短い感想文「カディスの赤い星」逢坂剛
kindleの定額読み放題kindleunlimitedで、20年前に本屋で文庫本を買おうか迷っていた、逢坂剛の「カディスの赤い星」上下2巻が出ていたので、早速借りてみました。20年前の私はヨーロッパに強く惹かれていて、スペインを舞台にした、このミステリーが気になったのでしょう。癖のある赤ワインを求めるように、いやヨーロッパの秘密ががっつりわかるのではと思ったのですが。文庫本2冊だと高い!いやもっと読みたい本があったので、売り場で何度も手に取りましたが、棚に戻してしまいました。それから興味も好みも変わってしまい、いい加減忘れていたのですが、kindleunlimitedに出ていたので、上下2冊とも借りて、一挙に読んでしまいまったのでござい。
私はミステリーを、犯人捜し・推理として読むことができません。物語として流れるままに読みます。小説の風俗描写を楽しみ、文体の出来不出来で愛好できるかどうか決めてしまう読者です。
20世紀流の、マイナー沼への引き込み方。これが読後に感じたことです。舞台となっている1975年と令和の今では、風俗も恋愛観も変わっています、当然です。カップルデートで銀座のホステスのいるクラブに行くのは、バブル時代を知っている私でさえ、終わったしまった文化ででした。そんなことより、当時も今もあまりメジャーな興味ではない、スペインそれに輪をかけてマイナーな、スペインギターを題材にしてよく読者を飽きさせずに、深みに引き込むと思いました。スパニッシュ音楽がテーマですが、フラメンコダンサーや歌手には触れませんでした。元ダンサーの女性も登場人物にいるのですが、ライブのシーンでも、ギターにスポットライトが当たります。ギターのソロ演奏を描写しているように読めてしまいます。フリルドレスをはためかせる踊り子が傍にいる筈なんですがねー。踊り子もシンガーも脇において、丁寧に描写するのがギターと、天才的なギタリスト。この筋立ては謎の日本人ギタリストを探す話なんです。ちょっと気になったのが、スペイン通の主人公と日・西のプロのギタリストやら見巧者のする、ギタリストの評価が同じなのです。ゲームでゆうところレベル評価が誰が評価しても同じ。謎の若手ギタリストが、日本のスパニッシュレストランでもマドリットのライブハウスでも、気まぐれで舞台に立ってもオーナーが許すぐらいの天才で。駄目なギタリストは主人公が評価しても他の登場人物の意見と同じ。リアルじゃありえないだろう。受け手の好悪も入るし超絶技巧の評価が低めの人もいると思います。誰もが同じように絶賛し貶すことは、これはこれで分かり易い。考えずに読み進めます。
1986年に単行本出版になって直ぐ後位から、フラメンコブームが日本に来ました。バルセロナオリンピックがあり、丁度イギリス・フランス・イタリア以外のヨーロッパを日本が知りたがりはじめた頃でした。急にフラメンコを習い出す人が私の周りにもいました。「カディスの赤い星」は時代のブームを作り出した小説です。今で云うところの、スペイン音楽"沼”に多くの人を引きずり込んだのです。
私は室町の歴史が好きで研修者の本を読んだり、室町史のYouTubeが好きです。織田信長出現以前の近畿戦国史なんて、教科書では抹殺されているので、本当にマイナーなんです。これはオタクの世界で私には一種清々しい世界です。20代の若者がYouTubeを作っている真摯な態度が好きです。でもオタク特有の異性に対する"もて”を諦め、格好悪いことキモイ底辺から1ミリも浮上しないのです。イイ男になりたくないのかなオタクの皆さん。
昭和の頃の沼への誘いは、長身長髪の男が華麗な指さばきでギターを奏で、初心なスぺイン娘を目だけで落とすのだ。広告業界の主人公は夜な夜な赤坂六本木のスパニッシュレストランにフラメンコのライブハウスに、銀座のクラブに出没、そして動乱のスペインへ。アクションシーンも多数。引き込む引き込む。
洒落男は素寒貧だろうが腕っぷしが無かろうが、格好つけて大地に立つ。優男金と力は無かりけり。伊達者は見た目も生き方も頑張る・・・暫らく見てないな。