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(連載小説)たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる<2章第8話>

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たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
2章 渚沙と竹子の出会い
第8話 鬼と狐との出会い


たけちゃん、いらっしゃい!」

 渚沙なぎさが満面の笑顔でドアを開けると、そこには竹ちゃんがちょこんと立っていた。ああ、今日も何という可愛さだろうか。癒される。渚沙がほっこりしていると、竹ちゃんが挨拶もそこそこに口を開いた。

「うむカピ。ところで渚沙、悪いのだカピが、客を連れて来て良いカピか? 2体なのだカピが」

「お客さん? カピバラの?」

「いや、鬼と狐の妖怪だカピ」

 それを聞いて、渚沙は警戒してしまう。狐はともかく、鬼は怖い、悪いものでは無いのか?

 そんな心配が顔に出てしまったのか、竹ちゃんは「ふむカピ」と納得顔で頷く。

「渚沙が怖がるのも無理無いカピ。だが大丈夫なのだカピ。古墳にいる妖怪は皆心を入れ替えているカピ。まぁ昔は相当悪いこともしていたらしいカピが。人間を襲ったりカピ」

「あかんやん!」

 渚沙は反射的に突っ込んでしまう。更生したと言う竹ちゃんのことは信用したいが、まさに人間である渚沙を前にして、悪さをしないでいられるのか。

「大丈夫だカピ。万が一があれば、狐が全力で護るカピ。だから安心するカピ」

「安心できるんかそれ」

 渚沙はまだ疑ってしまう。竹ちゃんのことは信じているが、鬼は本当に信用して良いのか。

「ともあれ一度会ってみるカピ。さばさばして悪いやつらでは無いカピ」

「……竹ちゃんがそう言うなら」

 怖いのは怖いが、狐が護ってくれるなら。それに竹ちゃんもいる。竹ちゃんが言うのなら、大丈夫だと信じたい。

「なら呼んでくるカピ」

 竹ちゃんは踵を返すと階段を降りて行く。渚沙はその場で待つ。やがて階段を複数人が上がって来る音が聞こえた。

(どんな妖怪が来るんやろ。狐は可愛いやろうけど、鬼はどうなん? いかつい大男とか……)

 渚沙の心臓が、緊張からどくどくと早打ちする。もしいきなり襲われたらどうしよう。いや、竹ちゃんを信じるしか無い。

 そしてやがて、竹ちゃんが再び姿を現し、その後ろに堂々と立っていたのは。

 赤い肌をしたとんでも無い美丈夫と、美しい長髪を持つ半端無い美女だった。

 渚沙はつい(はー)と見惚れてしまう。美丈夫の方は頭に角があるので、こちらが鬼だろう。ということは美女が狐か。狐も妖怪となれば、人型になることができるのか?

 渚沙が呆然としていると、美丈夫が「邪魔するでぇ」と、どかどかと入って来た。

 すると美女も「うふふ〜」と妖艶に笑い、優雅に頭を下げる。

「今日はお招きありがとうねぇ〜。お邪魔するわねぇ〜」

 そう言いながら後に続いた。

 渚沙はそんな2体を目で追いながら、まだぼぅっとしてしまっている。竹ちゃんの「渚沙」という呆れた様な呼びかけに、ようやく我に返った。

「呆けすぎカピ」

「ご、ごめん、あまりにも想像しとった見た目とちゃうかったもんやから」

「この2体は人間視点だと、妖怪の中でも1位2位を争う美形だカピ。人間をかどわかす妖怪ほど、そういう傾向があるカピな」

 すると鬼が「おいおい」と屈託無く笑う。

「人聞きの悪いこと言うてんなや。それはもう昔の話やがな。それにほら、これ」

 鬼が指差したところを見ると、鬼の腰から何やら白い縄の様なものが出ている。辿ると、それは狐の腰と繋がっていた。

「こうしてがっつり抑えられとんやから、悪さなんてできるかい。威厳まで失うたつもりは無いけどな」

 鬼はそんなことを明るく言う。確かにそんな様子を見ていると、何かする様には見えないが。

「わたくしは、そんな事実は無いのよぉ〜。ただ人間さまに恩返しをしたかっただけなんやけどねぇ〜」

 狐もおかしそうにころころと笑う。あまりにも邪気の無い2体に、渚沙の警戒心も解けそうになっていた。迫力はあるのだが、嫌な威圧感は感じられないのである。

「あ、この白いのはわたくしの尾っぽ。こうしておけば、自由に動けへんからね〜。安心してねぇ、渚沙ちゃん」

「あれ、私の名前」

竹子たけこちゃんから聞いたのよぉ〜。かわええお名前よねぇ〜」

「あ、ありがとうございます」

 ここまで来ると、もう渚沙の訝る気持ちはおおかた失せていた。普通に会話ができて、2体に悪意は感じられない。まるで普通に人間と話をしている様である。

「渚沙、座ってええか?」

 鬼に言われ、渚沙は慌てて「あ、はい」と、ダイニングテーブルの上座となるところを示した。

「奥にどうぞ。ええっと、おふたりのお名前とかは」

「あらぁ、自己紹介がまだやったわねぇ〜。わたくしは葛の葉。そうねぇ、陰陽師安倍晴明の母親て言うたら分かりやすいかしらねぇ〜」

「俺は茨木童子。そうやなぁ、京都の酒呑童子の配下やっちゅうたら分かるか?」

 妖怪に詳しく無い渚沙でさえ知っているビッグネームに、またあんぐりと口を開けてしまったのだった。


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山いい奈
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