長すぎる恋が、やっと終わりを迎えた日
恋人になる人と出会ったのも、決まっていた出来事だったのかなぁと今は思う。
おしゃべりしている中で、「決まっている人生にしたがっているだけで、自分の意志でどうにかできることなんてないと思っている」という人生観を聞かせてもらった。
執着心だらけのわたしの頭に浮かんだのは、もう何年も前に別れた恋人の顔だった。
そういえば今日はバレンタインデー。少しだけ、わたしの恋の話を聞いてほしい。
その子と出会ったのは、「友達が来られなくなっちゃって」と開始2時間前に誘われて行った、飲み会という名の合コンだった。
連絡をくれたのは同じ建物に住んでた女の子。大学受験の日に一緒にアパートを内見することになったのが出会いだった。大学生活のフライングで、一番最初に知り合って仲良くなった。
付き合うことになった彼は、その日の合コン(仮)にサークルの仲間に誘われてきていた。人数合わせで、やっぱり当日に呼ばれての参加。
なんとか盛り上げようとして空回りしている男子集団のはじっこに何の変哲もなくいて、バナナミルクとかを静かに飲んでいた。
普段から部屋をたまり場にされていた彼の部屋は、自動的に2次会の会場に。
「なんか音楽とかかけてよ~」と催促された彼がかけた曲が、『キラキラ』。
きっかけは、aikoだった。
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映画『花束みたいな恋をした』の世界観が好きすぎて、ノベライズ版も読んだ。
読みやすい文章で唯一引っかかったのが、プロローグで出てくる台詞。いまいち理解できなかった。
「恋愛は一人に一個ずつ」
今日読み終えて、やっと分かった気がする。
この話は1つのラブストーリーと見せかけて、菅田将暉くん演じる麦の見てきた5年間と、有村架純ちゃんの演じる絹の見てきた5年間の2つのラブストーリーでできていたんだ。映画を観ているわたしたちは二人の恋の行方を神様の視点で見ているから、一個のストーリーに見えただけ。
どんなに親密な恋人同士でも、すべてを共有することはできない。どんなに一緒にいて、どれだけ言葉を交わしても。
言葉にできた以外のすべては、答え合わせされることもないままどこかへ消えていく。伝えなかった気持ちは、どこへいったんだろう。
映画の中で麦と絹はまさに、イヤホンのLとR。告白しようと思った日も、別れを告げようとした日も同じだった。出会ってから5年間、同じ曲を再生し続けていた。同じ曲を聴いているはずと思っていたのに、聞こえていた音は違っていたんだ。
『花束みたいな恋をした』というタイトルは、映画を観る前からこの恋は終わってしまうと暗示している。
でも、恋の終わりが二人の終わりではないのかもしれないと思った。
花はいつか枯れる。
だけど枯れてしまっても、そこに美しい花が咲いていたことは忘れない。
あの音楽が流れたとき。
あの場所がニュースで取り上げられたとき。
あの花を見かけたとき。
あの匂いが香ったとき。
日常のあちこちに、恋の思い出のかけらは落ちている。花束から散った花びらみたいに、思わぬところでふと見つける。
別れた二人は、見つけるたびに、もう会わなくなった恋人のことを考える。
神様視点でみた別れた麦と絹のエピローグでは、2人に流れている音楽はやっぱり同じ曲だった。同じ曲を、LとRで聴く二人のままだった。
そんな二人を見ていたら、別れることも楽譜にかかれていたみたいに決まっていたことなのかなと思えた。
それでも、背中を向けたまま手を振り合う二人はこれからも同じ曲を聴き続ける。二つのイヤホンから聴こえる音がぴったり重なるフレーズがまた来るんじゃないかな。そんなことを考えた。
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合コン(仮)で出会った恋人とは、就職するときに遠距離になった。
ある日の夕方、電話で「もう好きじゃなくなった」と突然言われ、思わず電話を切ってしまい、それが最後になった。
何年も長ーく付き合ったのに、そんな別れ方ってないよなぁ。笑
ひどい男だと思うでしょ?
でもね、それきり、電話をしてもメールをしても一切反応してくれないのは、彼の優しさだなあって、わたしはずっと思ってるの。
付き合ってる最中から「いい人がいたら、いつでもその人のところに行っていいんだからね」なんて言っちゃうような、弱くて、どこまでも優しすぎる人だった。だから一緒にいたかった。最後の電話だって、嘘だって最初から分かってますよ。
昔の恋人との出会いを思い出すと、今考えてもよく出会ったよなぁと我ながら感心してしまう。そういうふうにできている、だったのかもと今なら思える。
だとしたら、別れることも決まってたことだし、意味があったのかもしれない。
3月の誕生日とか、仕事を退職するタイミングとかで、何年かに一回思い立ってメールを送ってみると、ちゃんと送れる。エラーメールは返ってこない。でも、返信もない。
連絡しないと決めたことを今も守り続けてくれてる彼は、強くて、どこまでも優しすぎる人だと思う。
彼とわたしは、今も同じ曲を生きているのかもしれない。
この先、重なることがあるかどうかは分からない。
このまま、死ぬまで会わないことだってあり得るだろう。
わたしはもう、十分すぎるくらい優しくしてもらったから。もういいから。それだけ言いたい。
誰にも負けない幸せ願ってる。