(連載小説)たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる<4章第6話>
こんにちは。ご覧くださりありがとうございます( ̄∇ ̄*)
少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いします!
たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
4章 期間限定の恩恵
第6話 親と子の思いやり
「和馬としては、やはり親からの重圧を感じているのじゃろうなぁ。参考までに、渚沙はどうだったのじゃ?」
「私? 私はなぁ……」
渚沙は自分の学生時代のことを思い出す。
小学校も中学校も校区内の公立でのんびり過ごしていたし、高校も自分の学力から少しばかり背伸びをした公立を受験した。滑り止めに余裕を持った私立も受けて、幸い両方合格できたので、公立に通うことになった。
以前は大阪府の公立高校には学区が定められていて、住んでいる場所によって進学できる高校の範囲が決まっていた。今はそれが撤廃され、選べる学校がぐんと増えている。
極端なことを言うと、大阪の最北端である豊能郡豊能町に住んでいる生徒が、最南端である泉南郡岬町の公立高校に通うことが可能になったのである。電車で2時間以上掛かるので、現実的では無いだろうが。
渚沙も無理無く通える場所の高校を選んだ。日本は高校にしても大学にしても、受験の壁は高いが、突破してしまえば多少は緩くなるものである。渚沙も受験勉強は励んだが、入学した後のお勉強はテスト前に集中するぐらいだった。
とは言え、ここで自分の実力に見合わない高偏差値の学校を選んでしまうと、それどころでは無い。
頑張りが実って合格でき、無事入学を果たしたとしても、自分の勉強力の底上げと大学受験のためだけに3年間を使ってしまうことになる。
実際渚沙が聞いた話では、そうした高校に入った同級生が、休日の娯楽でも単語帳や勉強用のスマートフォンにタブレットなどを手放せず、隙あらば知識を詰め込もうとしていたらしいのだ。
あまり親しく無い子だったし、渚沙も風の噂程度で耳にしたことなので、どこまで本当だったのかは判らない。だが渚沙の価値観では、そこまでする様なことか? と思ったものだった。
そうすることの是非は、やはりそれぞれの価値観である。どれだけ無理をしてでも、将来良い大学に入りたい、大手企業に就職したい、地位のある職に就きたい、そう思う人は存在するのだ。ただ渚沙がそうでは無いと言うだけで。
渚沙はそれなりの高校を出て、それなりの大学に通い、それなりの企業に就職して、今は下町のたこ焼き屋の主人である。
特別お勉強ができたわけでは無いが、悪くも無かった。なので渚沙は高学歴とは言い切れないものがある。だが渚沙自身は不満に思っていない。それが自分の実力だからだ。自分なりに頑張れるだけ頑張った結果なのである。
せっせとたこ焼きを焼きながら、竹ちゃんに助けられ、お昼間は弘子おばちゃん始め人間のご常連と触れ合い、夜は妖怪たちの相手をして楽しむ。上等な人生では無いか。
「そんな感じやな。さすがにヌルゲーとまでは言わんけど、無理の無い範囲やったわ」
「そうか。やっぱり和馬は無理をしておると思うか?」
「そうやなぁ。正直、そんな家庭環境やったら、あんま塾とかは行かれへんかったかも知れんし、その状態で私立の小学校に受かるんやから、地頭はええんやと思う。躾もちゃんとされてるんやろうし。でもそれと本人の意思とメンタルとは別問題やから。多分聡明な子やと思うねん。母親の期待を知ってて、望み通りの進学ができたものの、重さに耐え切れんくなったんかも知れへんね」
自分ができなかったから、せめて自分の子には、と思うのは、親が陥る可能性が高い思考である。そしてそこに子の意思は介入できない。年齢にもよるだろうが、できるほど成熟していないからだ。
親はもちろん子の幸せを願い、良かれと思って導くのである。そこに子の特性を思いやる余裕は無い。正確に言うと思いやっているつもりなのだ。だがどうしても自らの希望が押し出されてしまう。
子を思うがあまり、視野狭窄になってしまっているのである。そうなると頭も凝り固まってしまって、ほぐすのはなかなか困難である。それこそ当の子どもに反抗のひとつでもされない限り、覆すのは無理だろう。しても、なるかどうか。
それほどまでに、親の愛は大きいのだ。和馬くんの母親もそうだから、朝から深夜まで和馬くんのために身を粉にして働くことができるのだろう。それは本当に感服である。
だからこそ、できるなら和馬くんが望む道を分かってあげて欲しい。和馬くんは母親の望みを叶えてあげたいと奮闘し、それゆえに気力が切れてしまったのだろうから。
それでも、そうなってしまった和馬くんを休ませてあげているのだから、それは大きな救いなのだろう。
渚沙がそれを口にすると、座敷童子は「そうじゃな」と頷く。
「まずは母親に余裕を作ってやることじゃな。と言うわけで、今日からわしは和馬の家に行くことにする」
「分かった。うちの繁忙期も、ひとまず終わりやな」
「平和な「さかなし」が戻って来るのだカピな。次はわらしが励む番じゃな」
「うむ。また報告に来る。それまで待っておれ」
座敷童子は鷹揚に言って、お茶碗のお赤飯を豪快にかっ込んだ。