【初級編】「自分はなぜ、やる気が出ない?」が分かる⑦ ~「内発的動機づけ」~

内発的動機づけ

大人もそうですが、子どもはコンピューターゲームに夢中になりますよね。

ゲームに勝っても賞金がもらえるわけではありませんし、

場合によっては褒められることすらない(むしろ叱られる)のに、

ひまを見つけてはゲームに熱中します。

このように、なにか報酬を得るために活動するのではなく、活動そのものが楽しくて

活動している状態を「内発的に動機づけられている」といいます。

これとは逆に、お金を稼ぐため、あるいは褒められるために活動する場合は、

「外発的に動機づけられている」状態です。

内発的動機づけが、教育心理学の重要概念として位置づけられてきた理由は、

単に「主体的な学び」を支え促すだけでなく、人生の楽しみやバイタリティーの

おもな源泉となるからだ、と言えるでしょう。

勉強も「内発的に動機づける」ことが可能

ゲームには夢中になれても、勉強に夢中になることは不可能なのでしょうか?

確かに、強制される「勉強」は夢中にはなれないでしょう。

しかし、小さい子どもは、文字や数字に興味を示し、

夢中になって何度もなぐり書きをしますよね。

書きたい文字が書けたら、大喜びで、もっと書くんだとさらに夢中になります。

大人でも、例えば韓国アイドルのファンになって、夢中で韓国語を勉強するということも

ありますよね。

私たちは、本来何かを学ぶことが好きで楽しいはずなんです。

にもかかわらず、子どもたちが学校の勉強を好きになれないのは、

夢中になれない理由があるということです。

外的報酬の阻害効果

内発的に動機づけされている状態は、学習する上でとても良い状態なわけですが、

このような状況下で報酬を与えられるとどうなるのでしょうか。

デシ(Deci, 1971)の興味深い実験を見てみましょう。

彼が行った実験の内容は以下のような感じです。

大学生を対象に立体的なパズルを課題とする実験を行う

実験の全体は3つのセッションに分かれている

第一セッションでは、ただ単にパズルを解くだけ

第二セッションでは、実験群の学生は、「1つの課題を制限時間内に解くことができたら、1ドルの報酬が与えられる」と告げられる。一方で、統制群の学生には、何も告げない

第3セッションは、第1セッションと同様に、単にパズルを解くだけで、報酬は与えられない

それぞれのセッションで、実験者は適当な口実をつくって一時的に実験室を離れ、その間実験対象者は「何をしても良い」と言われる(つまり、自由時間が与えられる)

この実験では、実験対象者が自由時間にどのくらいの時間、パズルを解いたかを観察しました。

何をしても良い時間にパズルを解いていれば、それは、パズルに対して内発的に動機づけられている

と考えられるからですね。

結果は簡単に言うとこんな感じです↓

実験群では、第2セッションでパズルに従事する時間が増大するが、第3セッションでは、第1セッションよりもパズルに従事する時間が減少した

統制群においては、実験群で見られた現象(パズルに従事する時間が減る)が見られなかった

というわけで、実験群において、第3セッションでパズルに従事する時間が減少してしまったのは、

単に同じ課題を繰り返しやって飽きたからではなく、第2セッションで課題の成功に対して

報酬が与えられた(外発的動機づけがなされた)からだということが分かります。

この実験から、

内発的に動機づけられている行動に対して報酬を与えると、その後最初の水準より内発的動機づけが低下してしまうことがある

ということを示しています。

例えば、子どもが最初は自主的にお片付けをしていても、「お片付けできたらおやつあげるよ」とか

言われてしまうと、以降はおやつをもらえないとお片付けをしなくなる可能性があるよ、

ということですね。

こういうのって、意外とやりがちですよね。

ここでも登場!本当に厄介な「割引原理」

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

ここでも、「割引原理」が働いていると考えられています。

※「割引原理」については、以下の記事で詳しく書いています↓

https://for-better-education.com/motivation⑥

人がある行動をするとき、その原因には、

それをすることが好きだからという内的な要因

それをすることで報酬が得られるという外的要因

が考えられます。

どちらか一方の原因があれば行動するでしょうから、ここで「割引原理」が働きます。

すると、もともとは報酬がなくても好きでやっていた行動でも、報酬が存在するようになると、

自分の興味を割り引いて考えてしまうんですね。

つまり、「好きだからやっているのではなく、報酬のためにやっている」

と自分自身で考えてしまうようになるんです。

どうせなら、「報酬のためでなく、好きだからやっている」と思えたら楽なのに、

「割引原理」は本当にたちが悪い…(苦笑)

報酬がもたらす2つの側面

ここまで、報酬の悪い面ばかり言及してしまいましたが、

報酬が行動を動機づけることは確かです。

特に、何もしなければ自発されそうにない行動に対して、報酬は非常に有効な手段になります。

また、一言で「報酬」と言っても、お金以外にも褒めるなどの言葉や、物品など様々です。

では、報酬はどのような場合に動機づけを促進し、どのような場合に阻害するのでしょうか。

デシ(Deci, 1975)は、報酬には

情報的側面

制御的側面

の2つがあると主張します。

報酬の使い方によっては、動機づけを高めることができますので、

ここはしっかり押さえていきましょう!

情報的側面

情報的側面とは、報酬はそれが与えられることによって、

「あなたが行っていることは正しいことだ」というメッセージ(情報)を伝えている、というものです。

制御的側面

一方で制御的側面とは、報酬はそれが与えられたり与えられなかったりすることで、

相手の行動を制御しようとする側面のことをいいます。

報酬と動機づけの関係

報酬が情報的なものとして受け取られると、自分が行っていることは「正しい」

と言われているわけですから、有能感が高まり、動機づけも高まります。

逆に制御的なものとして受け取られると、「自分は好きだからやっているわけではなく

報酬のためにやっているのだ」と考えます。

つまり行動についての原因帰属の変化が起こり、動機づけが低下してしまうんです。

一般に、

褒めるなどの言語的報酬は情報的なものとして受け取られる

金銭や物品などの物質的報酬は制御的なものとして受け取られる

傾向があると言われています。

あくまで傾向なので、与えられた報酬をどのようなものとして子どもが受け取るかは、

子ども側の考え方次第ではあります。

かくいう私も、褒められると逆にモチベーションが下がってしまう人間でして、、

「褒めればやる気を出す!」というのは必ずしも全員に当てはまるものではありません。

とはいえ、物質的な報酬の用い方には注意が必要だと言えそうです。

まとめ

なにか報酬を得るために活動するのではなく、活動そのものが楽しくて活動している状態を「内発的に動機づけられている」

お金を稼ぐため、あるいは褒められるために活動する場合は、「外発的に動機づけられている」状態

内発的に動機づけられている行動に対して報酬を与えると、その後最初の水準より内発的動機づけが低下してしまうことがある

もともとは報酬がなくても好きでやっていた行動でも、報酬が存在するようになると、自分の興味を割り引いて考えてしまう(つまり、「割引原理」が働く)

とはいえ、報酬は、何もしなければ自発されそうにない行動に対して、非常に有効な手段になる

報酬には「情報的側面」「制御的側面」の2つがある。

「情報的側面」とは、報酬はそれが与えられることによって、「あなたが行っていることは正しいことだ」というメッセージ(情報)を伝えている、というもので、「制御的側面」とは、報酬はそれが与えられたり与えられなかったりすることで、相手の行動を制御しようとする側面のこと

報酬が情報的なものとして受け取られると、有能感が高まり、動機づけも高まります。逆に制御的なものとして受け取られると、行動についての原因帰属の変化が起こり、動機づけが低下

褒めるなどの言語的報酬は情報的なものとして受け取られ、金銭や物品などの物質的報酬は制御的なものとして受け取られる傾向がある

参考・引用

「やさしい教育心理学 第五版」
著者:鎌原雅彦・竹綱誠一郎
出版:有斐閣アルマ

「学習意欲の理論ー動機づけの教育心理学」
著者:鹿毛雅治
出版:金子書房

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