布団の中
通勤通学の時間に布団の中にいる。
最近はBBAにふさわしく早朝覚醒するようになったのに、今朝は珍しく遅く目覚めた。
子供らがランドセルかちゃかちゃ鳴らして、おしゃべりしながら学校に行く。
引っ越してきた当初、この町に子供はいなかった。
古いアパートや住宅が取り壊され、小さな建売住宅がいくつも作られた。
そして若い家族のコミニュティが出来て子供も増えた。
この時期はハロウィンのお化けごっこなどもやるらしい。
アパート住まいのBBAは窓からちょいと眺めるだけである。
「トリック・オア・トリート!」
とか来られても困るし。
朝ともなれば子供らが集団登校して行く。
そして私はそれをベッドの中で聞いている。
自堕落なことある。
昔はよく会社に行けなくなった。
布団の中でこういう通勤通学の人々の足音や話し声を聞いては、自責の念で身動きとれなくなっていた。
今頃みんなちゃんと働いているのに、出勤できない私は駄目な人間だ……と自分を責めに責めて落ち込んで、なおさら会社に行けなくなった。
行かなくちゃ……と身支度して玄関で靴を履く段になって動けなくなることもよくあった。
自助グループで引きこもりの人の話を聞けば、玄関先で止まってしまう人は案外に多い。
一歩踏み出してドアを開ける。
それが出来ない。
玄関の暗闇にぼんやりうずくまって、近所の学校で始業チャイムが鳴るのを耳にする絶望の極致。
「休んでもいいから電話だけでもしなさい」
と毎回言われた。
「体調が悪いので休みます」
なんて電話できるのは10回に1回ぐらい。
それが出来ればとっくに会社に行っている。
そもそも人に会いたくないし話したくないのだ。
そうして無断欠勤を繰り返すうちに会社に行きづらくなって辞める。
会社を転々とする。
しまいには会社の人が家にやって来て、自分の部屋で退職届を書かされたことまであった。
最低だな自分。
でもね。
今なら言える。
そこまで追い詰められていたんだよ私は。
何がって………それ、一言で説明出来るぐらいならとうに会社にいっている。
会社とか仕事とかじゃなかった多分。
私は駄目な人間でなきゃいけなかった。
うん。
そうなんだ。
駄目人間であることを家族一同から強いられてきた。
それで成り立っている機能不全家族だったから。
(家族がそれを聞けばさぞ白い目で見たことだろう。
私はいよいよ人非人である。
だから何も言えずに出口のない闇を手探りで歩き回るだけだった。
家の中に出口などありはしないのに)
今は………まあ、通勤通学のざわめきを平気でベッドの中で聞いていられる。
だって私はBBAだもん。
年金もらう年だもん。
え?
同年代でまだ現役の人も多い?
よそはよそ、うちはうち!
いいんだもん。
と、寝転がって朝食は何にしようと考えている。
六時炊き上がりにセットした炊飯器はとうにご飯は炊き上げて、いい香りを漂わせている。
さてさて。
どっとはらい。