習近平を巡る「中国問題」の本質

習近平を巡る「中国問題」の本質


 最近、習近平体制が危うくなっているとか、不動産問題を抱えた中国経済が危機的であるなどと喧騒されているが、もう少し「中国問題」の本質を理解しておく必要がある。

 2022年10月の中国共産党大会で「異例の」3期目に入った習近平は、周りがイエスマンばかりであるため、国内外の状況が正確に伝えられることもなく、「マシな意見」が上がってくることもなく、文字通り「つんぼ桟敷」状態である。独裁者が「つんぼ桟敷」にいるリスクは「天文学的」である。

 中国のトップが2期・10年までと決められていた理由は、まさにこういう事態を避けるためだった。そういう意味で現在の中国は「同じように長期政権で政策ミスを繰り返した」毛沢東時代以来の危機であることになる。しかも当時に比べて中国経済の規模も国際政治における存在感も格段に巨大化しているため、世界経済や国際政治に与える影響も「破壊的」となる。

 つまり現在の中国問題は「天文学的に破壊的」なのである。

 かといって習近平体制がすぐに倒れるわけではないが(自由主義陣営のバイデン政権や岸田政権の方がよっぽど危うく見える)、最近の数ある習近平を巡る「中国問題」のうち、特に気になる問題が2つある。どちらも一過性のものではなく「中国問題の本質」に関わるものである。

 1つが「習近平の人民解放軍に対する支配力の低下」、もう1つが「長期低迷に転じている人民元相場と習近平の政策ミス」である。

 とくに後者は不動産市場のバブル崩壊懸念など現象面を気にするものではない。その転機は最近ではなく習近平体制となったばかりの2014年1月にあったはずである。

 そこから習近平は中国経済の長期的な変化のサインを無視したまま、政策ミスを連発して現在に至る。

 最近の中国不動産市場を取り巻く問題も、その転機は2014年1月にあったはずである。これは長期的な問題なので「明日にも中国不動産市場が崩壊する」わけではないが、状況は間違いなく日々悪化している。


その1  習近平の人民解放軍に対する支配力の低下


 中国(中華人民共和国)のトップとは、中国共産党トップの総書記、国家元首である国家主席、軍隊(人民解放軍)のトップである中央軍事委員会主席を兼ねるが、その中で「実質的」に最重要ポストは最後の中央軍事委員会主席である。

 歴史的にも、鄧小平や江沢民など歴代トップが退任後もしばらく中央軍事委員会主席に居座っていた例がある。ただ習近平は2012年10月の共産党大会で3つのトップを「すべて」胡錦涛から引き継いでいるが、かといって習近平が最初から人民解放軍をコントロール出来ていたかといえば、もちろんそんなことはない。

 というより中華人民共和国の歴代トップはすべて人民解放軍のさまざまな「利権」を維持させることにより、コントロールするより「共存」を図ってきた。あの毛沢東でさえ元帥だった(別に人民解放軍のトップではなく実戦経験も乏しかったが共産党員だった)林彪を重用し、自身の後継者にまで指名するが、最後は謀反の疑いを被せて追放している。林彪は軍用機でソ連に逃亡途中に撃墜されて死亡するが、謀反を起こす度胸も実力もなかったはずである。

 人民解放軍は1949年10月の中華人民共和国建国より早い1927年8月に創設されているが、日本軍と戦った蒋介石の国民党軍に比べれば大変に弱かった。中華人民共和国の建国後は、台湾に追放された蒋介石が残していった「割合強い」国民党軍も吸収して巨大化するが、もともと国民党軍とは土着軍閥の集合体であり、出来たばかりの中華人民共和国政府への忠誠心などナハからなかった。

 中華人民共和国の歴代トップが人民解放軍に維持させた「利権」には、武器や食料などの調達・分配(転売)から資源開発にまで至るものまであり、人民解放軍とは軍隊というより政商である。実際に人民解放軍は現在に至るまで(実弾を使った外国軍との共同軍事演習を入れても)実戦経験がほとんどなく、戦闘ではなく金儲けに専念していたことになる。

 とりわけ旧満州国を基盤とする瀋陽軍区(当時)はもともと朝鮮系やモンゴル系の馬賊・匪賊が多くコントロール不能で、確保する利権も北朝鮮にまで及ぶ各種資源開発を含む膨大なものだった。北朝鮮にはタングステンやマグネサイト(菱苦土石)など未開発の希少資源が大量に眠っている。

 歴代トップの江沢民も胡錦涛もこれら膨大な利権に手を伸ばさず「共存(つまり山分け)」を図ったため、そのトップで2004~2012年に中央軍事委員会副主席を兼務していた徐才厚の横領額も天文学的なものとなる。

ところが習近平はこの利権に手を伸ばす。ライバルである江沢民の利権でもあるからで、綱紀粛正の名のもとにトップの徐才厚とその家族を拘束する。ところが取り調べ中の2015年3月に徐才厚が病死したため、天文学的な横領資産の追跡も肝心の江沢民利権の切り崩しも「うやむや」になってしまった。

 そこで習近平は中央軍事委員会の組織変更に取り掛かり、2016年1月から武器や食料など各種利権の取り扱いを各人民解放軍から吸い上げて、中央軍事委員会の総装備部を分割・改組した装備発展部に集中させた。形の上では各種利権が中央軍事委員会主席である習近平の直接コントロール下となった。各人民解放軍の現場には「かなりの不満」が残ったはずである。

 また習近平は同時に各人民解放軍を瀋陽など7軍区から5戦区に再統合し、従来の陸軍、海軍、空軍に加えて核兵器・ミサイルを扱うロケット軍を新設した。ここで「大変に重要な」装備発展部とロケット軍のトップには、当然のように習近平が自分に近い幹部を登用した。

 設備発展部の初代部長は張又侠(ちょうようきょう、在任期間は改組前の総装備部長を入れると2012年7月から2017年8月まで)、その後任が李尚福(2017年8月から2022年10月まで)となる。

 両者とも習近平の信頼が大変に厚く、利権そのものである装備発展部長を長期間任されていた。もともと軍人ではない習近平は、中央軍事委員会にも人民解放軍にも信頼できる知己が少ない。

 さらに張又侠は2017年10月の共産党大会後に制服組トップである中央軍事委員会副主席に抜擢され、2022年10月の共産党大会後にも定年の68歳を過ぎているにもかかわらず再任されている。一方の李尚福も2023年3月に国務委員(副首相級)兼国防部長(国防大臣のこと)に抜擢される。

 ところが、である。

 まず7月31日にロケット軍司令官の李玉起と政治委員の徐忠波が同時に交代となった。現場トップの司令官とその行動を監視する政治委員(共産党員)の同時交代だけでなく、その後任となる王厚珷司令官は海軍、徐西盛政治委員は空軍から起用されたことは「極めて」異常事態である。

 また元ロケット軍司令官で、3月まで国防部長だった魏鳳和まで退任直後から動静が途絶えている。

 理由は明確にされていないが明らかに「汚職」である。2016年1月に習近平が新設した核兵器・ミサイルを扱う「大変に重要な」ロケット軍幹部まで腐敗していたことになるが、その後任をロケット軍から起用していない理由は、腐敗がロケット軍の幹部全体に蔓延していることを示す。

 さらに大きな問題が発覚する。

 3月に就任したばかりの李尚福国防部長の動静が8月29日以降「ぷっつり」と途絶える。9月13日に李尚福の装備発展部長時代の部下がいっぺんに8人も拘束され、李尚福も同時期の「汚職」について取り調べられていることになる。複数の米国政府関係者は14日に「李尚福は解任されて監視下にある」と伝えている。

 ここで極めて不可思議なことに、これだけ利権そのものである装備発展部には現場を監視する政治委員が「最初から」存在していない。それだけ「汚職のやりたい放題」だったことになる。

 この装備発展部も習近平の「肝いり」であるが、調査は李尚福が部長だった2017年8月以降に限定されているようで、今のところその前任者の張又侠には及んでいない。現職の中央軍事委員会副主席で唯一習近平に近い張又侠まで失脚となれば、中央軍事委員会あるいは人民解放軍全体に対する習近平の影響力が大いに弱体化するからである。しかし明らかなダブルスタンダードは習近平にとって「さらなる」マイナスとなる。

 ここで人民解放軍は実戦経験だけでなく、習近平に対する忠誠心も「ほとんど」ないことが改めて確認できた。これは国内的にも国際的にも習近平の立場が大いに弱体化する。しかしコトはもっと深刻である。

 そもそも人民解放軍の軍備は、2016年1月に習近平が各種変更を加える前でも後でも予算通りの金をかけずに大半が「汚職」で消えていることになり、結果的にポンコツか「張りぼて」ばかりの可能性が出てきた。

 これと直接関係があるかは不明であるが、8月20日に人民解放軍(海軍)が保有する攻撃型原子力潜水艦(商級。8隻が就航中のはず)の1隻が台湾海峡で事故を起こし、乗組員全員が死亡したはずである。もちろん中国側の発表は何もないが、日本の自衛隊の対潜哨戒機能は優れているため「ほとんどリアルタイム」で把握している。

 ロシアの原潜事故でも同じであるが、だいたい重大な放射能漏れを引き起こす。中国政府が日本の福島原発処理水の海中投棄に「過剰反応」している理由は、この原潜事故の放射能漏れを隠蔽する目的がある。また中国政府の過剰反応で中国市民がガイガーカウンターをネットで購入して測定しているが、台湾海峡の対岸地域で非常に高いレベルの放射能が検出されて大騒ぎとなっている。

 さらに「遼寧」に続く中国国産最初の空母である「福建」が、長く致命的な障害(滑走路に大きな穴が開いた)で姿を隠していたが、これも横領後の予算不足による手抜き工事の結果である。「復権」は最近になって大規模修理が完了したのか姿を現している。

 つまり人民解放軍の軍備の大半に問題がある可能性が出てくる。もし核兵器やミサイルまで欠陥品であれば、日本の地政的リスクは逆に上がってしまう。

 ところで同じ現職の国務委員(副首相級)兼務の閣僚といえば、李尚福の少し前に秦剛外交部長(外務大臣)が失脚している。2022年12月まで駐米大使を務め、やはり習近平のお気に入りだったが、こちらは愛人も含めたスパイ容疑らしい。

 秦剛は抜擢されたため外交部内で足を引っ張られた可能性もあるが、所詮は外務官僚に過ぎず習近平に代わって中国の外交政策を仕切るわけでもない。中国にとっても習近平にとっても、李尚福失脚のダメージの方が「はるかに」大きく、そこに張又侠まで加わると(未確認であるが最近姿を現していない)さらに深刻な事態となる。


その2  長期低迷に転じている人民元相場と習近平の政策ミス


 これは人民元が長期低下に転じているから不動産など中国経済に問題が出るという意味ではない。長期低迷に転じている人民元相場が中国経済の「外貨を呼び込む潜在的成長率の低下」を示しているにもかかわらず、相も変わらず高い経済成長と不動産市場の無限の拡大を目指しているため、若年失業率の急上昇や不動産市場のバブル崩壊懸といった「歪」が出てくるのである。

 その人民元相場と潜在成長率の転機は習近平体制となったばかりの2014年1月だったはずである。それでも最近までの習近平体制には、経済担当である李克強首相など「経済に強い幹部」がいたため、ある程度は対処が出来ていた。

 ところが3期目となった習近平体制には、その経済担当である首相に「習近平への忠誠心だけはあるものの、全く無能で経済部門の経験も全くない」李強が起用されただけでなく、経済に強い幹部が「ほとんど」いなくなってしまった、だから最近になって経済問題が急に吹き出している。だいたい中国の不動産市場とは、中国政府にとって「全くの不労所得」である土地使用権を裏付けに官民の信用創造を「これでもか」と積み上げたものであり、中国経済の潜在成長率と中国市民の不動産購入意欲が「無限に」拡大を続けることが前提となっている。

 中国の潜在成長率の転機が2014年1月だったとすれば、すでに9年が経過しており、さらに最近はコロナによる経済低迷に人口減少まで加わった結果が今日の不動産バブル崩壊懸念である。飛び交っている各種負債総額の数字はあまり信用できないので省くが、少なくとも「もう少し」早くブレーキを掛けて置くべきだった。

 そこで人民元相場である。

 中国政府は1994年に人民元の公定レートを「割安な貿易用為替」に鞘寄せて1ドル=5.8人民元から8.7人民元まで大幅に引き下げた。この水準は人民元の実力から見て「とんでもなく割安」であった。

 ちょうど日本経済が米国クリントン政権の激しい通商政策の結果、1995年の一時1ドル=79.75円の超円高に苦しんでいた時期で、逆に中国経済は「とんでもなく割安な」人民元レートの恩恵を受けていたことになる。

 そして香港が返還された1997年4月、中国政府は人民元レートを1ドル=8.28人民元に実質固定したまま2005年7月まで維持させる。依然として「とんでなく割安な」人民元レートは、中国経済にとって貿易収支の黒字と外国からの各種投資に伴う巨額の外貨流入をもたらした。さらに中国政府は流入する外貨を一元的に買い入れて見合いに大量の人民元を国内に供給し続け、未曾有の経済成長を実現する。

 さらに中国政府は2005年7月から人民元の対ドルレートを徐々に切り上げて人民元の「先高感」を盛り上げていく。リーマンショック直後は一時1ドル=6.82人民元で「固定」されていたが、そのまま2014年1月の1ドル=6.05人民元の最高値まで上昇を続ける。

 その間も中国への外貨流入(貿易黒字と海外からの各種投資)は加速したままで、外貨を一元的に買い入れる中国の外貨準備は1996年に1000億ドル、2001年に2000億ドル、2006年に1兆ドル、2009年2月に2兆ドル、2011年3月に3兆ドルと猛スピードで増加し、人民元の対ドルレートが最高値となった半年後の2014年6月に4兆ドル目前の史上最高額となる。

 ここまでは中国経済の成長期待と中国への投資意欲拡大が続き、それに人民元レートの先高感も加わって未曾有の外貨流入と、その見合いで国内に供給される潤沢な人民元との「好循環」も続いていた。

 そんな2014年1月に中国政府(習近平政権)は人民元の対ドルレートの上昇を止め、緩やかに下落させる。この時点の中国政府は「この辺で人民元の対ドルレートを緩やかに下落させれば中国輸出企業の業績も中国経済の成長もさらに加速するはず」と考えたはずである。正しくはないが、そう考えても無理はなかった。

 外貨流入は2014年6月まで増加していたため、その時点で人民元高による外貨流入スピードが鈍っていたわけではない。従って2014年1月に人民元の対ドルレート上昇を止めて緩やかに下落させる決定は、市場の潮目が変わったからではなく、習近平政権の「余計な政策変更」だったことになる。しかし後から考えるとこの2014年1月あるいは6月こそ「中国経済の転機」だったことになる。

 そこから中国経済が「きしみ始めて」現在に至る。2016年に入るとオフショア市場における人民元レートと中国株式が揃って下落する「中国ショック」に2度も見舞われる。そこに2016年6月の英国EU離脱など外的要因も加わり、人民元の対ドルレート同年12月には1ドル=6.96人民元まで下落する。

 ここで「もし」中国政府が2014年1月に人民元の対ドルレートの上昇を止めていなかったら中国経済はそのまま好調を維持していたかであるが、少なくとも世界経済が目に見えて減速に転じた2016年までは好調を維持していたはずで、2度の「中国ショック」はもっとマイルドなものに終わっていたような気がする。

 そういう意味では習近平政権の「余計な政策変更」だった可能性が強い。少なくとも中国経済のピークを2年早めてしまったと感じる。

 しかし習近平政権の最大の過ちは中国経済のピークを2年早めたことではなく、そこから9年も経過するのに中国経済とくに不動産市場の「拡大政策」を現在に至るまで修正していないことである。だから若年失業率が急上昇し(7月から発表を止めてしまったが、実際の数字は5割に達しているはず、恒大集団や碧桂園など不動産開発大手が軒並み実質破綻状態となるが、中国内の混乱を避けるため破綻させられないだけである。

 2016年以降の人民元の対ドルレートは、上下しながらもトレンドは下落しており、直近は1ドル=7.3人民元前後の値動きとなっている。リーマンショック前の水準まで「後戻り」している。しかし不思議なことに中国の外貨準備は直近でも3兆3000億ドル前後を維持しているが、中国全体の米国債保有残高はピークだった2013年9月の1兆3000億ドルが直近では8600億ドル台まで減っている。

 中国の現在の外貨準備高は信用できない。新興国への外貨貸付けなど不良債権化している残高を額面のまま計上しても、そんな数字にならない。また外貨準備が激減しているなら、その見合いの国内信用創造も激減しなければならない。そこは預金準備率をピークとなった2011年11月の21%から直近の平均7.6%まで低下させているため、イメージ的には辻褄が合う。

 しかしこれは人民元の「質」を低下させていることに外ならない。人民元の裏付けとなる基軸通貨である米ドルの割合が、ピークの3分の1になっているからである。

 最後に、それに関連して1990年代以降の中国政府通貨政策の「本当のメリット」を付け加えておく。

 通貨を基軸通貨である米ドルに「固定」している香港ドルという「お手本」があったため、中国政府はその仕組みのメリットだけを取り込んだまま現在に至る。

 香港ドルは長年1ドル=7.8香港ドル(途中から7.75~7.8香港ドルのレンジ内)で固定されているため、HSBCなど香港ドル発券銀行は必ず見合いの米ドルを香港通貨庁に預託し、同時に香港ドルの対ドルレートがレンジを外れそうになると無制限に介入してレンジ内に維持させる義務がある。

また香港の政策金利も必ずFRBの政策金利上限の0.25%上に連動される。こうすることによって香港ドルは米ドルと同等の価値を保ち、常に香港のインフレ率や不動産価格の上昇率が米国より高いものの、他の新興国通貨のように香港ドルが米ドルに対して下落することがなく、結果的に香港経済は不動産を中心に長期・安定的な成長を遂げてきた。

 中国の人民元は香港ドルのような「縛り」が必要なく、しかし人民元は米ドルと同等の、あるいは米ドル以上の先高感があるとされ、やはり未曾有の経済成長を遂げてきた。少なくとも2014年1月あるいは6月まではその通りだった。

 ここで旧ソ連時代のルーブルは、おおむね米ドルと等価だった。流動性は怪しいものの1ドル=1ルーブル前後だった。しかしルーブルは米ドルと連動していないため、ソ連邦崩壊後の猛烈なインフレで1997年には1ドル=6000ルーブルまで下落してしまった。ロシア経済には外貨準備もありドルで取引される原油など資源も豊富だったので、ロシア経済がドル換算で旧ソ連時代の6000分の1となったわけではないが、それでもドル換算のロシア経済は大幅に縮小してしまった。

 1998年にロシアは1000分の1のデノミを実行するが、エリツィン政権時代にオリガルヒが石油や天然ガスなど基幹産業をタダ同然で取得した上、海外法人としてロシア国内の課税を逃れたため、ロシア経済は一時デフォルトに追い込まれデノミ後のルーブルがさらに急落してしまう。

 2000年になるとプーチン政権となってオリガルヒを徹底的に追いつめるが、その後もクリミア併合やウクライナ侵攻に伴う経済制裁で直近のルーブル(デノミ後)の対ドル相場は、1ドル=100ルーブルに近い。つまりルーブルは旧ソ連時代の10万分の1になっている。

 これはロシア経済が旧ソ連時代の10万分の1となった為替レートで換算されるという意味ではないが、ドル建てで換算した現在のロシア経済規模は韓国と変わらない。

 一方で中国は1990年代以降、香港ドルを米ドルに固定する香港経済のメリットだけを取り込んできたため、人民元の価値も信用も米ドルと変わらず、2014年以降はその「綻び」も目立つが2022年の名目GDPは18兆ドルと、米国の25.5兆ドルに次ぐ規模となっている。

 この中国経済とロシア経済の差は、通貨を米ドルに連動させていたか、いなかったかの違いでしかない。

 そこで現時点で習近平が考える中国の通貨政策とは何か?

 米国から半導体等の貿易制限を受けていることもあるが、基本的には人民元の通貨圏を拡大させようとしている。つまり人民元と米ドルの関連を断ち切ろうとさえ考えている。

 これこそ習近平の「大間違い」となる。

 これまでの米ドルに連動するメリットを享受してきた人民元を、新たな通貨圏の中心となっても「価値がこれから大幅に減価する」ことになり、ここからの中国経済はドル換算で大幅に縮むことになる。

 習近平はBRICSにサウジアラビア、イラン、UAEなど中東産油国を加盟させ、米ドルが独占する原油決済資金をロシアも含めて人民元に誘導しようと考えているが、中東産油国が原油の米ドル決済を減らすことはない。つまり人民元の価値を一方的に下落させるだけである。

 中国の今後の経済問題については、経済の専門家がいなくなった習近平が今後も政策ミスを続けるかどうかにかかっている。