広義の円キャリートレード解消は「これから」本格化する(急報)
広義の円キャリートレード解消は「これから」本格化する(急報)
8月5日にドル円が一時1ドル=141.66円まで反発し、日経平均(終値、以下同じ)が史上最大の4451円安の31458円となり、世界の株式市場をリードする米ハイテク株が集まるNASDAQ総合指数も8月7日に16195ポイントまで急落した。
ドル円は7月3日の一時1ドル=161.95円と1986年12月以来の円安となった水準から12.5%反発し、日経平均も7月11日の史上最高値となった42224円から25.5%の急落となり、NASDAQ総合指数も7月10日の史上最高値となった18647ポイントから13.2%下落した。
その背景は米国経済にインフレ鎮静化と雇用情勢悪化の兆候が目立つようになり(いよいよ)FRBの利下げ開始が近づいたとして、史上最高水準まで積み上がっていた円キャリートレードが一気に解消された(損切りされた)からと説明されている。
確かに間違いではないが、それはレバレッジが掛かった(評価損の急拡大で多額の追加保証金が必要となり反対決済を余儀なくされた)狭義の円キャリートレードが中心の話である。それでも円の売りポジションが急激に買い戻され(ドル買いポジションが急激に売却され)、そのドル資金で取得されていたドル資産が米ハイテク株を中心に急激に売却されたことは事実である。
日本株の下落幅がより大きかった理由は、円売り・日本株買いのポジションも「結構」積み上がっていたからである。
実際そこからドル円は8月15日に一時1ドル=149.38円まで、日経平均は9月3日に38686円まで、NASDAQ総合指数は8月21日に17918ポイントまで、それぞれ回復(反発)している。急落幅の大きかった日経平均の回復(反発)が最も大きい。
つまり金融市場では、まだまだ従来の円安・ドル高や株高に回帰すると想定していたことになる。
しかし「ここにきて」米国経済が目に見えて減速し、ようやくFRBの利下げ開始も確定的となったため、金融市場を取り巻く環境(とくに市場心理)が変化し始めている。問題は市場心理の変化の方が「常に」遅れることである。
それでも「いよいよ」根雪のように積み上がっていた広義のキャリートレードが解消に向かうはずであるが、その動きは非常にゆっくりとしたものから徐々に大きくなっていくはずである。
その程度によっては米国だけでなく世界の金融市場や実態経済へのダメージが「想像もつかなかったほど」大きくなる。そうなると日銀が利上げモードに入ってしまっている日本経済へのダメージは「さらに」大きくなる。
ここで重要なポイントが2つある。
1つは、これまでのFRBは利上げを続けてきたにも関わらず米国経済も企業業績も「想定以上に」好調で、結果的に(コロナ対策で未曾有の量的緩和を行った影響が残っていることもあり)株式市場は上昇を続け、インフレも高止まったままで、FRBは利下げに踏み切れなかった。
もし「この段階」でFRBが利下げに踏み切っていれば、確かに米国経済も企業業績も「さらに」好調となり、株式市場も「一段と」上昇したはずである。その代わりにインフレも再加速して早晩の再利上げに追い込まれるはずであるが、2023年の後半以降は、たまに弱い経済指標が出てくると「すわ、利下げ」となり、また株式市場が上昇する状況が繰り返されてきた。
それを見て日本など世界の株式市場も上昇し、日銀は日本経済まで好調であると思い込んでしまい2024年3月にマイナス金利もYCCも解消し、同7月には政策金利を0.25%まで引き上げ(すでに2008年11月以来の「高金利」である)、まだまだ利上げすると意気込んでいる。
ここにきてFRBは「やっと」利下げに踏み切る。その背景はFRBが雇用情勢の想定以上の悪化を認識したからである。8月21日に米労働省が2024年3月時点の雇用者数を81.8万人も下方修正すると公表しており(単純な集計ミスで大統領選後の2025年1月から反映されるらしい)、その修正前でも7月の失業率は4.3%と1年前の3.4%から大きく悪化していた。
先週末(9月6日)発表の8月雇用統計では失業率は4.2%となっていたが、雇用者数は前月比14.2万人増と予想を「さらに」下回っており、同日のNY株式は急落しNASDAQ総合指数は16690ポイントと8月7日の16195ポイントに再度接近している。
FRBの金融政策の目標はインフレと雇用の安定であるが、インフレの高止まりを気にするあまり雇用への注目が「おろそか」になっていた。大統領選直前であることや労働省の集計ミスを差し引いても「明らかに」利下げ開始が遅れたことになる。
雇用情勢が悪化すれば当然に個人消費が落ち込み米国経済が減速し、インフレも自然に鎮静化する。ここからはFRBの利下げペースより常に先行して米国経済が減速することになる。また2022年3月から続いていた米2年国債と10年国債の利回り逆転も「いつの間にか」解消している。これも米国経済の減速を強く示唆しており、当然にドルは下落に向かい株式市場も下落する。
つまりここ1~2週間の間に、米国の経済活動と金融市場を巡る環境(とくに市場心理)が急変しているが、それでも常に市場心理の変化は遅れるものである。
1つ目の説明がずいぶん長くなってしまったが、もう1つは広義の円キャリートレードとは何か?である。
わかりやすく言えば、日常の経済活動や投資活動の中で「つい」積み上げ過ぎていたドルや米国株そして日本株のポジションのことで、しかもドル安や株安となればなるほど解消しなければならないポジションが増えてくる「厄介な」ものである。
そんな広義の円キャリートレード解消は「まさに」始まったばかりで、市場心理の変化は常に遅れるものであるため、これからますます解消が加速していくことになる。
本日(9月9日)朝方の日経平均は1100円を超えて下落していたが、前場終了時点では778円安の35613円と「多少」反発している。また先週末のNY終値で1ドル=142.25円となっていたドル円も、同時点で1ドル=142.80円とやはり「多少」円安に戻っている。
東京市場における市場心理は、まだまだ認識不足のようである。
最後にもう1つ付け加えておきたい。実は狭義でも広義でもキャリートレードの解消は円だけではなく人民元でも始まっている。その結果(もともと)中国経済の実態に比べれば高止まりしていた人民元の水準が「さらに」切り上がってきている。
これはすでに相当悲惨である中国経済の足を「さらに」引っ張ることになり、合わせて注目しておくべきである。