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(連載小説)たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる<4章第1話>

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たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
4章 期間限定の恩恵
第1話 飛び込んできたもの


 その日の「さかなし」営業時間が終わり、またいつもの様に茨木童子と葛の葉が訪れる。基本的にはいつもタダ飯、タダ酒を遠慮無くかっくらう2体なのだが。

「おら、今年もきのこが生え始めたで」

 茨木童子がそう言って、細長い緑の葉っぱで編まれた袋をどさっとテーブルに置いた。

 どうにか酷暑を乗り越え、それでもまだそれを引きずる9月。スーパーには秋の味覚も出始め、やっとそこで季節を感じるころだった。

 茨木童子たち妖怪の住処になっている大仙陵古墳の植物たちは独自の生態系を築いていて、木の実など季節それぞれの味覚が成るそうなのだ。

 様々な時代を生きて来た妖怪たちには、その妖怪なりの生活の知恵があるそうで、茨木童子はきのこの選別がお手の物らしい。

 売られているきのこのほとんどは農家さんの手で栽培されているものなので、安心である。だが野生のきのこは毒があるものと食べられるものの見極めが難しい。なので素人が手を出して良い領域では無いと、渚沙なぎさは思っている。

 茨木童子などは妖怪なのだから、毒きのこぐらい平気なのではと思いがちなのだが、そうでは無いとのこと。毒性そのものは効かないらしいが、どうやら美味しく無いらしいのだ。

 なので口にしてまずければ吐き出す、そんなことを繰り返しているうちに、見極めができる様になったのである。

 大仙陵古墳に住み着いて幾年、そうして妖怪にとって美味しいきのこだけを食べて来たのだった。今日持って来てくれたものは、そのおすそ分けである。

「ありがとうございます。すごい量ですねぇ」

 袋はスーパーのいちばん大きい袋ぐらいのサイズである。そこにどっさりときのこが入れられていた。袋を開けると、渚沙が普段食べているようなしめじや平茸などに加えて、白や黄色がかったものなど、いろいろな種類のきのこが見えた。

「今日はどうしましょ。お味噌汁? バターソテー? オリーブオイルで黒こしょう効かします?」

「酒のあとに汁もんがええな。中華風っちゅうんか? ごま油使ったやつがええわ」

 とすると、中華の素をメインにスープを作り、ごま油を落とした中にきのこを入れて煮込むとするか。

「ほな卵も使いますか。たけちゃんと葛の葉さんもそれでええですか?」

「良いカピよ」

「ええわよ〜。お酒のあとのあったかいお汁物、美味しいんよねぇ〜」

 きのこの使い道が決まり、紙パックの日本酒とグラスを出し、さぁたこ焼きを焼こうとした時。

「邪魔するぞ」

 店内に、小さな女の子の声が響いた。この声は。

「わらしちゃん、いらっしゃい」

「うむ」

 渚沙のお迎えに、紫色の着物を着たおかっぱ頭の女の子は鷹揚に頷いた。「さかなし」のドアの前にちょこんと立っている。

 わらしちゃんと呼ばれたこの女の子、正体は座敷童子である。家に福をもたらすと言われている子どもの妖怪だ。

 主に岩手県に伝わる妖怪なのだが、いたずら好きで好奇心が強いためか、数体が住処である有名な某旅館を飛び出し、日本のあちらこちらに点在しているのだ。

 それは大阪にも及んだ。座敷童子は大阪府内の家庭を練り歩き、これと決めたお家に棲み付く。渚沙たちがわらしちゃんと呼ぶこの座敷童子が選びがちなのは、あまり裕福で無い母子家庭なのである。

「なんや、わらし、またどっかの母子家庭を没落させて来たんか」

 茨木童子の無神経とも言えるせりふに、座敷童子は「ふん」と鼻を鳴らし、茨木童子たちが着いているテーブルの空いている席、いつもは渚沙が掛ける椅子にひょいと飛び上がって座った。

「人聞きが悪いのう。裕福になった母親が外に男を作り、ふたりの子どもをないがしろにし始めたのじゃ。そんな家に用は無い」

「あらぁ〜、それはあかんわよねぇ〜」

 葛の葉は優美な顔を軽くしかめる。

「自分の子をないがしろにするなんて、母親としてありえないわぁ〜」

「そうカピね」

 自らが親である竹ちゃんも葛の葉も、苦言を呈す。この2体は我が子を大事にしているので、余計にそう思うのだろう。

「そういうわけで渚沙、竹子たけこ、次の家が決まるまで、また世話になるぞ」

「はぁい」

「良いカピよ」

 渚沙たちの返事に、座敷童子は満足げに「うむ」と頷いた。

「ちゅうことは、明日からまたしばらく忙しくなるなぁ。たこ、倍量用意せな」

「うむ。せいぜい励め」

 座敷童子は竹ちゃんがこの家に来るまでは、ご家庭にいない時は大仙陵古墳に帰っていた。だがここにいた方が次のお家を探しやすいという理由で、来る様になったのだ。

 その間、それはもう「さかなし」は繁盛してしまうのである。ここも一応「お家」である。しかも商売をしている。なので座敷童子のご加護が、てきめんに出てしまうのだった。


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山いい奈
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