見出し画像

子供の「やる気」塾に丸投げしても全く意味ない説 前編

やる気◯イッチどこにあるんだろう、というCMはあまりにも有名で、子供が勉強にやる気を出してくれない、という悩みを抱えた保護者にアプローチするコピーとしては見事なものだなぁと感心します。

事実、私の元にも「子供のやる気を出してほしい」とか「勉強を好きにさせてほしい」とか、結構な丸投げの依頼が来ることも多々あります。

挙句の果てには、受験生本人から「モチベーションを上げてほしい」と言われることもあるのですが、その度に私が思うのが、やる気を引き出すことを塾に丸投げしても意味がないんだよなぁ・・・ということです。

いやいや、それをやるのが塾でしょ!そのために高い授業料払ってるんだよ!と言われてしまいそうなので、順を追って説明していきたいと思います。

追記:文章が長くなってしまったので前半後半に分けます。

やる気の正体を分析してみる

やる気、というのではすでに曖昧なので、ここでは「目標達成のために必要な量の勉強がこなせる状態」と定義しましょう。

私のこれまでの経験ですが、客観的に見てやる気があるとされる子供には3つのパターンがあります。

①好き嫌いではなく、必要な作業ができる

このパターンは簡単にいうと、歯磨きや片付けがキチンと毎日できる子です。

この子達はやる気があるというよりは、やらなければならないことをキチンとこなせるので、客観的にはやる気があるように見えます。

個人的な感覚ですが、東大にはこのタイプの人間が多い気がします。

いわゆる「真面目な子」と評されることが多い子達なのですが、このタイプは少々危険で、一見勉強していてやる気があるが故に、間違った勉強法を続けていてもそのままの状態にされやすいのです。

たまに、真面目だけど何故か実力があまり伴ってない、でもそこまで成績も低くない、という要領が悪いとされるタイプがいると思いますが、このタイプがまさにそこに陥りやすいのです。

②勉強すること自体が純粋に好き

※勉強が好きだと錯覚しているタイプ(勉強のアウトプット先があるタイプ)は3に分類します。

2のパターンは非常に稀ですが、勉強自体が好きな子です。このタイプはアウトプット先を意識していません。この子達はやる気というよりは、ただ好きなことをやっているだけです。

これも、本人たちはやる気を出しているつもりはなく、客観的にやる気があるように見えるタイプです。

一見理想的なタイプに見えますが、これは後天的に身につくものではなく、先天的な特性の側面が強いと思います。

また、仮に後天的にこの特性を身につけられるとしても、受験勉強自体を好きになることで将来的に役に立つことはほぼないでしょう。

ですので、「私が勉強を好きにさせます!」と言う講師を私はあまり信用していません。

後天的に勉強が好きになったというのならば、それは次に述べる「勉強の先の目標が見つかった」場合か、もともとの素質として「数学が好きだったことに気がついた」というような稀有な例だと思います。

③明確な目標や目的を持っており、そのために勉強する

3のパターンは1、2のパターンとは明らかに異なり、意識的に、主体的にやる気を出すタイプです。

また、1、2のタイプが先天的な特性であるのに対し、3に関しては後天的な教育で変えることができるものです。

皆さんの想像する理想のタイプというのは、まさにこの3のタイプのことだと思います。

さて、この3のタイプはさらに2つのグループに分かれます(重複する場合もあり)。

  1. 自分のことが好きなタイプ
    これはまさにかつて(今も?)の私に該当するタイプです。
    私の場合は以下に示す2のタイプにも属していましたが、どちらかというと1の割合が高かったように思います。
    このタイプは「自分は勉強することが好きなんだ」と錯覚する場合も多いのですが、つまるところ「勉強が好きな自分が好き」という幸せな思考の持ち主です。

  2. 将来(中長期的)の目標があるタイプ
    このタイプの子が世間一般で言う理想のやる気を持つ子ということになると思います。
    中長期の目標から逆算して、これを達成するにはこの作業をしなければならない、という目標という抽象概念からそこに至るまでに必要な作業に落とし込める子(もちろん、作業に落とし込む過程は大人が協力する場合もある)ということになります。
    では、後天的な教育からこのような理想的なやる気を持つ子を育てるための必要条件はなんなのか、と言うことについては、後編で考察しようと思います。

やる気は後天的に伸ばせるものなのか?

やる気について分析したところで、次に外的要因(後天的に)やる気を操作することができるのかどうかを考えてきたいと思います。

先の例で言うと、1、2のタイプはどちらかというと先天的な要因が大きいと思います。

さて、3−1、3−2のタイプは後天的に教育で変えることができるものだと思うのですが、これは果たして学習塾で養われるものなのでしょうか?

3−1のタイプは自己肯定感を上げてあげれば良いのだと思いますが、これは幼少期に形成され、その後多くの時間を共に過ごす家庭や学校において定着するものだと思います。

私も日頃、生徒の自己肯定感を上げる努力はしていますが、凝り固まってしまった性質や習慣をわずかな時間で変えるのは非常に難しいです。

そして、3−2のタイプを巷の学習塾で育てるのは少し難しい気がします。学習塾業界というのは学生講師も在籍している上に、その業界しか経験のない講師が多いのです。

「経験していないことは伝えられない」というのが私の持論ですが、サラリーマン経験や、インターンプログラム提供のための業界研究などをしてきた私ですら、星の数ほどある職業の中から生徒に将来の夢を持たせることは容易なことではありません。

実際は業界の表面しか見ておらず、その業界を経験したわけではないのですから。

ましてや教育業界、それもビジネス側ではなく教える側に特化した(それはそれで学習塾の役割をこなすという意味では大正解です)仕事しか経験のない講師や、社会に出たことのない学生講師には荷が重いことは想像に難くありません。

これを家庭でどう養えば良いのか?ということは、後編で述べたいと思います。

学習塾の役割は触媒

では学習塾の役割とは何なのか?

それは、夢や目標のために努力をする、その努力に必要なエネルギーをほんの少し下げてあげることに他なりません。

いわば学習塾は努力の活性化エネルギーを下げる触媒のような働きをするのが本来的なのです。

触媒とは、化学反応を促進する物質のことです。ほとんどの化学反応は、化合物同士を混ぜただけでは進行しません。化学反応を進行させるために、「温度を上げる」という方法がよくとられます。しかし触媒を用いることで、より少ない熱(場合によっては室温よりもっと低い温度)で反応を進行させることが可能になります。

研究用語辞典-WDB-

例えば、目標達成のためにある学力レベルを達成しなければならないとしましょう。

やる気はあるけれど、学習塾なしで勉強していると時には理解できない問題に出会ったり、非効率な勉強をしたりして、成績がなかなか上がらないこともあるでしょう。

なかなか成績が上がらないと、もともとあったやる気ゲージが減り、努力のハードルが高くなります。

逆に、こなした分だけ成績が伸びれば、努力の価値が見出せるので、やる気ゲージも下がらず、努力のハードルが下がるわけです。

「やる気を上げてください」というご家庭の生徒のほとんどが、最初からやる気がない、ひどい場合はマイナスなのです。

学習塾は触媒ですから、反応するものがゼロでは流石にお手上げです。

最初のやる気がゼロでは、最初の成果を出すための行動ができないのです。

そしてこれは即時的に言葉だけで変えられる性質ではなく(変えられるとしても長い時間を要します)、これまでの家庭環境や教育で固定されるものなのです。

それではどのように子供のやる気を出す方向に持っていくのか、後編では具体的な方策を提案したいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!