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AIの落とし穴:説明責任と製造物責任

皆さん、こんにちは、広瀬です。今回は前回に引き続きAIの解説を行います。特に、ChatGPT、Gemini、Co-Pilotといった「生成AI」に焦点を当てていきます。今日のテーマは、AIの「説明責任」と「製造物責任」です。参考にするのは、ハーバード・ビジネス・レビューの記事ではなく、以前私が受講したMITスローン経営大学院の「Artifitial Intelligence Imprecations for Business Strategy」コースの内容です。これらの概念については、前回のNoteでも少し触れていますので、興味のある方はぜひそちらもご覧ください。(もちろん、読まなくても今日の内容は理解できます!)

頼れるアシスタント、でも油断禁物

あなたは生成AIをどのように活用していますか? 私は、インターネット検索、文章要約、仮説検証の議論、経営理論や戦略の分析など、様々な場面で活用しています。生成AIは、まるで優秀なアシスタントのように、情報収集、比較、分析などを瞬時に行ってくれるため、調査にかかる時間が劇的に短縮されました。かつてインターネットの登場が情報収集の方法を大きく変え、世の中の流れを変革したように、生成AIはそれをさらに加速させ、私たちの生活や働き方を根底から覆す可能性を秘めています。

ハーバード・ビジネス・スクールのカリム・ラカニ教授は、「インターネットが情報伝達のコストを劇的に下げたように、AIは『思考』のコストを下げるだろう」と述べています。これはAI全般についての発言ですが、生成AIに限っても、すでに「思考」にかかる時間や労力、費用といったコストを大幅に削減していると言えるでしょう。

生成AIに質問を投げかけると、瞬時に回答が返ってくるという経験は、多くの方がされているのではないでしょうか。その便利さに、つい頼りきりになってしまうこともあるかもしれません。しかし、時には「あれ?」と思うような、不可解な回答や誤った情報が表示されることもあります。

不可解な挙動とAIの説明責任

生成AIの出力結果が予想外だったり、明らかに間違っていたりする場合、「なぜそうなったのか?」という疑問が湧くのは当然です。従来のソフトウェアであれば、開発者に問い合わせたりコードを解析することで原因を特定できました。しかし、生成AIは複雑な構造と膨大な学習データを持つため、原因究明が困難なケースも少なくありません。

そこで重要となるのが、AI開発者の「説明責任」です。AIが出力した結果について、その根拠やプロセスを説明できる能力が求められます。これはAIの信頼性を高めるだけでなく、利用者が安心してAIを活用するためにも不可欠です。

AIが生み出すリスクと製造物責任

生成AIは私たちの生活を豊かにする一方で、新たなリスクも孕んでいます。誤情報に基づく回答や差別的な表現など、AIの不適切な挙動によって利用者が不利益を被る可能性も否定できません。

このような場合、誰が責任を負うべきでしょうか?

ここで問われるのが、AI開発者の「製造物責任」です。AIがもたらすリスクを予測し、適切な対策を講じる責任が開発者にはあります。AIの出力によって利用者が被害を受けた場合、開発者はその責任を問われる可能性があります。

安全なAI利用のために

生成AIの利用が拡大するにつれ、その恩恵だけでなく、潜在的なリスクへの懸念も高まっています。開発者には、AIの透明性を高め、利用者に対する説明責任を果たすことが求められます。同時に、AIが生み出すリスクを最小限に抑え、利用者の安全を守るための製造物責任も重要です。

私たち利用者も、生成AIの特性と限界を理解し、賢く付き合っていく必要があります。生成AIはあくまでツールであり、その出力結果を無批判に受け入れるのではなく、常に客観的な視点で評価することが大切です。

生成AIは、私たちの社会を大きく変革する可能性を秘めています。しかし、その真価を発揮させるためには、説明責任と製造物責任という二つの重要な側面を常に意識し、AIとの適切な関係を築いていくことが不可欠です。

AIシステム開発企業への切実な願い

AI技術の急速な発展とオープン化により、AIシステム開発はかつてないほど容易になりました。OpenAI、Google、Microsoftなどが提供するAPIを活用すれば、専門知識がなくても特定の業界向けにカスタマイズされたAIを構築できる時代です。しかし、このような手軽さの裏には、重大な責任が伴うことを忘れてはなりません。

以下のような、無責任な対応は決して許されるべきではありません。

AIシステム開発企業のコールセンターでのやり取り(悪い例)

顧客:御社のAIシステムのアウトプットが◯◯となっていて、明らかにおかしいと思うのですが…
担当者:AIが導いた結果ですから、正しいと思いますが….  念のため開発者に聞いてみますので、もう少し状況説明を…

担当者(心の声):やべ~、うちのAIって、X社のAPI使ってるだけだから、入力データが分かったところで、その先がブラックボックスで帰ってきた結果の妥当性なんてうちの会社じゃ分かるわけ無いよな~~~。あ~適当に胡麻化すか~~?

担当者:状況説明ありがとうございました。結果が分かり次第、ご連絡申し上げます(冷や汗!)

このような対応は、顧客の信頼を損なうだけでなく、AI技術そのものへの不信感を招きかねません。AIシステム開発企業は、自らが提供するAIの出力結果に対して責任を持ち、顧客からの問い合わせに誠実に対応する必要があります。たとえ外部のAPIを利用していたとしても、そのAIシステムを世に送り出す以上、説明責任と製造物責任を果たす覚悟を持たなければなりません。

AIシステム導入企業への警鐘

AIシステムの導入を検討されている企業の皆様へ、重要なお願いがあります。SI企業が開発した業界特化型のAIシステムを導入する際には、その開発企業が「説明責任能力」と「製造物責任能力」をしっかりと備えているか、必ず確認してください。

昨今、AI関連のAPIが使えるだけで「AIエンジニア」を自称する若者が増えています。私は彼らを「なんちゃってAIエンジニア」と呼んでいますが、このような人材を抱える企業に、AIシステムの複雑な挙動を説明したり、不具合が生じた際の責任を適切に取る能力があるとは到底思えません。

AIシステムは、導入企業の業務効率化や意思決定支援に大きく貢献する可能性がありますが、同時に、誤った出力や予期せぬ動作によるリスクも伴います。導入企業は、開発企業がこれらのリスクを理解し、適切に対応できる能力を持っているかを見極める必要があります。

「説明責任能力」とは、AIシステムの出力結果の根拠やプロセスを明確に説明できる能力を指します。AIの判断がブラックボックス化されてしまうと、導入企業はAIの挙動を理解できず、適切な活用や改善が困難になります。

「製造物責任能力」とは、AIシステムの不具合や誤作動によって生じた損害に対して、開発企業が責任を持って対応する能力を指します。AIシステムの導入は、導入企業にとって大きな投資となります。万が一、AIシステムが原因で損害が発生した場合、開発企業がその責任を適切に負うことができなければ、導入企業は大きな損失を被ることになります。

AIシステムの導入は、企業にとって大きな変革をもたらす可能性がありますが、同時に大きなリスクも伴います。導入企業は、開発企業の「説明責任能力」と「製造物責任能力」をしっかりと見極め、安全かつ効果的なAI活用を実現してください。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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広瀬 潔(HBR Advisory Council Member)
いつも読んでいただき、ありがとうございます。この記事が少しでもお役に立てたら嬉しいです。ご支援は、より良い記事作成のために活用させていただきます。