「ローカルメディアのあるまち」の価値とは|鎌田淳さん(森ノオト理事)
森ノオトにかかわる人たちの声を聞きながら、ローカルメディアのあるまちの現在地を描くインタビュー企画。鎌田淳さんは2021年から森ノオトの理事として、法人の経営にアドバイスをくださっています。本業では、NPO等の非営利組織を対象にファンドレイジングの支援や社会的インパクトマネジメントを事業に組み込むことのコンサルティングをしている鎌田さん。「ローカルメディアのあるまち」というキーワードの生みの親でもある鎌田さんから見た、森ノオトの価値とは。(聞き手:北原まどか)
森ノオトは真面目でフラットな団体
——鎌田さんに森ノオトの理事をお願いすることになったきっかけは、「鴨志田」つながりなんですよね。鎌田さんが社会起業家支援の仕事をされている時に知り合って、「実は青葉区在住なんですよ」という話から、森ノオトの拠点のある鴨志田町にお住まいだと聞いて、縁を感じていました。2021年度より森ノオトの理事会を刷新していくにあたり、これ以上ない適任者だと思い、突然メッセンジャーで連絡をとって口説き落としました(笑)。
元々森ノオトのことを地力のあるNPOだなと見ていたんですが、理事になってみて、団体としてすごく健全だな、と思いました。北原さんのリーダーシップだけでなく、現場のスタッフのみなさんが自分で考えて行動していて、マネジメントも押し付け型ではなく自発的な考えを尊重し、フラットに議論の俎上(そじょう)に上げている。理事会も、忌憚なき意見を言っても、きちんと吸い上げて現場での実践に落とし込み、きちんと形にしているのがわかるので、とても面白いです。理事会のメンバーの専門領域も皆さんバラバラで、活発に意見が交わされるので、事務局長の宇都宮さんなど、主要メンバーの刺激にも多少はなっているのかな、と思います。
——鎌田さんは非営利組織のコンサルタントとして、全国のNPO等の中長期計画立案のサポートや、ファンドレイジング支援、社会的インパクトマネジメントの導入のコンサルティングに従事されていて、まさに今の森ノオトに必要な専門性をお持ちです。2021年から2022年にかけては、宇都宮と、編集長の梶田と一緒に、ファンドレイジングチームの立ち上げにも関わってくださいました。
私はメディアのプロではないので、「ローカルメディアのあるまち」と、そうでないまちで、何が違うのか?という素朴な疑問がありました。私のそうした声に、皆さんは一生懸命キャッチアップして、森ノオトのライターさんと森ノオトの価値を言語化するワークショップをやったり、森ノオトと関わりのある地域の人の声から森ノオトの価値を発信するnoteを始めるなど、何事も真摯に取り組んでくれました。
より地域に密着して、よりローカルなメディアに。
——それが今、このnoteの形になって、鎌田さんをインタビューしているわけです(笑)。鎌田さんは森ノオトの理事になってこの2年、地域の見え方が変わってきたりしましたか?
私の仕事の多くは、非営利組織の伴走支援をしながら戦略立案に関わったり、ファンドレイザーとして組織の価値を抽出するワークショップを実施するなど、非営利組織の支援が主となっています。また、社会的インパクトマネジメントもサービス領域としていて、財団のプログラムオフィサーとして助成プログラムの進行管理や決定した助成先の伴走支援をしています。仕事先は全国あちこちなので、実はこれまで自分が住んでいる地元・ローカルにはあまり目を向けてこなかったのが実情です。しかし、コロナ禍でリモートワーク主体になり、また2021年から森ノオトの理事になったこともあり、少しずつ地域の見え方が変わってきました。
私は鴨志田に住んで20年近くになり、まちを歩いていると、今まで気づかなかったような発見があったり、逆に建物を取り壊しているものを見ていると次はどうなるのかな、と、地域の変遷を感じます。地元のお店やお弁当屋さんなど、このまちにはいいところがたくさんあるなあ、と改めて気づきました。
—— 鴨志田エリアは、意外とグルメの穴場スポットなんですよ。森ノオトでは寺家・鴨志田エリアのお店情報はだいたい網羅しています(笑)。
森ノオトを見ていると、活動エリアが広がりつつあるから、逆に「どこの団体なんだろう?」ってパラパラしているようにも見えます。青葉区といっても広く、美しが丘と青葉台方面では全然違うし、ローカルの範囲はもっと小さく、鴨志田とかに特化してもいいのかなと思います。その積み上げで、いっぱいローカルを作っていくと面白い。そう考えると、逆に可能性は広がっていきますよね。
森ノオトはお子さんを育てながら働いているスタッフが多く、皆さん輝いているので、「自分らしく働きたいんだけど、子どもがいてなかなか一歩を踏み出せない」という女性のよいモデルになっていると思います。
このnoteでは、取材先やサポーターの声が多く紹介されていますが、森ノオトで実際に働いている人のリアルな声を聞けるといいな、と思っています。森ノオトに関わったら、仕事と家庭だけではない、もう一つの別のコミュニティとして接点を持てるよ、人生が豊かになるよ、そんなモデルケースになれるのではないかなと。
——実際に梶田や理事の島原も、住まいを森ノオトの近くに移していますしね。森ノオトがきっかけかどうかはわかりませんが、業務委託スタッフやライターさんでも、青葉台や鴨志田エリアに住まいを移した人が何人かいるので、暮らしの起点に「コミュニティ」があるってことは、結構重要なことなのかもしれません。
特にこれからの時代は、地域コミュニティの中で、世代を超えてつながるきっかけづくりが大切だと思います。私の同居している親や、近隣世帯が高齢なので、そこだけ見ていると高齢化の波がすごく押し寄せているように感じるのですが、もう少し広い目で見ると鴨志田エリアでもしっかりとニューファミリーが移り住んできていたり、子どもが戻ってきて二世帯住宅に建て替えたりしています。高齢化の進展は青葉区全体を見ても、日本全国どこでも共通の課題ですが、足元の地域を見ていくと人の入れ替わりがあって、決して衰退するだけのまちではない。そんな時に、森ノオトが鴨志田というエリアに密着して、メディアだけでなく、具体的に地域コミュニティの中で「ハブ」の役割を果たせるのではないかと期待しています。
青葉区から寄付文化を醸成していくには
——森ノオトは今、法人設立10周年の節目に、「寄付で運営するローカルメディア」のモデルを目指して、バースデードネーションに挑戦しています。でも、実はなかなか苦戦していて。「寄付によって困っている人を助けたいので寄付してください」みたいな課題解決型ではなく、「地域の持続可能な未来をつくっていきたいからその資金が必要」という価値創造型のNPOなので、寄付を募る言葉に苦労しているのが正直なところです。
ファンドレイザーとして言うのも変なのですが、寄付者って奇特な人ですよ(笑)。活動を応援する=お金を払うという行為に対して、対価を求めないのですから。世の中は対価性のあるものであふれているので、寄付してくださる方は良い意味で本当に奇特だと思います。寄付は「応援のしるし」として、本当にありがたいですよね。
一度寄付してくれた方はファンになってくれたという位置付けになるので、その先はファンの度合いをもっと高めて、コアなファンになっていただく。これが継続寄付につながると、寄付のボリュームが如実に増えていくイメージになります。そのためにはコミュニケーションが欠かせないので、団体の中でもファンドレイザーの役割は重要になってきます。
まずは、すでに懇意にしている方に、団体の価値をしっかり伝えて、ファンになっていただくことが大切です。
そのうえで、法人寄付者を増やしていくために、特に企業の方とは綿密なコミュニケーションをとりながら、社員一丸となってファンの度合いを上げていただくような取り組みができるといいですね。
—— 寄付についてはまだまだ道半ばですが、鎌田さんのアドバイスを参考にしながら、とにかく身近なところから地道なコミュニケーションをとって、ファンの度合いを高めていきたいと思います。これからもよろしくお願いします!