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(連載小説)たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる<4章第3話>
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たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
4章 期間限定の恩恵
第3話 戦いのあと
「……疲れた」
「さかなし」の営業を終え、身体が疲弊し切った渚沙は店内のテーブルに突っ伏した。竹ちゃんが「お疲れさまカピ」と氷が入った麦茶を持って来てくれる。
「ありがとぉ〜」
渚沙は叫ぶ様に言うと、きんと冷えた麦茶を一息に喉に流し込んだ。まだ暑い季節、鉄板の前で温められた身体がすぅっと冷えて行く。芯に満ちる水分が癒しを与えてくれた。
座敷童子期間は、ろくに水分を摂る間も無いのである。冬場などならともかく、この季節は熱中症や水分不足に陥る心配もあるので、気を付けているつもりではあるのだが。
足元に冷風機を置いているので、下半身は程よく冷えるのだが、上半身は鉄板に晒されて、さながら熱帯である。とはいえ客席にはエアコンを付けているので、少しだけ恩恵があったりする。
そんなこんなで、差し引きしたら結局暑いのである。通常ならここまでならないのだが、今は特別なのだ。
とはいえ、今は踏ん張り時なのである。渚沙は座敷童子期間をボーナスタイムと呼んでいる。
たこ焼き屋、実は利益率が良い。もちろん客入りによって収益は前後するのだが、だから都心から離れている「さかなし」でも、地域密着でやっていけるのである。
なので渚沙と竹ちゃんが食べて行くにはどうにかなる。しかし不安が無いわけでは無い。これは商売をしている人共通の悩み、思いだろう。
なので言い方はよろしく無いが、座敷童子がいてくれる間に、稼げるだけ稼いでおくのである。
今日も「さかなし」のたこ焼きは飛ぶ様に売れて、たっぷり用意しておいた生地が無くなってしまい、いつもより1時間早い19時に閉店せざるを得なかったほどである。
「茨木さんたちが来るまで少し休めるな〜」
「ゆっくりするカピ。麦茶おかわりいるカピか?」
「うん。ありがとう」
竹ちゃんが氷だけになったグラスを水場に持って行くと、渚沙の正面に座った座敷童子がおかしそうに笑う。
「大変そうじゃな」
「わらしちゃんのお陰でな。今のうちに稼いどかんと」
「普段はそんなに慎ましいのか?」
「そこまでや無いけどね。それにしてもわらしちゃんパワーはほんまに凄いわ。今日はどう? 新しいお家、見付かった?」
「駄目じゃな。わし好みの母子家庭がなかなか無い」
「わらしちゃん、好みにうるさいからなぁ」
渚沙は笑みを漏らした。以前聞いたものから変わっていないのなら、座敷童子はとにかく不幸オーラというものが漂っている様なお母さんがお好みなのである。悪趣味にも聞こえるが、やりがいがあるのだと言う。
「渚沙、麦茶カピ」
竹ちゃんが麦茶を運んでくれて、渚沙は「ありがとう」と受け取る。今度はゆっくりと口に運んだ。
「竹子、わしには無いのか?」
「わらしは自分で用意するカピよ」
「ケチじゃのう。ま、もうすぐ茨木と葛の葉が来るじゃろうから、そしたら酒にありつける」
座敷童子は見た目こそ幼児だが、妖怪なので人間世界の法律には囚われない。好きなものは小豆だが、それを肴に日本酒を嗜むのである。
渚沙は餡入りの、たこ焼きならぬ餡焼きを作る。鉄板にたこ焼きの生地を流し、具は餡だけ。お手軽に缶詰の餡を使うのだ。それを素焼きで頬張るのが、座敷童子のお気に入りなのである。
「さぁてと、そろそろたこ焼きの準備するか。お出汁、もうだしの素でええやんね」
渚沙が上半身を伸ばすと、竹ちゃんが「良いカピよ」と応えてくれる。
「文句は言わせないカピ」
と言いつつ、茨木童子も葛の葉も、苦言を呈したことは無いのだが。茨木童子はそこまで繊細な味の違いが判らないし、葛の葉には気付かれるのだが、理由を言うと「商売繁盛ええことやねぇ〜」なんて言って笑ってくれるのだった。
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