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まちと地元の農業をくっつける。人を記事にして、地産地消を地域に広めた森ノオト|林英史さん(取材先・イベント協力)

森ノオトにかかわる人たちの声を聞きながら、ローカルメディアのあるまちの現在を描いていくインタビュー企画。12回目は、横浜市青葉区で農業を営む「はやし農園」の林英史さんです。森ノオトが活動を始めたばかりの頃から交流を深め、「あおばを食べる収穫祭」や「いいかも市」など、森ノオトの地産地消イベントになくてはならない存在の林さん。そんな林さんに、編集部スタッフの佐藤がお話を伺いました。

——森ノオトに初めて林さんが登場するのは、2011年に北原(現・森ノオト理事長)が取材した記事ですね。林さんと森ノオトのかかわりはその取材から始まったのですか?
 
当時藤が丘にある自然食品店「マザーズ」に野菜を卸していて、そこに「変わった農家さんがいる」と北原さんが取材に来てくれたんです。今でこそ横浜が都市近郊農業に適した場所と認識されてきましたが、その頃はまだまだ横浜の農業は知名度が低かったし、地産地消にも光が当たっていなかった。私もこの地域で農業を始めたての頃で、森ノオトはそんな時から私たちの理解者といった感じで心強かったです。

 

林さんには2011年と2017年の2回森ノオトが取材しています。写真は2回目の取材記事。林さんは2010年から新規就農し、現在鴨志田町の畑、寺家町の田んぼを耕しています。鴨志田町の郵便局など近隣の軒先で直売スタイルで野菜を売り、農業を営まれています

——私は「いいかも市」でいつも林さんの野菜を楽しみにしているんです。とってもおいしいし、“横浜の知っている農家さんの野菜”を食べることがうれしくもあります。
 
あれから10年以上経って、地産地消の情報がずいぶん地域に行き渡ったなあと感じています。森ノオトは人を記事にするから、読むことでその農家がどんな農業をしてきて、今どうなっているのかが分かる。それは発信してこそ伝わることだから、森ノオトってまちと地元の農業をくっつける存在ですよね。

 

林さんには取材記事のほか、月の始めに毎月掲載しているマルシェ情報記事にいつも登場していただき、森ノオトになくてはならない存在です

——はやし農園さんのSNSは田畑や野菜の様子がタイムリーに発信されていて、おいしそう〜とか、日照りで大丈夫かな……とか、つい気持ちを入れて見てしまいます。先日は紙面でも通信を発行しているのを見かけました。林さんは発信に力を入れられているのですか?
 
紙面での通信は、直売でお客さんに配っているんです。農業の中で起こる、さまざまなことを書いたら面白いんじゃないかっていうのがきっかけで。「農業って大変なんだよ」、だけでは伝わらないことを言葉にしておこうと思ったんです。
 
森ノオトの姿勢というか、ものを見る視点は参考にしていますね。森ノオトの市民ライターさんの記事のように、私も“始めたばかり”の視点を大切に農業のことを伝えていきたい。農家発の情報がなかなか少ないなかで、ブログやSNSを使って伝えていくことの大切さを日々感じていて、森ノオトを見て刺激を受けながら私も発信を続けていこうと思っています。


林さんが定期的に発行されている通信『牛はのろのろと』。農園の“今”や、うんともすんともいかないことも発信しています。通信を読むと林さんが農業に真摯に向き合う姿や自然と付き合う柔軟な考え方、作物へ向けられる愛情……林さんの誠実なお人柄がじんわりと伝わってきます。私たちに届く野菜はこんな風に育てられたのかと、じっくり読んでしまいました

——林さんは2013年から森ノオトが藤が丘駅前で開催している「あおばを食べる収穫祭」に、第1回から参加されているそうですね。第8回となった昨年は大雨だったにもかかわらず、たくさんのお客さんでにぎわって、初参加だった私は本当に驚きました。林さんはじめ、地域の出店者さんも悪天候の中すごいな……と。林さんにとって収穫祭はどのような場なのでしょうか?
 
横浜北部の野菜が「こういうものだ」というものを示せて、その年にとれたいいものを食べてもらえる大事な場ですね。地域のお店や商店街、農家があんなにも一堂に会するイベントもなかなかないんじゃないかなと思います。地産地消に関する、地域のビッグイベントですよね。第1回から比べると出店者も増えて、時間をかけて大きくなったと思います。前回のあおばを食べる収穫祭も、びしょ濡れになりながらみんな一生懸命にやって。森ノオトにはそういうことに熱意を持った人がどんどん集まってきましたね。


森ノオトが11月に藤が丘駅前公園で開催している地産地消マルシェ「あおばを食べる収穫祭」。昨年は大雨、コロナ禍が始まった2020年はウェブ上での開催となるなど、何度も開催が危ぶまれる場面がありましたが、林さんはいつも出店に協力してくださいました。写真は2020年のウェブ収穫祭にて掲載したはやし農園の鴨志田郵便局前の直売の様子

——森ノオトが地域にあることで、林さんには何か変化がありましたか?
 
もし森ノオトがなかったら、今とはずいぶん違ったかもしれませんね。私は直売や軒先販売を軸に農業を営んでいるけど、そういうスタイルにはならなかったかもしれない。森ノオトをきっかけにまちとつながって、地産地消に興味がある人が地域にいるんだってことを知れた。それは(マルシェなどの)単発のイベントだけでなくて普段から、関心の近い人が集まれる場が森ノオト経由であったからつながれたんだと思います。今の形になるのに、森ノオトの存在は大きいですね。

森ノオトはこのカモジケ界隈(鴨志田町や寺家町周辺)に拠点を構えて活動してきて、どんどん「このまちの団体だから」という地域からの信頼が深まってきているはず。私たちはこれからも地域といっしょに成長していきたいですね。


(おわりに)
いいかも市ではやし農園の野菜を購入し、初めて口にした時の感動は今もよく覚えています。そのおいしさは食卓に出した時の家族の反応からも明らかで、「横浜の野菜ってこんなにおいしいんだ!」と、私が横浜の農業に目を向けたきっかけは、間違いなくあの一口でした。
 
“発信”への林さんの思いを聞いた時、地域に光を当て言葉に残すことの意味に私の心は揺さぶられました。価値あるものや取り組みを、大変な部分まで丸ごと向き合い続けて発信し地域に浸透させていく。林さんや森ノオトが取り組んできた発信は、すぐに結果が出ない、根気のいる挑戦です。
そんな挑戦はきっと、目指す方向が同じ仲間が近くにいるからこそ続けられることなのかもしれない。森ノオトがローカルメディアとして産声を上げると同じ時期に、林さんが新規就農者として身近な場所で土を耕し続けてくれたからこそ、森ノオトは森ノオトらしく、地産地消の発信を続けてこれたんだ。インタビューを聞きながら、私はこれまでの森ノオトの10年に思いを馳せました。そしてそのつながりは今、私の背中もそっと押してくれているように感じられました。
 
(文・佐藤沙織)

この連載は森ノオトのNPO法人設立10周年の今年、「ローカルメディアのあるまちづくり」を、森ノオトにかかわる人たちの言葉を通じて描いていく企画です。
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