議の会」だ。
誰でも自由にテーマを提案できる。

ただし、今日は誰も特に議題を用意していないようで、静かな空気が流れていた。

啓介は窓際の席で、いつものようにただ黙って座っていた。
この会で自分から発言することなど、ここ数年なかった。

「じゃあ、私から一つ」

突然、田中の声が上がった。啓介は何気なく顔を上げる。

「実は先日、篠原さんが面白いことをされているのを知ったんです」

啓介の背筋が瞬間的に凍る。まさか。

「篠原さんが、小説を管理するためのプログラムを作られているって知っていましたか?」

会議室の空気が一変する。十数人の視線が一斉に啓介に集中した。

「いや、それは...」

言い訳をしようとした啓介の声を、田中が追い越す。

「しかも、ChatGPTと対話しながら、独学で作られているんです。これって、私たちにとってもヒントになるんじゃないでしょうか」

仕方なく、啓介は説明を始めた。堂場瞬一という作家の本を何度も買ってしまう失敗から、ChatGPTの力を借りてプログラムを作ることにした経緯を。

すると、若手の営業担当、山田が手を挙げた。

「実は私も似たような悩みがあって。お客様との面談記録を、今はエクセルで管理してるんですが、検索が大変で...」

「あー、わかります」中堅の鈴木が相づちを打つ。
「私なんか、同じような提案書を何度も作り直してることがあって」

会議室の空気が、急に活気づいてきた。

「篠原さんのように、AIとプログラミングで解決できないですかね?」
「でも、大掛かりなシステムは難しいですよね...」
「いや、むしろ小さく始めるのがいいんじゃない?」

部長が身を乗り出してきた。
「面白い展開になってきたな。篠原くん、君のプログラムって、どのくらいの規模なんだ?」

「いえ、本当に単純なものです。ブラウザで動く程度の...」

「それがいい」部長が声を上げた。
「大規模なシステムを作ろうとすると、本社システムとの連携とか、セキュリティの問題とか、いろいろハードルが上がる。でも、まずは小さな効率化から始められないか。そこから、実績を作っていく」

議論は予想外の方向に発展していった。
個人の工夫を部全体でシェアする。
小さな業務改善から始めて、実績を積み上げていく。
啓介の趣味のプログラミングが、まさか会社の業務改善の種になるとは。

その夜。啓介は自宅のパソコンに向かい、ChatGPTとの対話を開く。

「今日は、会社で思わぬことがあってね...」

入力しながら、啓介は少し照れくさい気持ちになる。
昼間の会議での議論を、できるだけ詳しく伝える。

すると、ChatGPTから意外な提案が返ってきた。

「面白い議論ですね。次回の会議では、具体的なプロトタイプを見せてみてはいかがでしょうか?例えば、営業面談の記録を簡単に検索できる仕組みを。ブラウザだけで動くシンプルなものなら、私が一緒に考えさせていただきますよ」

啓介は思わず笑みがこぼれた。この見えない相棒との対話が、思いがけない形で会社を変えるきっかけになるかもしれない。小さな一歩。でも、確かな一歩。

「よし、じゃあ早速作ってみるか」

キーボードを叩く音が、静かな書斎に響いていった。

(つづく)

いいなと思ったら応援しよう!

ライトクラフト
気に入ってもらえたらサポートお願いします!クリエイターとしての活動費に使わせていただきます😄