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『永遠の仔』|悪意の連鎖を断ち切る心を持っているか?自問する。

昔から、<話題になった本>というのをあんまり読んできませんでした。

多分、読書は私にとって旅行のようなものなので、現実世界と距離的、時空的に離れている方が好みだからなのだと思います。

なので、『永遠の仔』も映像化された時、書店で平積みになっていたのを知りつつ、今回、初めて読みました。(『推し、燃ゆ』も、今読むか迷っています。。どうせ読むなら、今でも後でも変わらないようなものですが。)この本に関しては、それが良かったかもしれません。本を開いたとき、時が満ちたような感覚がありました。

2385枚の長編というだけあって、分厚い本の重みと、船越桂氏の美しい彫刻を手のひらに感じながら、1日半ほどで一気に読み終えました。

ご存知の方も多いとは思いますが、内容は社会的にとても重たいです。

虐待や疾患等で精神のバランスを失った子供が集う、病院の精神科。そこで出会った一人の女の子と二人の男の子。退院時に起こった事件を共有したまま別れ、大人になり再会する。看護師、弁護士、警察官になっていた彼らの目の前で、子供が虐待にあい、殺人が起こり…

連鎖する悲惨な出来事に目を覆いながらも、読み進めてしまうのは、出てくる人々の心の純度が高くて、相手を心から案じ、一生懸命それぞれの正義を求めようとしているからでした。ただ、どの人も人間なら持ち得る弱さを狙われて罪のバトンが回ってきてしまう…それをどう食い止めるか…

こんなことを言うのもはばかられますが、私にも、その生まれの血の中に、得体の知れないもの、人を不幸に導く力のあるものの存在を感じることがあります。

けれど、誰かの心の中で、悲しみや過ちから生まれた悪意の種は、人を介し、雪だるま式に膨れていくとしたら、時間の経過は不幸を増やすだけになってしまう。自分の心をもって、悪意を消滅させる力、流れを断ち切る力。それを持たねばならないのだと、深く心に刻みました。

合間に繰り広げられる、幼少時代を回顧した、自然の描写がとても美しかったです。

深く集中して本を読む時間は、それだけで、癒しになりますね。案外、疲弊している時にこそ読みたい本かも知れません。



よりたくさんの良書をお伝えできるように、頑張ります!