(連載小説)たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる<2章第9話>
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たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
2章 渚沙と竹子の出会い
第9話 驚きの連続
「今日はたこ焼きとか食わしてくれるて聞いたで。人の食いもん久しぶりやわ」
「ほんまにねぇ〜。楽しみやわぁ〜」
茨木童子と葛の葉は案内した椅子に掛け、朗らかに話す。あまりのことに渚沙はまだぼんやりとしてしまっている。
「渚沙、しっかりするカピ」
「う、うん。まさか私でも知ってる大妖怪が来るとは思わんかった」
「そうカピか? 今ではただの妖怪カピ」
「そりゃあ竹ちゃんにとったらそうかも知れんけど〜」
すっかりと渚沙は焦ってしまう。たこ焼きと寄せ鍋、こんな大妖怪に食べさせて大丈夫なのか? お気に召すのだろうか。
「あ、おい渚沙、酒はあるか?」
「へ? お酒ですか?」
茨木童子に問われ、渚沙は間抜けな声を出してしまう。お酒、お酒はいくらかあったはずだが。
「ありますけど、えっと、何がええですか? 日本酒の方がええですか?」
確か妖怪が活発だった時代は江戸や平安だったのでは無いだろうか。そんな時代に洋酒があったか分からない。あったとしても日本の妖怪が好んだのかどうか。
ぐるぐると目を回しながらも、渚の足はキッチンに向かう。そうして食器棚の下段から4合瓶日本酒をありったけ出した。どれも開封済みである。晩酌用に用意した、スーパーでも買える身近な銘柄ばかりだ。
美味しいことは渚沙が保証するが、さて。
渚沙は瓶を抱え、ダイニングに戻る。テーブルに置くと、茨木童子が「おお」と目を丸くした。
「今、家にあるんはこれだけなんですけど」
すると茨木童子は瓶を睨み付ける様に見て、「ふむ」と眉を顰めた。
「足りるやろか、これ」
「足りても足りなくても、今日はこれで我慢するカピ。ご馳走になるのにわがままを言うのなら、帰ってもらうカピよ」
竹ちゃんの咎める様な強い口調に、茨木童子は不貞腐れる。
「わぁってるって。俺も久々の酒や。そんなに飲めるかどうか分からん」
「ねぇ〜。人間を襲わんくなって、ほぼ隠居生活になって、お酒はご無沙汰やったもんねぇ〜。渚沙ちゃん、さっそくいただいてええやろか」
「あ、はい。グラス持って来ますね」
急いでキッチンからグラスを持って戻って来て、渚沙はぎょっとした。茨木童子が日本酒の1本をラッパ飲みしていたのだ。
「ぷはぁっ! やーっぱり酒はうめぇなぁ!」
いたくご満悦である。そんな豪快な飲み方をする人を見たことが無かったので、さすがに驚く。さすがに一気飲みとは行かなかった様だが。
「ごめんねぇ〜渚沙ちゃん、茨木、我慢できひんかったみたいで〜」
あまり悪いとは思っていない様な表情の葛の葉に詫びられて、渚沙は「は、はぁ」としか言いようが無い。
「竹子も止められなかったカピ。渚沙、済まないカピ」
竹ちゃんは申し訳無さげである。渚沙は怒っているわけでは無いのだが。
「かまへんよ。葛の葉さんはグラス使います?」
「もちろんよぉ〜。直接飲むなんてはしたない。渚沙ちゃんおすすめのお酒はどれかしらぁ〜?」
「越乃寒梅どうですか? すっきり飲みやすい、でもまろやかで甘味のある美味しいお酒ですよ。新潟のお酒なんです」
「ほなそれもらうわ〜」
渚沙はグラスに越乃寒梅を注いで、葛の葉の前に置いた。
「どうぞ」
「ありがとう〜」
葛の葉は上品にグラスを傾ける。そして「ほぅ」と目を細めた。
「ほんまに美味しいわぁ。飲みやすいお酒やねぇ」
「そうなんですよねぇ。みんな飲むんやったら私はビールにしよ。竹ちゃんお酒は?」
「竹子はお酒は飲まないカピ。先週出してくれたしゅわしゅわのやつが良いカピ」
「コーラやな。ちょっと待ってな」
先週は渚沙もコーラだったのである。渚沙は竹ちゃんのコーラを準備するべく、キッチンに向かった。
・
それから騒がしく宴は続いた。たこ焼きは用意しておいた生地だけでは足りなくなったので追加を作り、余るのを見越していたお肉も無くなりそうだ。妖怪は良く食べるのである。何度目かの驚きだ。
出した日本酒はあっという間に空になり、渚沙は焼酎を用意した。麦と芋である。茨木童子などは日本酒を欲しがったが、竹ちゃんに言われて「まぁ、同じ日本の酒やし」と渋々麦焼酎をロックで飲んでいた。こちらも飲み干されそうな勢いで、渚沙は冷や冷やした。
葛の葉は優雅に杯を重ねていた。武勇伝を語る茨木童子に「そうな〜ん」と愛想良く相槌を打ちながら、たこ焼きや寄せ鍋にもお箸を伸ばしている。
「茨木のこの話も、もう何度目か判らないカピ」
竹ちゃんももりもり食べ、呆れながら言う。もう茨木童子の鉄板ネタなのだろう。
そうしてこの催しは、茨木童子が酔い潰れて寝こけるまで続いたのだった。