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WEB座談会「長期休業の中で学校は何ができる!?」

 学校休業が2か月となり、自治体間や学校間で「できること」の差が見えつつあります。こどもたちの学びをどう保障するのか、現場では何が課題で、再開後を見据えて何を準備しなければならないのか……公立小中高の先生たちと民間の方も交えて、4月19日(日)にZoomでWEB座談会を実施しました。

 座談会の内容を、あえて発言者と発言を紐づけずに列挙する形で紹介します。どこかに課題が、役立つヒントが、行動する後押しがあればと思います。

 最近、ネットに飛び交う言葉も殺伐としていますが、否定や批判ではなく、悩みながらも「こどもたちが気になるねん!」という参加者の想いを読み取っていただければ幸いです。


山口照美(司会):大阪市生野区長/元・市立小学校校長(民間出身)
田中梓さん:市立中学養護教諭
山本昌平さん:市立中学校教諭
山本哲哉さん:府立高校校長/元・市立中学校校長(民間出身)
Yさん:市立小校長
染谷昌輝さん:こども向けプログラミング教室講師
柴田清志さん:市立小中一貫校校長(民間出身)

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1.新型コロナウイルス対策で続く学校休業……現場の課題を共有しよう!

〇いろんな対策が突然、報道を通じて降りてくる中で、現場は混乱をしている。そしていつまで休みが続くのかわからない不安がある。

〇こどもたちに対して「やっていいこと」の指針がなく、学校任せになっているわりに問い合わせると「できないこと」の方が多い

〇学校にこどもが来ていないことで、児童虐待のリスクが上がっている。

〇課題は一言でいうと「会ってない」ということ。1000人中300人は入学式前で、そもそもあったことがない。60人中8人の教員が異動。知らない人が知らない人のことを知らない者同士で共有するという課題がある。

〇こどもたちの声を聞いてあげたいけれど、できない。こどもたちにとって学校に電話をかけて「助けて」というのはハードルが高い

〇YouTubeも学校のパソコンでは見られないし、こどもたちからの発信を受け止めることもできない。こどものつぶやきをどう受け取っていいのかなぁ、という悩みがある。自分のLINEを開放するわけにもいかない。

〇自分のこどもには、スタディサプリを導入した。こどもが言うには「書くプリントは飽きる。知らない人でも授業がいい」という。我が家ではできるけれど、自分が勤める学校に通っている他の家庭はできるのか、と不安に感じている。

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〇こどもたちに会えない中で、どう居場所としての学校を整えていくのかということと、いかに学習権を保証していくのかというのを視点として考えている。学校再開後に、感染防止のために全員が教室に入れないことも想定できる。その中でどう学習環境を整えるのか。

ネット環境が整わないことは、公教育の大きな課題。PTAにもお願いして楽天モバイルを導入するなど(最短でも6月)一緒になってこどもたちの学習環境と居場所を整えるのが短期的な課題。

〇中長期的な課題としては、スタディサプリなどの動画を導入していくと「こどもたちにそれで見てね、勉強してね」という教師のその先にやるべきことを考えている。「動画でいいじゃないか」と思われないような付加価値を持たないと、学校としての存在価値を問われる。再開後にどんなよい学校にしていくか、そのためにはどんな準備をすればいいか、教職員が話し合って考える必要がある。

〇プログラミング教室の講師をしている。親のレスパイトとこどもの居場所という役割で、ロボット教室をこの間も感染予防をしながらできる限り続けている。課題としては、宿題は学校に取りに行っているが、夏休みのようにギリギリにしかやらない。生活リズムが崩れている。

〇オンライン授業もやってみたところ、生徒のネット環境、特に通信速度に依存するところがあり、動画を流す時は注意がいる。パソコンの性能も同様に差がある。

〇課題は3つある。1つは「命を守る」ということ。このまま再開したとして、「命を守る」ということにリアリティがない。教室を消毒しろというけれど、消毒のアルコールがない。こども同士の接触は避けられない。登校日を設定するのは無理がある。リアリティのある命を守る方策を考えなければならない。できないなら休校を続けてほしい。

〇中学生はソーシャルディスタンスを守れても、小学生・幼稚園はまず無理だと思う。マスクは布がある、アルコールはない。じゃあ薄めたハイターで消毒しましょう、となると学習時間が削減される。命を守る方に時間をつかうか、学習時間を守るかで、養護教諭はどうしても一人なので理解が得られないという課題がある。

〇2つ目は「校長の裁量が少ない」。教科書配付はすでにほぼ終わり、残りの保護者には渡す日時も決めていたのに、市教委の指示は後づけで、日曜日も必ず開けるようにと指示がしつこく来た。先手打って動いた方が損をする、校長の裁量がまだまだ厳しいのを感じている。

〇3つめは動画などの授業が進むと、逆に「学校でしかできないこと」にフォーカスされていくのではないかと考えている。授業ではない集団づくりやコミュニケーション、多様性を受け入れるという役目を再開後に学校が担っていけるように考えることが、中長期的な課題ではないかな、と思っている。

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〇始めはいろいろ子どもたちに学習課題を与えているのだけれど、休みが長くなってくると、できているのか、できていないのかがわからないのが不安。今までできていた子も、昼夜逆転になっているという話を多く聞いている。

〇オンライン授業はしたいと思っているが、スマホしか持ってない家庭が多い。小さい画面で10分20分は辛いという状況があり、映像は見ないという話になっている。タブレットを一家に1台持たせられるような、施策なのか学校の徴収金なのか、ツールが欲しいと思う。

〇自分の中学生のこどもに課題が来たけれど、ただただ教科担当に「出さなあかんから出せよ」と出させた課題が多く感じる。校歌を譜面に移すだけ、という宿題もあった。毎日、どうプログラムを組んでやらせるかの指示も工夫も無い。一日をどう組み立てるかというメッセージは、学校ごとか担任ごとかはわからないけれど、必要だと思う。

2.「今、できること」の創意工夫を共有しよう!

〇「学校チャイム」というアプリがあり、それを鳴らすとこどもにスイッチが入るような感じがする。

〇再度の課題配付の時からは、1日目は何をどれだけやる、2日目はこれ、と14日間分、宿題を毎日限定してするように示している。今まで復習復習で停滞感があるように思うので、新しい学習を自学自習のやり方も示してやるように郵送で送った。双方向のやりとりができないのが悩み。

〇「バス」という名称をつけて、「郵送を毎週木曜日に定期便=バスとして出しましょう」という取り組みをしている。生徒が1000人いるんで毎回30万かかるけれど、校友会などにも助けてもらいながらやっている。特に3年生は教科が細かく分かれていて、大変だけれどもやっている。定期便と決めたことで、やりやすくなった。

〇生徒の格差も怖いが、先生達の間に情報の格差ができるのも怖い。部活の再開についてなど、LINEのグループなどで共有すると、届かない先生もいた。今はSlackを学年、教科や校務分掌、運営委員会ごとに作って、情報共有ができる。「全員揃わないと打ち合わせできませんね」という文化を打ち破って、60人全員が入っている。とても便利。

〇本校もこれから学校休業が延びることも想定して、郵送という手段を見据えて使える予算を組み替えている。80台のタブレットの持ち帰りができるという資源があるので、保険の問題はあるけれども色んなツールを駆使して、コミュニケーションの手段を確立したい。

〇新1年生が学校のことを知らないので5月1日号に区の広報紙に学校からのメッセージや紹介を載せてもらう

〇本校では去年から運営委員会を廃止しているので、管理職の入らない学校運営の根幹にかかわるような議論をする会議を設定している。新型コロナ対策においても、全員でやるべきこと、部分的にやれること、校長に聞かなくても自主的にできることとに分けて考えて動ける組織になってきた。

〇会議の在り方を4月1日に「もう会議はできない」と割り切って、一回の情報効率を上げるために、走り書きでも何でもいいので全体でスクリーンに映した資料を見ながらやっている。

〇GoogleがChromeブックを無償提供してくれているので、Googleクラスルームを使えるようにしている。先生に研修もしている。あと、3年生の進路の保障について、今年の子も今までのルールで入試をする可能性が高いと感じている。では、中3にどうやって進路保証をするのかということが必須。Chromeブックの提供をする予定。

〇学校が再開したら、感染防止のために1クラスにまとめて入れられないかもしれない。教室を分けるのであれば、2クラスを教えないといけないので分身の術として動画を活用するスキルは必要になってくる。居場所については、オンラインで顔が見えるだけでも安心するので、できるだけ早く環境を整えてほしい。

〇小手先の話になるが、今は教職員とこどもの距離が遠くなっているので、ホームページで何年の先生からメッセージを載せて、それを保護者メールにリンクを送り、少しでも接点を持とうとしている。

〇noteという仕組みを使って保護者や生徒向けの資料を作った。Googleフォームを使うとメールアドレスが無くても投稿できる。保護者もLINEしか使わない。校長か誰かがGoogleのアカウントを作ってしまい、それで学校のYouTubeのサブチャンネルを作ったり、Googleフォームで学年ごとの宿題を出すとか、なぞなぞの答えでも何でもいいので、双方向ができるので、チャレンジしてみてもいいのでは。

〇府立高津高校は、抜群に早くオンライン授業を始めた。その時、家庭に環境があるのか4月3日にアンケートをかけて、持ってない子は数名だけだった。親に連絡したら、買いますということで、4月10日に授業をスタートできた。時間割を作ってPDFで出して、朝の授業はGoogleフォームで昼前に返すようにしている。墨江丘中学も学校ホームページで時間割を提示している。

〇オンライン授業には2種類あると世間で言われてでいる。同期型と非同期型。完全にお互いが双方向でできるリアルに話しながらできる、でもこれは環境の差が出る。うちがやろうと思っているのは非同期型で、ホームページか何かしらでこどもたちに発信し、1週間ぐらいの目安をこどもたちに指示してレスポンスをもらうやり方を取り入れたい。

3.再開後の不安と方向性

オンライン環境や家庭の力がそのまま、2ヵ月分の習熟度の差になってしまう不安がある。できる子はやる、できない子は取り出しでどうやって追いつかせるのにもっといい方法はないかと悩んでいる。

〇再開後の話となると、文科省は家庭でやった学習は履修とみなすと言っているので、プリントだけ配ってスケジュールも示さず、何の手立ても解説もしないでいきなりテスト一発ボーンとやって終わらせてしまう学校が出るんじゃないかと思う。それでも、学校としては時間がないからと言い訳して終わってしまう。

〇こどもたちの宿題に対して、いかに評価をしてあげるのかを考えないと。こんな力がついているかどうかを評価したいから、このような宿題を出しました、という明確なものを全教員が持ち、こどもたちの力をどう見とっていくかを意識しなければならない。

担任外の先生にどう活躍してもらうかが、再開したときに大きなポイントになると思う。習熟、教務の先生、日本語教室の加配も含めて、いろんなところを俯瞰で見て、どう学力保障をしていくか。

〇今、ネットで動画を流してオンライン授業をという流れに大阪市もなっているけれど、一人ひとりが各学校で動画を作ろうとすると無理がある。そこは思い切って、動画授業を作るところに、ITに強い先生の資源を集めて、授業動画を作るプロジェクトをしっかりやる。

〇逆に、ITが苦手な職員を活かせる場所は必ずあるので、その先生たちには再開後のこどもたちの気持ちに寄り添ってもらうなど、それぞれの強みを活かしてもらう形で学校を回していくことが大事。得意なもので勝負した方がいい。

〇市教委が動画を作ったのは大きな一歩だと思うので、ここに資源を集中させることで、他の教員がやるべきことに注力できる。そういった交通整理が必要だ。

〇学校が再開しても、不登校や学校に来たいけれど来れない不安定な子が増えると思う。今もつながりたいけれども、ICTについてはなかなか進まない。学校のホームページに保健だよりを載せて、電話をしていい時間を紹介するつもり。できれば、「メールしてきてもいいよ」、ということが現実的になればいいなと思っている

〇きっと学校が始まったら、教科の授業をする時間がどんどん無くなっているので、個別に支援をする必要が増えていくと思う。ICTの個別最適化学習で学び、気になる子は取り出して個別対応をするなど、時間割の概念や教科の概念を取っ払って今年は過ごしていかないといけないかもしれない。

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※会議中に山本昌平先生が共有してくれたメモ。

〇LINE公式アカウントを活用してもらえれば個別対応ができるのではないか。また、zoomの会議はルームを分けることで、オンライン上でもたくさんの人数でも、個別でもできる。活用できると、個別対応の授業をオンライン上の別の部屋に入れることもできるということもできる。

〇家にいるこどもを見ていると、基本的には「好きなこと」しかしない。学校にいると、いろんな教科や当番や掃除も含めて、「やったことのないこと」「きらいなこと」も含めて出会い、「やったら案外いけるかも」と新たな適性に気づく、イヤなことなりに付き合い方を覚えていくことも、学校の意義なのではないかと改めて気づいた。

4.教育WEB座談会、最後にコメント!

登美丘高校の山本哲哉校長より、ご紹介。
「コロナでみなさん鬱々としていると思いますが、登美丘高校の『おうちでフラッシュダンスチャレンジ』をぜひ見てください。元気になれますよ!」

《他の参加者の方からのコメント》

〇すごくたくさん勉強させてもらいました。改めて、一人じゃないというのがこんなに心強いんだと思えました。こどもたちにもその気持ちを感じてほしいです。またがんばります。

〇本当にいろんな情報と考え方があるんだなぁと、短い時間でもわかりました。「話す」ということで自分のストックができる、また学校に広められるというのはいいなと思いました。

〔司会より〕
私もほぼ初めての、それも思いつきでFacebookで呼びかけたようなWEB会議でしたが、課題を複数の視点で共有し、今の立場でやるべきことも確認できて、行動の後押しになりました。

参加者の方々からは「月曜から早速こんな検討に入りました!」「これを始めました!」という声が聞こえていて、嬉しく思っています。

おそらく学校休業が長期化する中で、ヒントが1つでも2つでも見つかれば幸いです。

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