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国立マルケ美術館

ウルビーノ美術散歩

ラファエロの生家があるウルビーノ中心部の、ルネサンス広場にポツンとある小さなオベリスク。
こんな地方都市でオベリスクを見るとは!

ウルビーノのオベリスク

花崗岩の5つのブロックから出来ているオベリスクは、紀元前558-568年頃の時代のもので、おそらくローマのミネルヴァ広場にあるオベリスクの片割れだろうとのことです。
1737年に教皇クレメンス11世のオマージュに、時の枢機卿アルバーニが手配してウルビーノに持って来させ、そのまま現在までここにあります。

※ちなみに、イタリアには15本のオベリスクがあります。9本がローマ、1本がヴァチカン、その他フィレンツェ、ウルビーノ、カターニアに1本ずつ、ベネヴェントに2本。

モンテフェルトロ家の名君フェデリーコ公の居城ドゥカーレ宮殿は現在、国立マルケ美術館になっています。
内部は改装されてしまっていて、ルネサンスを感じるものは外観以外にほとんどない状態ですが、唯一「ピエタの部屋」にオリジナルのフレスコ画が残っていて、15世紀当時の面影を留めています。

ドゥカーレ宮殿
15世紀のフレスコ画が残る部屋

ずいぶん痛みが激しいフレスコ画でしたが、当時はさぞ華やかな部屋が続いていたのでしょう。

ある部屋の隅っこに、木製のアルコーヴァが置かれていました。
アルコーヴァとはアラビア語で「テントまたは夫婦のベッド・ルーム」という意味です。
おそらくウルビーノ公フェデリーコとスフォルツァ家バッティスタの結婚祝いに制作され、彼らの新婚生活用のベッド・ルームだったのかもしれないとのこと!

アルコーヴァ
アルコーヴァ壁面

完全な立方体の形(サイズ340 x 340 x 340 cm)で、アルコーヴァはこうして壁にくっつけて設置されるものらしいです。15世紀当時は中にベッドが置かれていましたが、現在はアルコーヴァのみ展示でした。

アルコーヴァ入口には新郎モンテフェルトロ家の紋章と新婦スフォルツァ家の鷲の紋章がデザインされ、内部はルネサンス期の典型的な模様アザミの花やザクロをモチーフにしたものが見られました。

アザミは「受難」を、ザクロは「多産」の意味があり、木々が描かれているのは緑豊かな庭の中にいるような錯覚をおこさせるためではないか?との説明書きがあります。この宮殿内に残る、木製家具としては唯一の15世紀オリジナル品です!
当時は扉もついていたのでしょうか・・・
まさか開けっ放しで中に夫婦が寝ていたのかな?と、少々下世話なことを考えてしまいました(笑)

バッティスタとフェデリーコの肖像

  この肖像画はフィレンツェのウフィッツィ美術館にありますが、この有名なプロフィールがウルビーノ公フェデリーコとスフォルツァ家のバッティスタです。
背景にはモンテフェルトロ家が支配したマルケの風景が描かれています。またフェデリーコの日焼けした顔とバティスタの真っ白い顔色、このコントラストはルネサンス期当時の美的感覚を尊重しており、これを描いたのはピエロ・デッラ・フランチェスカ。
国立マルケ美術館には彼の作品も2点あります。

フェデリーコの書斎
フェデリーコと息子グイドバルド

 ドゥカーレ宮殿内に残るフェデリーコの書斎が素晴らしかったです。ここは、彼が瞑想したり勉強に専念したり、ウルビーノを訪れる知識人たちを招くという場所で、四方を彩る装飾が彼の趣味や性格を反映しているようで見ていて飽きません。
フェデリーコが崇拝していたキケロやセネカなど28人の肖像画があったらしいのですが、現在ではその半分しかオリジナルが残っていないのが残念でした(ナポレオン軍の強奪により、14枚はルーヴル美術館に所蔵されている)。

下部分は木製象嵌細工の美しいキャビネットがあって、色々な模様がありましたが、一番印象に残ったのは、窓のない書斎でも架空の風景を眺めることができるようになっていたこと。この完璧な遠近感!

木製の象嵌細工

他の見どころとしては、前述したピエロ・デッラ・フランチェスカの2作品です。
まずは『キリストの鞭打ち』(1455年頃?)。

キリストの鞭打ち

画集などで見ると真っ直ぐだけど、実物はかなりカーブしていて、思ってたよりも小さな作品。
構図遠近法を用いて、かなり考え抜かれて描かれた作品だと思われます。画面は神殿を支える円柱により二つの場面に分割され、神殿の中でキリストが鞭打たれている様子が描かれていますが、その場面よりも前景の3人が非常に目立つ、不思議な作品です。

セニガッリアの聖母子

ピエロ・デッラ・フランチェスカのもうひとつの作品『セニガッリアの聖母子(1474年)』。
とても小さな作品なので、個人の礼拝用に描かれたものかもしれません。
聖母子や背景の天使の表情が厳粛ですが、少し不思議な表情です。幼児イエスの首のサンゴや天使の真珠などの描写が本当に素晴らしい。また、衣装の襞の光と影も見事でした。

実はマルケ美術館所蔵のこの作品ともう一つのピエロ・デッラ・フランチェスカ『キリストの鞭打ち』、ラファエロの『ラ・ムータ(無口な女性)』の3点が、1975年2月に盗難に遭っており、翌年3月23日にロカルノのホテルで3点が無事に発見されたのだとか。
本当に無事に見つかって良かったと思わずにはいられません。

ラ・ムータ

ラファエロの『ラ・ムータ(無口な女性)』は特別室で展示されていました。1507年、ラファエロ24歳頃の作品です。
この作品は、1702~1710年にはフィレンツェのピッティ宮殿に所蔵されていて、その後の経緯は不明ですが、1927年にラファエロの故郷ウルビーノに送られ、このマルケ美術館所蔵となりました。

このモデルとなった女性については、色んな説があり誰なのかは今も不明です。この構図には明らかにレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』の影響があります。
この頑なに閉じた口元と訴えるような眼差しがとても印象的な肖像画でした。

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