【毎週ショートショート】お題:バンドを組む残像(495文字)
あの日、高校の文化祭でバンドを組んだ時に奏でた音の残像は、今も心に深く刻み込まれている。
数十年ぶりに、バンドメンバーのテルに偶然出会った。
「なぁ、またバンドしようぜ」私は思わず笑ってしまった。
「今更、楽器なんて・・もう忘れたよ」と答えると、「楽器は”楽”な”器”だろ。音がでればいいんだよ」と彼は笑った。
他のメンバーに連絡を取り、1日限りのバンドを再結成した。
名前は「休日のバンド」
ギターのテルは大工になっており、ノコギリをビョンビョン震わせて音を奏でた。キーボードの美沙は銀行員で、得意の電卓とソロバンで音を弾いた。ドラムの俊彦は大企業の中間管理職で、でっぷり太った腹に顔を描いて、腹をポンポコ叩いている。
これが「今を奏でている」音なのだ。
私はボーカルだったが、これといって芸が無いので、みんなの音に合わせて激しく踊っていた。すると、年のせいでお尻が緩くなったのか、ブーっとオナラが出てしまった。
「俺も音を出せたぞ」と私が言うと、「休日のバンドじゃなくて、ローマの休日になったな」とテルが笑い、「お踊り~屁プ・バーンだね」と美沙が付け加えた。
皆が一斉に笑った。
その笑い声は、決して消えることのない、宝物のような音だった。
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