【中級編】「認知論的アプローチ」とは何か
さて、今日は「認知論的アプローチ」について深堀りしていこうと思います。
「認知論的アプローチ」とは
認知論的アプローチというのは、簡単に言うと、
人を「意味づける主体」として捉え、動機づけを「主体による意味づけの問題」として扱う立場
のことを意味します。
そのため、認知論的アプローチでは、行動の要因(あるいは決定因)として、
私たちの思考、学習内容、プロセスに着目して研究を行います。
「意味づけ→認識→行為」
私たちは、日常生活の中で、ヒト、モノ、コトについて意味づけようとして、
その結果、何らかの認識が生まれます。
例えば、テストの結果がかえってきたら、その点数について意味づけようとします。
テストの点数が低かったら、「勉強が足りなかった」「苦手な分野が多く出題された」とか、
あるいは点数が高かったら、「しっかり勉強できていた」「たまたま得意な問題が多く出た」とか。
重要なのは、わたしたちの行為は、こうした認識によって規定される、という点です。
上記の例で言えば、「勉強がたりなかった」という認識が生まれれば、日々の勉強時間を増やしたり、
勉強が得意な友達に勉強方法を聞いたりなどの行為が生まれます。
このように、「意味づける」ことは、当人の動機づけに強い影響を及ぼしているんですね。
環境が人の動機づけにあたえる影響はとても複雑
さらに言うと、環境が人の動機づけにあたえる影響は、単純なものではありません。
例えば、テストの点数が70点だったとしたら、
「勉強が足りなかった」と思う人もいれば、「こんなもんで良いだろう」と思う人もいますよね。
このように認識が異なれば、その後の学習行動も変わってくるわけです。
つまり、環境が提供する情報が同じ(テストの点数が70点)でも、
すべての人のやる気に対して一律の効果をもたらすわけではありません。
当人のその後の行動は、環境がもたらす情報に対する一人ひとりの意味解釈を媒介として
決まってくるということです。
認知のメカニズム
(図解)認知のメカニズム
認知論的アプローチの概略は以下のように表すことができます(参考・引用は下図掲載)。
例えば、
テストの結果を親に見せたら、「頑張ったね」「ケアレスミスが減ったね」と笑顔で言われた(感覚的体験)
親の笑顔や言葉といった特定の情報に注意が向けられ、それらの情報を意味づけるために長期記憶から具体的な記憶(これまでの勉強や、親の過去の言動など)が検索される。
と同時に、情報が変換・分類・整理され、体系化(体制化)が生じたり、関連情報が付加(精緻化)されたりする。
→例えば、「親はこれまでの自分の努力を見てくれていた」「頑張って勉強してよかった」とか
このような情報処理の活動に基づき、今後のプランや目標、期待などの認知が形成(あるいは再構築)される。
→例えば、「今後も毎日2時間勉強しよう」「次のテストはケアレスミスを0にしよう」「次もいい点が取れそうだ」
そのような認知によって、行動選択や行動の強さ、持続性といった今後の行為に影響を及ぼす
→例えば、その後の勉強期間や集中力の高さなど
さらにその行動の結果(次のテストの点数)を評価したり解釈したりする認知プロセスが、再び情報処理や認知に影響を及ぼす
というのが、一連の流れです。
動機づけの心理学では、とりわけ認知の内容(認知内容)と認知プロセスを中心とした
心理的メカニズムに焦点を当てて研究が進められてきました。
さて、ここからは、「認知内容」について、詳しく見ていきましょう。
認知内容としての「信念」
「グローバル社会に対応するため、英語が喋れるようになった方がよい」
「ITスキルを身に着けないと時代についていけない」など、
私たちは特定の対象(英語やITなど)に対して一定の認識を持っています。
このような認知は「信念」と呼ばれ、人の動機づけを規定する重要な要因の一つとされています。
例えば、上記のような信念を持っている人は、他の人よりも
「英会話教室に通おう」
「ITの勉強をしよう」
という気持ちが強くなるでしょう。
このように、認知論的アプローチにおいては、
人はさまざまな体験を通して多様な信念を学習し、その学習した信念が当人の動機づけのあり方を規定する
という考え方が中核にあります。
学習の動機づけに影響を及ぼす信念とは
特に、学習の動機づけに影響を及ぼす信念は、以下の2つに大別されます。
課題に関する信念
自己に関する信念
課題に関する信念
上記の例で言うと、英語に対する信念は、「課題に関する信念」です。
「英語なんてしゃべれなくても生きていける」という信念を持つ人もいれば
「英語は生きていくうえで必須のスキルだ」という信念を持つ人もいますが、
これらの信念は、対象(英語)に関連する当人の体験に基づいて形成されたものであり、
ものごとを把握したり、判断したりするための基準として機能します。
それだけでなく、対象に関わる動機づけ(英語学習への意欲)にも影響を及ぼします。
自己に関する信念
一方で、「自己に関する信念」は、「自分は〇〇だ」という具体的な認識と
それに付随する価値判断のことです。
「自分は何をしてもだめだ」というネガティブなものから
「自分ならどんな課題でもこなすことができる」というポジティブなもの、さらには
「運動が得意」という抽象的なものから
「特に球技が得意」という具体的なものまで、非常にさまざまな信念があります。
「課題に関する信念」と「自己に関する信念」は相互に関連する
「課題に関する信念」と「自己に関する信念」は相互に関連していて、例えば、
「英語は生きていく上で必須のスキルだし、自分なら努力次第で絶対に英語が喋れるようになる」
というように、動機づけのプロセスにおいて、両者は統合的に機能しているんですね。
まとめ
それではまとめです。
認知論的アプローチとは、人を「意味づける主体」として捉え、動機づけを「主体による意味づけの問題」として扱う立場のこと
認知論的アプローチでは、行動の要因(あるいは決定因)として、私たちの思考、学習内容、プロセスに着目
私たちは、日常生活の中で、様々なことに対して「意味づけ→認識→行為」を行っている
環境がもたらす情報に対する認識は人によってさまざまで、その後の学習行動もさまざまである
動機づけの心理学では、とりわけ認知の内容(認知内容)と認知プロセスを中心とした心理的メカニズムに焦点を当てて研究
認知内容は「信念」と呼ばれ、人はさまざまな体験を通して多様な信念を学習し、その学習した信念が当人の動機づけのあり方を規定する
学習の動機づけに影響を及ぼす信念は「課題に関する信念」「自己に関する信念」の2つ
「課題に関する信念」とは、対象に関連する当人の体験に基づいて形成されたもので、ものごとを把握したり、判断したりするための基準となる。さらに、対象に関わる動機づけに影響を与える。
「自己に関する信念」とは、「自分は〇〇だ」という具体的な認識とそれに付随する価値判断のこと。ネガティブなもの、ポジティブなもの、具体的なもの抽象的なものなど、さまざま。
「課題に関する信念」と「自己に関する信念」は相互に関連し、動機づけのプロセスにおいて、統合的に機能する
参考文献
「やさしい教育心理学 第五版」
著者:鎌原雅彦・竹綱誠一郎
出版:有斐閣アルマ
「学習意欲の理論ー動機づけの教育心理学」
著者:鹿毛雅治
出版:金子書房
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