大天使聖ミカエルへの祈り (ラテン語) 対訳・逐語訳

 教皇レオ13世によって導入され,1886年から1965年まで読誦ミサの終わりにいつも唱えられていた祈りである。悪魔祓い的な性格を持っている。
 2018年の「ロザリオの月」 (毎年10月) にあたり,教皇フランシスコがロザリオの最後に唱えることを勧めた2つの祈りのうちの一つでもある (もう一つは "Sub tuum praesidium")。
 


更新履歴

 些細な変更は記録しない。

2025年1月19日 (日本時間20日)

  •  音源 (YouTube動画) を追加した (テキストと全体訳の下)。

2024年12月4日 (日本時間5日)

  •  導入文をいくらか簡潔にし,また,"Sub tuum praesidium" を訳した記事へのリンクを加えた。

  •  一部の訳語を改めた。「私たち」→「私ども」, 「邪悪さ」→「邪悪」, 「謀略」→「罠」, 「神的な」→「神の」。

  •  逐語訳で "tuque" の "tu" を呼格と解釈していたのを,主格ととる解釈に改めた。それに伴い解説も加えた。全体訳・対訳ではもともとそのように訳していたので,そちらは変えていない。

  •  対訳の部と逐語訳の部とを統合した。

2021年1月27日 (日本時間28日)

  •  投稿
     


【テキストと全体訳】

Sancte Michael Archangele, defende nos in proelio; contra nequitiam et insidias diaboli esto praesidium. Imperet illi Deus, supplices deprecamur:
tuque, Princeps militiae caelestis, Satanam aliosque spiritus malignos,
qui ad perditionem animarum pervagantur in mundo, divina virtute, in infernum detrude. Amen.
大天使聖ミカエルよ,私どもを戦いにおいて守ってください。悪魔の邪悪と罠とに抗する守護者となってください。あの者 (=悪魔) を神が支配下にお置きになるようにしてください,切にお願いします。そしてあなた (自身) は,天軍の総帥よ,霊魂たちを滅ぼそうとしてこの世をうろついているサタンとその他の邪悪な諸霊を,神の力によって地獄へと突き落としてください。アーメン。

 ラテン語学習の教材としてお使いになりたい方のため,古典ラテン語式による母音の長短を示しておく。
Sāncte Michael Archangele, dēfende nōs in proeliō: contrā nēquitiam et īnsidiās diabolī estō praesidium. Imperet illī Deus, supplicēs dēprecāmur;
tūque, Prīnceps mīlitiae caelestis, Satanam aliōsque spīritūs malīgnōs, quī ad perditiōnem animārum pervagantur in mundō, dīvīnā virtūte in īnfernum dētrūde. Āmēn.
 

【対訳・逐語訳】

Sancte Michael Archangele,

大天使聖ミカエルよ,

Sāncte Michael 聖ミカエルよ (Sāncte:聖なる)
Archangele 大天使よ

defende nos in proelio;

私どもを戦いにおいて守ってください。

dēfende 守ってください,防戦してください (動詞dēfendō, dēfendereの命令法・能動態・現在時制・2人称・単数の形)
nōs われわれを
in proeliō 戦いにおいて,戦争において (proeliō:戦い,戦争 [奪格])

contra nequitiam et insidias diaboli esto praesidium.

悪魔の邪悪と罠とに抗する守護者となってください。

contrā ~に対抗して (英:against)
nēquitiam 邪悪,不道徳,役に立たないこと (単数・対格)
et (英:and)
īnsidiās 待ち伏せ,罠,密かな謀略 (複数・対格) ……手元の3つの辞書 (Stowasser,Sleumer,水谷) には,複数形でしか用いない語として載っている。
diabolī 悪魔の ……直前の "nequitiam et insidias" にかかる。
estō あってください (動詞sum, esse [英語でいうbe動詞] の命令法・能動態・未来時制・2人称・単数の形) ……命令法未来時制は「命令法第2式」ともいう。動詞sum, esseの命令法現在時制 (命令法第1式) 単数形は "es" なのだが,1世紀くらいから次第に第2式の "estō" で代用されるようになっていった。ここの "estō" もそういう事情で用いられているにすぎないと考えられるので,意味するところは第1式 (つまりごく普通の命令法) と同じだと考えてよいだろう。
praesidium 助け,守り,傘,覆い (主格)

Imperet illi Deus, supplices deprecamur:

訳1:あの者 (=悪魔) を神が支配下に置いてくださいますようにと,私たちは切に祈ります。
訳2:あの者 (=悪魔) を神が支配下にお置きになるようにしてください,切にお願いします。

imperet 統制/支配/命令するように  (願う),統制/支配/命令せよ (動詞imperō, imperāreの接続法・能動態・現在時制・3人称・単数の形)
illī あの者に/を,彼に/を (与格)
Deus 神が …… "imperet" の主語。
supplicēs (<supplex) へりくだって願っている,切に願っている (形容詞,複数・主格) ……次の動詞に隠れている主語 (1人称・複数,格は主語なので当然主格) を修飾している。
dēprecāmur われわれが願って得ようとする,こいねがう,祈る (動詞dēprecor, dēprecārīの直説法・受動態の顔をした能動態・現在時制・1人称・複数の形)

  •  この祈りは,ここ以外はすべて命令法・2人称で書かれており,大天使聖ミカエルに対して祈っていることが明瞭である。しかしこの箇所だけは接続法・3人称で,単に願いを表現する形 (「~しますように」「~なりますように」) となっている。

  •  そうはいっても全体が聖ミカエルへの祈りなので,ここも聖ミカエルに向かって願いを述べていると考えるとすっきりするのではないか,と考えた結果が訳2であり,全体訳ではこちらを採用した。

tuque, Princeps militiae caelestis,

そしてあなた (自身) は,天軍の総帥よ,

あなたは (主格) ……直前の文は「神が~してくださいますように」という願いだが,神が何かをしてくれることを願うだけでなく,この祈りの対象である聖ミカエル自身が何かをしてくれることをも願う言葉がここから始まる。その対比を示す "tu" である。ラテン語では主語を示す代名詞は出さなくてもよいというだけでなく,そもそもここは命令文なので (それはもっと後まで読めば分かる) なおさら主語を示す語はいらないのにこの語が現れるのは,そういう事情による。その意味で,主格の格助詞「が」より,話題を示す「は」をもって訳すのがふさわしいと考える (私は逐語訳では,主語は原則として「~が」と訳している)。
-que (英:and) …… "tūque" = "and you"。"you and" ではない。
Prīnceps 第一の者よ,率いる者よ,君主よ
mīlitiae caelestis 天の兵役の,天の軍勢の,天の兵士たちの (mīlitiae:兵役の,軍勢の,兵士たちの,caelestis:天の [形容詞]) …… "caelestis" は単数主格・単数属格・単数呼格が同形であり,理論上は前の "Prīnceps" にかける (呼格) こともできるが,そうすると "mīlitiae (軍勢の,兵士たちの)" に何の修飾・限定もつかなくなってしまい,一般的な意味での (要するに人間の)「軍勢」「兵士たち」を意味することになりかねない。しかし「サタン」「悪魔」と戦うのは一般的な意味での「軍勢」「兵士たち」ではなく天使たちのそれであるに決まっているので,ここは "mīlitiae" にかけて (属格)「天の軍勢」「天の兵士たち」と解釈するのが適切である。

Satanam aliosque spiritus malignos,

サタンとその他の邪悪な諸霊を,

Satanam (<Satanās) サタンを ……一応第1変化名詞なのだが,ギリシャ語由来の名詞特有のやや特殊な変化をする (この "Satanam" という形は普通の第1変化名詞と共通だが)。なお,もとはヘブライ語であり (「敵対者」「妨げる者」といった意味),ギリシャ語を経由せずヘブライ語から直接取り入れたのであろう形として "Satan" という無変化の同義語もある。
aliōsque spīritūs malīgnōs また,その他の邪悪な諸霊を (aliōs:その他の,-que:英 "and",spīritūs:霊を [複数],malīgnōs:悪い,邪悪な,悪意のある,有害な)

qui ad perditionem animarum pervagantur in mundo,

霊魂たちを滅ぼそうとしてこの世をうろついている ([サタンと] その他の邪悪な諸霊を),

quī (関係代名詞,男性・複数・主格)
ad perditiōnem animārum 霊魂たちの滅びを目的として (ad:~を目的として,perditiōnem:[永遠に] 滅ぶこと,失われること,animārum:霊魂 [複数] の)
pervagantur 徘徊する,うろつく,歩き回る (動詞pervagor, pervagārīの直説法・受動態の顔をした能動態・現在時制・3人称・複数の形)
in mundō 世界の中で (mundō:世界 [奪格])

  •  直前の "Satanam aliosque spiritus malignos" (あるいは "aliosque" 以下のみ) を受ける関係詞節。「霊魂たち」とは人間の魂のこと。

divina virtute, in infernum detrude.

神の力によって地獄へと突き落としてください。

dīvīnā virtūte 神の力で (dīvīnā:神の,神に属する,神的な,virtūte:力で [奪格])
in īnfernum 地の底へ,陰府へ,地獄へ (īnfernum:地の底,陰府,地獄 [対格])
dētrūde 突き落とせ,追いやれ (動詞dētrūdō, dētrūdereの命令法・能動態・現在時制・2人称・単数の形)

Amen.

アーメン。

 

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