（連載小説）たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる＜２章第６話＞

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たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
２章　渚沙と竹子の出会い
第６話　時速５０キロ

　たこ焼きと鉄板焼きを満喫した竹たけちゃんは、「さて」と床に降りた。

「竹子はそろそろ帰るカピ。そうカピな、また来週の水曜日に来て良いカピか？」

「もちろんやで。待ってんね。何時ごろがええやろ。またたこ焼き用意する？」

「たこ焼きは絶対カピ。他はお任せするカピ」

「分かった。それより、ほんまに送らんで大丈夫なん？」

「大丈夫カピ。カピバラは時速５０キロで走ることができるのだカピ。しかも竹子は妖怪だから疲れ知らずカピ」

「そうなん！？　カピバラってそんな俊敏なん？」

　渚沙なぎさは目を丸くして驚く。カピバラの生態にはあまり詳しく無かったので初耳である。動物園などではのったりのんびりほのぼのと動いている印象しか無かったのだが。

　だからなまけものほどでは無いが、緩慢な動物かと思い込んでいたのだ。いや、たまに俊敏ななまけものもいるが、それは今はどうでも良い。

「野生には、敵から逃げる時に必要なのだカピ。では帰るカピ」

「うん、気を付けてな。ちゃんと帰り着いたら連絡するんやで？」

「どうやってカピ。それに竹子は無敵の妖怪なのだカピ」

「あ」

　可愛さのあまりついつい竹ちゃんを子ども扱いしてしまうが、連絡手段はともかく、竹ちゃんは普通の人からは見えない妖怪なのだ。外敵に襲われたり車に轢かれたりする心配は確かに無いのだろう。

「連絡は難しいけど、そやね、来週また来てくれたら、無事に帰り着いたってことやもんね」

「そうカピな。まぁ竹子は大丈夫カピ」

「うん、待ってるね。見送り、玄関のとこまでで大丈夫？」

「充分カピ。行くカピ」

　玄関に向かって歩き出す竹ちゃんに、渚沙は付いて行く。階段を降り、玄関に着くと、渚沙がドアノブに手を伸ばす前に竹ちゃんはそのドアをすり抜けた。渚沙は慌ててドアを開ける。竹ちゃんはドアのすぐ向こうでおとなしく立っていた。

「びっくりしたぁ〜。そっか、妖怪やから、物とかそういうのん、すり抜けられるんや」

「そうカピ。だから来週も、勝手に入らせてもらうカピ」

「それはええけど、せめて玄関入ったとこか、階段上がったとこで声掛けてもらえたら助かるわ。急に姿見えたら驚くから」

「分かったカピ。ではまた、来週カピ」

「うん、気を付けて。またね」

　渚沙が笑顔で手を振ると、竹ちゃんは小さく頷く。そして４本の足の膝を少し曲げたかと思うと、驚きの急発進。竹ちゃんの姿はあっという間に見えなくなった。

「ええ〜、マジかぁ……」

　渚沙は呆然と、竹ちゃんが行った駅方向を見つめる。いくら目を凝らしても、もう跡形も無い。

　時速５０キロと言えば、自動車が一般道を走るぐらいの速度である。それだと電車より早く帰り着けるのかも知れない。様々なものをすり抜けるのであれば障害物も無いだろうし、直線距離で進めるのかも知れない。川などがあっても、泳げるのはこの目で見たところである。

　猛スピードでビルや民家に突っ込んだり、車や電車と並走する竹ちゃんを想像し、渚沙はおかしくなって、くすりと小さな笑みを零した。